第3章 魔界 35話 ゼンという人物
「.....................」
ゼンは作業している。だが、無言であった。疲労なんて軽い言葉では決して表すことが出来ないほどに.......。
しかし、ここまで精神が保っていられるのはダンとガレオのおかげであった。ガレオは四天王ということもあり前線に行っていることが多いが、それでも暇さえあれば全力でゼンを支えていた。一方ダンは魔族医師であるため戦場から運ばれる患者の治療で相当忙しいにも関わらず、それでも寝る間を惜しんでゼンに全面的に協力していた。この2人の協力がゼンにとっては最大限の力となった。
無洗米になった仙王米をスライムゼリーとともに大きなフラスコの中に入れた。その際に加熱をするのだが弱火で数日の間、回し続けなければならない。本来の体力があるのならば容易にできるかもしれない。しかし、今のゼンには容易にできるものですら最大の苦悩になってしまうのだ。ましては本来のフラスコとは大きさのスケールが桁違いのものである。材料の重量もフラスコの大きさに比例して桁違いであるため、さらにゼンを追い込んだ。
それでもゼンはひたすら手を動かし続けた。目に光は消え、何をしているのかゼン自身ですら分かっていないのではないのかと疑いたくなるくらいの表情でもあった。
それでもゼンは動かし続けた。
日数が過ぎていく。
運ばれてくる患者が多くなってくる。
また日数が過ぎていく。
ゼンは何度か血を吐いてしまった。
それでもゼンはひたすら動かし続けた。
◇
「ゼンー! やっと落ち着いたからもど...........て」
ガレオは途中で言葉を自ら遮ってしまった。それほどまでに異様な光景が目に入ってしまったのだ。
「おいっ! 大丈夫なのか!!??」
地面に多くの血が散乱し、口、鼻、耳、眼、そんな人の重要な器官からも流していたゼンの姿を捕らえたのだ。
そんな悲惨な状況にも関わず、ゼンの手だけは止まっていなかった。まるで機械化のように.......。
「おい! 生きてるのか!!?? 待ってろ、今ダンを呼んでくる!!」
そう言い残し、ガレオはダンを呼びに研究室から出た。
◇
「ゼンさん! これは酷い......」
ダンはゼンの惨状を目の当たりにしてそう言った。それはそうであろう、血を流している目の焦点は合わず、目の輝きも失われ、アンデットのように皮膚が変色をし、異臭すら放っている。それでも何かに捕らわれたかのように手だけを動かし続けているこの異様な光景。
【初級回復魔法】
ダンがそう詠唱すると、ゼンの流れていた血が止まった。ただこれは一時的な応急処置に過ぎない。このまま同じように無理をすれば同じことを繰り返してしまうだけだ。
「しばらく休ませよう」
「そうしましょう」
ガレオとダンの意見が一致し、ゼンを休ませようと持ち場から離そうとしたときであった。
「ま、だ.....だい、じ..よ、、ぶ...」
今にも消え入りそうな声で呟いた。ガレオとダンは、その声は非常に弱い灯であるが、なぜか煉獄のような強い灯にも感じた。
ゼンの意志を無駄にするのか? それともゼンの体の安全を考えてやめさせるのか? この究極な選択がガレオとダンを心底悩ませた。
しかし、ゼンが再び言葉を紡ぎだした。
「———————————————————————————」
「「.......っ!」」
この言葉がガレオとダンを動かした。
そして、再度実感した。
ゼンという人物を.......。
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