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第3章 魔界 29話 開始

三本連続での投稿です

「お前さんがここに配属されたヒト族か?」


 ゼンは不意に後ろから声をかけられた。


「は、はい」


「お前さんはこれを見てどう思う?」


 唐突の質問にゼンは少しだけ戸惑ってしまったが、自分が思っていることをゆっくりと導き出した。


「酷い状況だと思います。戦争というものをこの惨状を見て身に沁みました」


「そうか」


 魔族の医師はそれ以上何も言わず、ゼンを持ち場へと案内した。


「ここがお前さんの持ち場だ」


「ありがとうございます、魔族さん」


「魔族さんはやめてくれ、ダンや」


「ゼンです」


 ダンという魔族の医師はゼンに握手を求めてきた。ゼンはすかさず握手をした。


 ダンは魔王みたいな角は生えておらず、全身が岩石で覆われている魔族であった。


「では、治療を始めます」


 ここからゼンの何か月にも及ぶ死闘の幕が開けた。



「まずは1本完成した」


「これはポーションじゃないか!!」


 魔族たちにとって恐ろしいもの、それはポーションであった。ヒト族の間では、回復をするアイテムとして普及しているが、魔族の間では毒薬として認識されている。


 理由は簡単。ヒト族のポーションは魔族には当てはまらないのだ。


 魔族がヒト族のポーションを飲むと、体の内側焼けるような痛みを伴い、だんだん衰弱し始め、やがて死に至る。


 このことをダンは知っているため、余計に驚いてしまったのだ。ゼンの今の行為は治療しようとせず、殺そうとしている高位だからだ。


「大丈夫です、魔族に適したものですから」


「嘘をつけ! これで誰かが死んだら洒落にならんぞ!」


「はい、そのときは俺が自害します。ですから、信用してください」


 ゼンの言葉、目には嘘偽りの色が見えなかった。ここまでまっすぐに言葉をぶつけてくる者のこと信じないものはいるのだろうか? いや、いない。


「わかった、だが、まずは俺が飲む。それでいいな?」


「はい、そのつもりでしたので」


 ダンはゼンからポーションを取った。


 ダンには緊張が走った。これがもし違っていたら自分は確実に死んでしまう。死という最大の恐怖が確かに存在していた。しかし、ダンは意を決してゼンからもらったポーションを飲んだ。


 すると、たちまち力が漲り始めた。


「何だこれは!? 力が.....」


「これはパワーポーションです。これは自然治癒能力の上昇を促すポーションです。だかあら、おそらく力が漲る感覚がしたんだと思います」


「すごい.....」


 ダンはこのとき確信した。


 ゼンなら魔族全員を助け出せる可能性を秘めているのではないのかと。


「これを全員に飲ますのだな?」


「これは軽傷者だけです」


「軽傷者? では、重傷者はどうするのだ?」


「先ほどとは効力が違うものを用意します。少し大変ですけど大丈夫ですか?」


「あぁ、俺なら大丈夫だ」


「では、始めます」


 このときのゼンは知らなかった、この行為が魔族全体を揺るがす大事態になるということを。



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