もしいじめられっこが通信空手を習ったら
突然だがッ!
激熱中学一年C組にはいじめがあるッ!
「奥義! 爆裂疾風壊悪殺ッ!!!」
「はっ! こ、この動きはぁっ!!」
山口の放つ奥義が、木村の全身を貫く!
「ぐふおああああっ!!」
その圧倒的な破壊力が、木村の身体を吹き飛ばし、壁に叩きつけたッ!!
「ぐふおおおお……」
吐血ッ!!
無様に倒れ伏す木村に、山口が声をかけたッ!
「安心しろ……急所は外してある……」
「き、きさまぁ、なぜ俺にトドメを刺さない……」
「ふっ、なぜだろうな……お前がいじめられる姿を、もう少し見たくなったのかもな……」
爽やかに微笑を浮かべる山口! 勝者に情けをかけられた屈辱が、木村の全身を駆け巡ったッ!!
「木村……少なくともお前は殺すには惜しい男だ……」
「お、俺を生かしておけば、必ずお前に復讐しに行くぞ……!」
「ははは、そうかもな。だがそのリスクを冒してでも、俺はお前をいじめたい。それだけだ」
「山口ぃ……!」
立ち去る山口!
尚も奥義のダメージが残る木村は、その場を動くことができなかったッ!!
数十分後。
「くうう……今日もいじめられたよぉ……」
トボトボと通学路を歩きながら、涙を流す木村くん。
木村くんは山口くんがリーダーとして君臨する不良グループにいじめを受けていました。山口くんたちのいじめは、木村くんを殴る蹴るといった暴力の他に、持ち物を燃やす、木村くんの悪い噂を流す、木村くんの両親を粉みじんにするといった、ひどいものでした。木村くんとしても何とか反撃をしたいとは思っていますが、山口くんは力が強く、逆らえません。
「くそう、僕にもっと力があれば……」
そう嘆く木村くんですが、嘆いたところで彼の力が強くなるわけではありません。そんなウジウジとした性根が、このクソ木村がいじめられる原因なのです。
「ただいま……」
家に帰っても、木村くんの両親はすでに粉みじんなので誰も彼に挨拶する人はいません。
「あーあ、晩ご飯誰も用意してないのか……」
そう言って、木村くんはリビングでふて寝します。彼に晩ご飯を自分で作るという考えはありません。クズです。
「ん……なにこれ?」
しかしそこで、彼はテレビの前のテーブルに、何か置いてあるのを見つけました。
「通信空手……?」
そこにあったのは、通信空手のDVDでした。このDVDを買っているというだけで、普通の人より弱い印象を受けてしまうという評判があります。
「そうか、これを見て、僕も空手を習えば……!」
木村くんは空手を習って強くなった自分が、山口くんをはじめとする不良グループを血だるまにする光景を思い浮かべてニヤニヤと笑顔を浮かべました。性根が腐っています。
「よし! さっそく、このDVDを見てみよう!」
心の中の腐りきった欲望を膨らませながら、木村くんはDVDを再生しました。
翌日。
「なあ山口くん、木村のヤツ学校来るかな?」
「へへ、来てもらわないといじめられねえからな。楽しくないぜ。不登校になろうもんなら、家まで押しかけてやる」
山口くんは手下たちと共に、木村くんをいじめるのを今か今かと楽しみにしていました。そんな中、教室内を突然の揺れが襲います。
「な、なんだ!?」
ざわざわと騒ぐクラスメイトたち。有象無象たちには騒ぐことしかできません。そして教室にズシン、ズシン、と足音が近づいてきました。
「お、おい、何か近づいてくるぞ!」
不思議に思ったクラスメイトの一人が、教室の扉を開け、廊下を出ました。
だがその瞬間ッ!!
廊下に出たはずの男は、ものすごい速度で廊下から教室の窓の外まで吹き飛ばされていたッ!!
「ぶぎゃごばっ!?」
無様な悲鳴を上げながら、窓の外へと吹き飛ばされる男ッ!! 顔面を激しくひしゃげさせながら、頭から校庭に叩きつけられたッ!! 即死ッ!!!
「な、何奴だっ!!」
動揺する不良! だが山口には廊下にいる存在が何かを見抜いていたッ!!
「ふっ、どうやら本当に復讐に来たらしいな、木村……」
爽やかな笑みを浮かべる山口ッ!! それに応えるかのように、廊下にいた木村が教室内に入場ッ!!
「き、木村……!?」
そこにいた木村は、全身の筋肉が異様に発達し、教室の天井に届かんばかりの巨漢と化していたッ!!
「山口……先日の屈辱を晴らしに来たぜ……貴様の命運も、ここまでだ……」
「若造が……少しばかり強くなったからといって、調子に乗るなよ……!!」
にらみ合う両雄!! 今まさに、宿命の戦いが幕を開けようとしていたッ!!
「「おおおおおおおおおおおおッ!」」
二人の雄叫びが教室内を震わす!! もはや誰も、この二人の激突を止められはしないッ!!
「いくぞ山口ぃぃぃぃ!!」
「かかってこい!!」
二人の男の拳が、今まさに衝突するッ!!
「君たち、なにしてるの?」
その時、木村くんたちのクラスの担任である、加藤先生がケンカをしていた二人の首の骨をへし折りました。二人は「ぐびぃ」という悲鳴の後に床に倒れ込み、動かなくなります。
「あのさぁ、先生のクラスでもめ事起こすなって言ったでしょ」
加藤先生はクラスのみんなをにらみ、みんなは震え上がりました。
加藤先生は大学を出たばかりの若い女の先生ですが、三歳上のイケメン実業家との婚約が決まっているので、あまり先生としてのやる気がなく、問題が起こって婚約を解消されることを嫌がるので、問題のないクラスを作りたいのです。
「はいはい、ちょっとゴミが散らかってるから、美化委員の人、後で片付けておいてね。じゃあ、ホームルーム始めるから」
木村くんと山口くんは、口から血の泡を吐きながら痙攣していましたが、誰も助けません。
所詮いじめられっこが通信空手を習ったところで大して強くなりませんし、いじめっこ程度が大人に逆らえるわけでもありません。大人の力があれば、いじめは簡単にもみ消せるのです。みんなは大人に逆らわないようにしましょう。
完