第3章 魔界 28話 決意
ここからゼンの快進撃が始まります。どうぞお楽しみ
「そんな身構えなくともよい、わらわはお前に用があるのじゃ」
「そ、そそその用とは何ですか?」
ゼンは恐怖のあまりに噛み噛みになっていた。体が警告をしているのか、それともただの恐怖か分からないが、体はずっと痙攣したままである。
「はははははっ! そんなに怖いか!」
「そ、そんなの当たり前です」
「まぁ良い、お前はここで一生働いてもらうからな」
「え、それはどういう.....」
「お前がエルフの嬢ちゃんの病気を治したのを聞いてな、それで連れ去ったんだ」
魔王はそのまま言葉を紡いだ。
「お前んとこのヒト族とわらわたち魔族は戦争をしている。これは知っておるかの?」
「は、はい」
「わらわはヒト族が大っ嫌いじゃ、今すぐにでもお前を殺してやりたい」
ゼンは『殺す』というワードを聞き、遂に堪えられなくなったのか、魔王に背中を向けて走り出した。
この行為は『逃げる』とは違う。
『守る』この言葉の方が正しい。
ゼンは全力疾走で走り出したが、その願いも一瞬にして消えてしまう。
〘止まれ奴隷〙
この言葉がゼンの脳に直接届いた途端、ゼンは動けなくなってしまった。まるで誰かに足を掴まれているかのように。
すると、突然鈍痛がゼンに押し寄せた。
「ごほ、ごほごほっ!」
「手間かけさせるな、奴隷が」
魔王はゼンの腹に自分の拳を放った。軽く打ち込んだが、ゼンにとっては相当な痛みであるのか変わりはない。
「お前はここで一生奴隷なんだ、逃げるなんて考えないほうがよいぞ」
倒れたゼンの髪の毛を掴み、脅迫した。
「す、すいません」
〘喋るな、汚い〙
再び脳裏にそんな言葉が出てきた瞬間、ゼンの口は糸でも縫わしたかのように開かなくなってしまった。
「お前はただ配下の魔族たちを治せばよい」
◇
「はぁはぁはぁ、やっと口が開いた」
ゼンは魔王との面会のあと、ラボもとい研究所らしき場所に放りこまれた。
「設備はしっかりしているな」
素材や器具には問題はなかった。しかし、ゼンには一つだけ気がかりなことがあった。
「魔王はなぜあんなつらい顔をしていたんだ」
ゼンは魔王に連れられてここまで来たが、そのときの魔王の表情がとてもつらそうに見えた。後悔? いや、不安ともいえよう何かに。
「まずは傷を負った人たちを見ないと」
傷を負った者は、このラボに運ばれるため治療がしやすい環境ではあった。しかし、ゼンは衝撃を受けてしまう。
「これはひどい.....」
ゼンの目に映ったのは、何万とも及びそうな数の負傷者であった。それに対して医師の数はたったの10人。これでは治療する前に多くの魔族が死んでしまうのは確実であった。
10人の医師は魔法を駆使していたが、傷が酷いため完治するときには医師の魔力が尽きてしまう状況であった。
魔王のつらそうな表情の正体を知ったとき、ゼンは決意した。
全員の命を救ってみせよう.....と
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