第2章 緑山 20話 甘えん坊
トップ10から消えてしまいましたが、また浮上できるように気合を入れて取り組ます!
「ちょ、シェルさん? そんなにくっつかないでもらえますか?」
「嫌です♡」
「はぁ.....」
ゼンはシェルに抱きつかれてからかれこれ1時間は経っていた。最初は後ろから不意に抱き着かれたが、次第に前方にずるずると移動し、この状態である。
その一方通行の甘々な空気が突如として崩れ去った。
「ゼン! 遊びにきた......ぜ...」
「ふふふ、これが既成事実というやつですね」
「違う! リロ、ち、違うんだ!」
ゼンは焦りの余りいつもとは違う口調になってしまっていた。
「失礼しましたー」
「ま、待ってくれ!」
「いい判断です」
シェルに向かって深々と頭を下げたリロはゼンの方を見て、何か含みのある笑顔を向けた。
「行ってしまった.....」
「わたくしとお二人になるのは嫌ですか?」
先ほどまで上下にピコピコ揺らすエルフの長い耳が、喜びを表現していたが、今は下に垂れている耳が悲しさを表現していた。
「い、いや...そんなことは」
「本当ですか!?」
「はい」
「言質取りましたから.....ふふふふふ」
「??」
このシェルの謎の笑みに対してゼンは不思議の思ったが、この笑みの裏にはとんでもないことが隠されていることをゼンはまだ知らない。
◇
一方通行な甘々な空気が続き、気づけば夕刻になっていた。
「確か、今日の夕方に話があるって言ってましたよね?」
「はい! ゼン様の体の方を心配なされてお父様が来れませんでしたの」
「あぁ、そういうことですか」
「本当は何度も来ようとしたのですが、わたくしお父様が一生許せそうにないので、来ないでと言いました」
ゼンはシェルの今まで見せなかった表情に新鮮さを感じながらも、なぜ父に対して憤慨しているのかという疑問が頭を駆け巡った。
「でも、今日話をするんですよね?」
「残念ながらします...。報告しなければならないこともありますしね」
「そ、そうですか」
‶コンコン″
不意に扉が鳴る音がシェルの自室に鳴り響く。
「入って」
「失礼します」
「ウヨさん!」
「ゼンさん、お体は大丈夫ですか?」
「もう日常生活くらいはできるようになりました!」
「そうですか! それは良かったです。シェル様、準備のほうが整いましたのでお越しください」
「もうですか.....」
「ローラン様の死んだ魚のような目を見るのは正直もう可哀想です」
「お父様が悪いんですから。わたくしは一生許す気はありませんよ」
「自分も許せませんが、もう反省してますし.......」
「誰が何と言おうと私は許す気はありません!」
「そ、そうですか....」
「ふんっ!」
シェルが明らかに機嫌を悪くしているのが、ゼンにも理解できた。
「しかし、王座には来てください」
「..........................やだ」
「シェル様、我が儘はダメです。いつもその我が儘に付き合わされるこっち側にもなってください」
「わ、わかったわよ」
ウヨの言葉の魚雷がシェルに突き刺さる。その魚雷がシェルの我が儘癖を一時的ではあるが、治した。
「では、行きますよ」
「シェルさん? もうそろそろ抱き着くのをやめないと.....」
「.................うん」
シェルは物寂しそうにゼンに抱きつくのをやめた。そして、ゼンは数時間ぶりに抱擁という呪縛から解き放たれた。
そして、ウヨの先導によりゼンとシェルは王座の間らしき場所の目の前にまで来た。
「会いたくない」
「ダメです」
「そうですよ? シェルさん」
「ゼン様がそう言うなら♡」
ゼンにべたべたなシェルに対して、ウヨは深いため息をついた。
「では、入ります」
‶ゴォーーーーーー″
すごい地響きとともにゼンの身長を何十倍にもした巨大な扉を開けた。
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