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灰色の旭日旗  作者: Silver Tooth
第1部 コロニアル・エンパイア
16/21

第9章① 対抗同盟

※本話:9,000字


次回予告:第9章②「同盟の代価」


書評:『軍事力の効用』


※対抗同盟の組織図(2019.06.17. 現在)

挿絵(By みてみん)

 

 エリザベス王国の本国と一部の海外領土は、日本の占領下に置かれているが、一方で、その他の海外領土に駐留する植民地軍が、依然として残存している事を思い出すべきだろう。


 第6章の冒頭でも指摘した事だが、王国植民地軍はその少ない兵力で良く防衛し、持久している。残存の王国植民地軍は、本国首都の陥落という一報に接し、自らの態度を決定する必要に迫られていた。


※※


旧エリザベス王国大陸領土:植民地艦隊


 王国海軍は、本国艦隊と植民地艦隊の二つに大きく分かれているが、二つの大艦隊は、飽くまでも書類上にしか存在しない分類でしかなく、実際には、個々の戦闘艦隊に軍事行動の主導権があった。

 

 日本から見捨てられた(※占領・破壊目標でないという意味)海外領土の駐留部隊は、相互に連絡を密にしつつも、それぞれが独自の道を歩もうとしていた。


 植民地艦隊の内、第4艦隊(ケイトマン諸島・南大戦洋方面担当)を除いた、第5艦隊・第6艦隊の両艦隊は、共に大陸領土の港湾都市を母港とするが、本国を侵略した日本に対する基本方針は微妙に異なっている。


 植民地軍の殆どは、取り敢えずの所、現状維持を方針に変わらぬ日常を送ろうと努力しているが、列強諸国が大陸領土に駐屯する王国植民地軍を攻撃する可能性は極めて高い。現状、いつくかの小競り合いや遭遇戦がちらほらと増え始めている。


 植民地軍は、決断しなければならない。日本に降伏するか、外国に編入されるのか、それとも、その軍事力を背景に独立を志向するのか。


※※


旧エリザベス王国領:ピカルド海外州


 ピカルド海外州は、エリザベス王国の海外領土の一つで、旧メルケル帝国領にある飛び地として存続している。ピカルド海外州は、帝国諸侯の封土を継受し、婚姻によってバッテンベルク王朝が獲得した。


 以後、王国政府はここに植民地艦隊に属する第5艦隊と陸軍の2個師団を配備している。地理的には、第3艦隊と第5艦隊が、ルッテラント連邦を東西から挟んでいる。連邦海軍が第3艦隊を攻撃すれば、第5艦隊がその後背を突くという事だ。


 州政府は、首都陥落の情報にますます混乱するばかりであったが、駐留する植民地軍は、軍人らしく冷静さを保っていた。彼らにとってこれは好機でもあった。植民地軍を構成する現役軍人は、本土出身者よりも、海外州出身者が大半を占める。


 彼らは言わば「エリザベス王国の国籍と市民権を持つメルケル人」で、当然ながら、エリザベス人よりも、大陸の血統が濃く、本土と大陸の狭間で、民族意識が揺れ動いていた。自分達が果たして、エリザベス人なのか、それともメルケル人なのかという問題は、彼らを長年に渡って苦しめてきた。


 民族主義が勃興する同時代に於いて、彼らの自己同一性は分裂するか、それとも余計に本土への郷愁を募らせるかのどちらかだった。彼らの殆どは、本土の土を踏まないまま、その一生を終えるのだ。それでも、旧メルケル帝国から独立した諸国に比べれば、各段に生活は恵まれている。


 彼らが独立という選択肢を採らなかったのも、本国の海外領土であった方が、経済的に豊かで、財政が逼迫している旧帝国領の諸国の惨状を思えば、遥かにましだからである。


 しかし、その経済的な支柱である本国は、首都が陥落した以上、全土を占領されるのは時間の問題だろうと思われた。従って、彼ら州民にとっては、独立という選択肢が首をもたげるのも当然だった。


 海外州が独立を検討するのならば、まず独立した経済基盤と安定した財政収入を確保しなければならないだろう。いくら軍事力で独立を為し得たとしても、その後の統治で失敗すれば、周辺諸国の介入を招いて、独立は短期間に終わるとも限らない。


 つまり、独立に必要なのは、他国から掣肘されない経済力と軍事力を持つ事である。海外州は、陸上戦力こそ乏しいものの、海上戦力にはかなり恵まれている。それも、一国の海軍力に匹敵する艦隊を維持しているのだ。これを利用しない手はない。


 一方で、経済基盤となる産業は、鉱山が州内に点在している事から、鉱業とそれを加工する工業が発達しており、港湾都市を中心とする事から貿易業・金融業も盛んである。しかし、第一次産業の基盤は脆弱であった。耕作に適した土地が少ない上に、そもそも海外州は、それほど広くはない。


 元々が港湾都市を中心として、周辺の都市・農村を支配したという程度で、支配下に治めた穀倉地帯は殆どなく、それ故に、本国と外国からの輸入に依存している。つまり、食料自給率が低いという、国家として見做した場合、致命的な弱点を抱えている。


 そもそも、大都市というものは、根本的に食料自給率が低く、周辺の農村を支配して、必要な食糧を調達するか、外国からの輸入に頼るのが歴史の常である。海外州の食料自給率が低いのも、致し方無いだろう。

 

 だが、国家として独立するというのならば、この食糧問題は避けては通れない。何とかして、周辺地域から調達するか、輸入する体制を構築しなければ、そうそうに干上がってしまう。


 州政府は、この問題を解決する為に、植民地軍と会合を持つ事にした。主な出席者は、州政府から総督(シドニア伯)と政治顧問官、植民地軍から海軍第5艦隊副司令官兼参謀長(海軍中将)と陸軍ピカルド駐留部隊司令官(陸軍中将)の4人だ。


 総督は、出席者を見渡しながら、会合の音頭を取った。


「既知の通り、本国の首都が陥落したらしい。本国が侵攻軍の占領下に置かれるのも時間の問題だろう。しかしそうなると、我が州の食糧輸入に支障を来たす恐れが強い。

 我が州が侵攻軍に降伏するにせよ、独立するにせよ、何れにしても、自活能力を強化しなければ、我が州の交渉カードとしての価値は低下する。

 どちらの選択肢を採っても、必ず我が州の自治権と利権は守られなければならない。諸君らは、我が州が降伏すべきだと思うか?

 それとも、独立すべきだと思うか?如何にして、食料調達ルートを開拓するべきか?それを諸君らに聞きたい」


 海軍中将が、総督の疑問に答えた。


「侵攻軍の軍事力は未知数ですが、最精鋭の第1艦隊をごく短時間で撃破した所を鑑みるに、彼我の軍事力は隔絶していると見做すのが相当かと思います。

 しかし、未だに我が州への侵攻軍の接触がない事を踏まえれば、本国の占領にはかなり手間取っているはずです。

 侵攻軍の軍事力が、我が州にまで届くというのならば、降伏するという選択肢も有り得ますが、現状では分かりかねます。

 我が州の独立には、反対です。周辺諸国を刺激するだけに終わるでしょう。寧ろ、それよりは、軍事力を温存したまま『事実上の独立状態』を維持する事が急務ではないでしょうか?」


「降伏か、独立か、どちらに転んでも良い様に、『事実上の独立』を維持するという戦略なのか?」


「総督閣下の仰る通りであります。地域情勢に対して、超然とした態度を崩さない事が、却って我が州の独立性を高めるはずです。そもそも、我が州が周辺地域に介入しようとすれば、食糧輸入が途絶える口実を与えるだけです。それよりは、現状維持で暫く事態を静観すべきではないかと」


「我が州が、本国の海外領土である事を辞めないと?」


「はい。その結果として、侵攻国に併合されたとしても、態度は一貫している訳ですから、自治権ぐらいはもぎ取れるのではないかと」


「…それは、侵攻国の性格や行動原理がこちらには分からない以上、危険な賭けになるのではないか?」


「ですが、もしも第1艦隊を早期撃滅した軍事力を我が州に差し向けられれば、我が州は一溜まりもありません。それに、侵攻軍とて、本国への侵攻によって、占領政策の困難さは身に染みて理解している最中でしょう。

 できる事なら、穏便に占領を完了させたいはずです。我が州はそこに付け込み、軍隊の駐留と引き換えに、自治権を承認させるべきです」


「外国軍の駐留は、自治権を侵害しているのではないかね?」


 総督は、その場面を想像してなのか、少し苦い表情になった。


「古代の帝国は、侵略した異民族の領地に軍隊を駐留した代わりに、自治権を与えた事例もあります。帝国主義政策にしろ、植民地政策にしろ、どの時代・どの地域でも、それほどには変わらないはずです。我が州が軍事力を温存しておけば、それも交渉材料になるでしょう」


「独立は難しいと?」


「独立という可能性もありますが、実現の可能性は低いかと。独立を宣言したら、列強諸国の陸軍が大挙してやって来るかもしれません。2個師団程度の陸上戦力では、かなり厳しい防衛戦になるでしょうね」


「第5艦隊で対抗できないのか?」


「海軍で、陸軍に対抗しろと?戦場が違い過ぎますよ。いくら海上戦力で圧倒していても、陸地にある軍港を占領されれば、お終いなのですから」


「では、軍港を防衛する為にも、陸上戦力を増強すべきではないか?現状維持と言っても、周辺諸国が攻撃を躊躇する程度の防衛能力は持つべきだろう」


「我が州の周辺地域は、殆どが弱小の旧帝国領です。それ以外だと、ルッテラント連邦が近いですが、海を隔てている以上、海上戦力で劣る連邦海軍が攻撃する可能性は低いでしょう。

 それに連邦海軍は、メルテ海峡の海上封鎖を実施中ですから、そこに軍艦を相当数は割いているはずです。

 ただ、邦国陸軍の西部方面軍と南部方面軍が、旧帝国領を踏み潰して、我が州に侵攻する可能性もなくはないですが、どうやら連中は、シルヴァニア侵攻に忙しいみたいですから、その危険性も当分は低いでしょう。

 そして、旧帝国領の諸国は、それぞれが精々1個師団から1個旅団程度の陸上戦力しか保持していません。2個師団以上を有する旧帝国領は、我が州からかなりの距離にありますから、それを考慮する必要はないでしょう。つまり、4個から6個師団程度を動員すれば、十分に防衛が可能です」


「現状維持でも、動員は必要だと?」


「あまりに大規模な動員だと周辺諸国を刺激しますが、一方で何の動員もしなければ、それはそれで攻撃の機会を与える様なものです。

 とにかく、今は、我が州の独立性を維持したまま、侵攻国との外交ルートを開拓すべきでしょう。それによって、独立するか降伏するかを決定すれば良いのです」


「陸軍に聞きたいのだが、州民を動員する事は可能なのか?我が州の動員体制はどうなっている?」


「我が州には、陸軍が管理する予備役の連隊が4個あります。この4個予備役連隊を中核として、4個師団を速成する事は可能です。しかし、練度はあまり期待できないでしょうから、飽くまでも、国境警備用の二線級師団と言った所ですが」


「二線級の師団で、周辺の旧帝国領と戦えるのか?」


「予備役の師団でも十分過ぎる程です。旧帝国領の内情はかなり混乱していますから、定員や装備が充足されていない部隊も多いはずです。

 こちらは予備役とは言え、士気と装備は十分です。防衛であれば、十分に戦闘能力を発揮します」


「…分かった。では、総督としての権限を以て、陸軍に予備役の動員を命じる。非常事態につき、陸海軍の駐留部隊を私の指揮権下に収める。異論はないな?」


「勿論ですとも、総督閣下。陸軍は、命令に基づき動員を開始します」


「海軍も同じです。我が州の独立性は誰にも侵させません」


 総督は、君主の代理人として、陸海軍を指揮権下に収めた。


※※


旧メルケル帝国中部:クシニスカ大公国


 クシニスカ大公国は、選帝侯国ではないものの、有力な大領邦であった。しかし、帝国の崩壊によって、その地位を追われて、現在は小国の地位に留まっている。

 

 領邦として見れば、人口・国土・経済力・軍事力は十分にある。それでも、列強諸国に比べれば、所詮は旧帝国領の一地方を統治する小国に過ぎない。


 エリザベス王国の首都陥落とマルクヴァルト邦国のシルヴァニア侵攻は、旧帝国領の諸国にも影響を与えずにはいられなかった。邦国と共和国による軍事同盟によって、両国の勢力圏が公式化された以上、邦国はシルヴァニア併合を完了させた後、西部方面の旧帝国領を回収しようと企むだろう。


 大公国の周辺は、中小領邦がひしめているが、その先には、列強諸国へと繋がっており、周辺領邦を併合して、列強諸国と直接の国境を接するのは極めて危険であった。

 

 しかし、大公国の国力を増大させる為には、周辺領邦の併合以外にはない。それに、中小領邦の中には、邦国軍が進駐している事実上の邦国領も点在している。地域最大の陸軍国家である邦国を刺激する危険性と、国力増大の手段は相反するという点で度し難い。


 大公国政府は、現状を打開すべく、ルッテラント連邦・ラホイ王国・シルヴァニア公国・エリザベス王国ピカルド海外州と接触を図った。大陸国家同盟であるマルクヴァルト=ルペン同盟に対抗する為には、海洋国家同盟を結成すべきだと考えた。


 シルヴァニア侵攻を妨害又は長期化させれば、邦国の国力を消耗させる事もできる。大公とマルクヴァルト王は、互いに旧帝国諸侯であったが、同族意識など欠片もない。同じ民族ではあるが、領邦同士の私戦によって、そうした同族意識は希薄化している。


※※


クシニスカ大公国:6ヵ国会談


 当初、5ヵ国で行う予定だった会談は、シルヴァニア公国の代表がルペン共和国の特使を同伴した事で、急遽、6ヵ国に拡大された。


 大公国の代表と、ピカルド海外州の代表だけが驚いた所を鑑みるに、連邦とラホイ王国は、水面下で共和国と繋がっていたのだろう。


 彼らは、邦国の未来を哀れんだ。いくら軍事大国の邦国と言えども、周辺諸国・列強諸国の全てを敵に回せば、次に待つのは破滅しかない。会談の議長は、開催国の大公国代表が務めた。


「ここに集まった各国の代表・特使は、邦国が西大戦洋地域最大の脅威であるとの認識を共有しているかと思います。最大脅威の削減は、何よりも、地域の安定と平和に資するでしょう。

 勿論、それは我が国の様な小国にとっても、共和国の様な大国にとっても、利益になる事です。この6ヵ国で、邦国に対する対抗同盟を結成し、地域に平和をもたらすべきです」


「対抗同盟の結成に異論はないが、そうだとしたら、共和国の扱いはどうするのか?共和国は、邦国とも同盟を締結しているだろう?

 仮に、邦国と対抗同盟で全面戦争が勃発すれば、共和国が邦国と我々のどちらに味方するのかを是非とも教えて欲しいな」


 連邦の代表が、共和国を牽制するかの様に言った。


「共和国は、邦国の軍事作戦に全面的な協力はしませんが、一方で、対抗同盟に対しても、公式の援助は致しません。仮に、邦国と対抗同盟が戦争状態に突入すれば、共和国はどちらの側にも組しないでしょう」


「つまり、共和国は中立政策を採るだと?ありえん。この状況で、中立は許されない。我が国は中立を敵対と見做すぞ?」


「大変心苦しいですが、邦国は我が国の同盟国です。だからと言って、他国との同盟を排除しているという訳でもありません。邦国と対抗同盟が敵対関係になったとしても、共和国は両陣営と友好関係を維持したいのです」


「それは何とも、都合が良くないか?さっさと邦国との同盟など破棄してしまえば良い。共和国が対抗同盟に加入すれば、邦国を周辺諸国で締め上げる事もできるのだぞ?この機会を利用しない手はないだろう」


「仰る事は良く分かりますが、我が国が締結した同盟を直ぐに破棄する様な国では、外交の信用がガタ落ちします。寧ろ、同盟によって邦国の勢力圏を封じ込めた事は、ここにいる皆さんにも利益はあるでしょう?」


「一番の利益は、邦国と共和国がさらっていく訳だがな。それで、共和国は一体何ができるんだ?共和国は、我々の敵なのか?味方なのか?」


「我が国は、皆さんの敵ではありません。こうして、会談に出席している事が何よりの証拠でしょう。我が国にとっては、邦国の勢力伸長が、許容範囲内であれば、それで事足りるのです。地域の安定化は、我が国が最も願ってやみません」


 共和国特使は、清々しい表情で、しれっと二股をかけると宣言した。他の代表達は、溜息を吐いたり、呆れたりした様子だった。共和国の二枚舌外交は、王政時代から変わらないらしい。


「我々は、獅子身中の虫を飼うつもりなどない。共和国が対抗同盟に公式参加しないのならば、この会談から排除せねばならん。いい加減、どちらにつくのか態度を決めるべきだろう」


「我が国が邦国を裏切っているだけも、十分に利益があると思いますが?それとも、邦国との同盟を深化して欲しいとでも?そうなれば、困るのは皆さんの母国でしょう?せめて、オブザーバー資格は与えられるべきだと思いますよ」


「では、今この場で相互不可侵協定を締結するというのはどうですかね?勿論、共和国も加えるべきです」


 連邦代表と共和国特使との口論に、痺れを切らした他国の代表がそう持ち掛けた。参加国の意思を確かめ、結束を図る意味でも有効だろう。そして、共和国に踏み絵を迫っている。共和国特使は、その提案に対して何でもないように快諾した。


「相互不可侵協定には賛成です。共和国は、他国の領土を侵犯するつもりなどありませんからね。ただ、シルヴァニア侵攻に関しては条約上、協力しない訳にもいきませんので、できれば公国を外した状態が望ましいですね」


 共和国特使の意見に、今度は公国が反発した。


「我が国を外すぐらいならば、貴国を協定から外した方が、遥かにましでしょう。共和国の提案はとても受け入れられません」


「私は貴国の事を慮っただけですよ?この対抗同盟にしても、我が国の裏切りがなければ、どうやって成立させるというのです?

 我が国と邦国の両国を敵に回して、貴国が勝利できるとでも?ありえないでしょう。だからこそ、貴国を協定から外すべきだと言っているのですよ」


 共和国特使の態度は傲岸不遜であったが、指摘そのものは間違っていない。共和国がこちら側に傾いているからこそ、対抗同盟は邦国に対抗し得るのであって、共和国が完全に邦国側へと傾けば、対抗同盟の効果は減少する。


 但し、海洋国家にしてみれば、大陸国家に対抗するというだけで利益があるから、共和国が参加するかしないかどうかは、小国の方が強い影響を受けるだろう。


「それでは、両者を折衷して、それぞれを外した上で、二重に協定を締結するのはどうでしょうか?公国を除外した協定と、共和国を除外した協定の二案を同時に結べば、問題は解決するでしょう」


 公国と共和国の激論を見かねた他国の代表が、折衷案を出してきた。


「それは、この6ヵ国で二重協定を締結するという事か?」


「はい。手間暇は余計に掛かりますが、問題は解決できるでしょう?」


「なるほど。対抗同盟を結成できるのであれば、我が国はその方法でも構いませんよ」


 結局、6ヵ国は、公国を除外した協定と共和国を除外した二つの相互不可侵協定を締結する事に合意した。


※※


対抗同盟の共同声明


①5つの国家・地域は、マルクヴァルト邦国によるシルヴァニア侵攻を非難すると共に、邦国の侵略に対する対抗同盟を結成する。

②対抗同盟は、公国の独立と主権が不可侵であり且つ不可分である事を改めて確認した。

③対抗同盟に賛同する国家・地域は、加盟を歓迎する。


加盟国・地域の一覧


シルヴァニア公国

ラホイ王国

ルッテラント連邦

クシニスカ大公国

エリザベス王国ピカルド海外州


※※


エリザベス王国ピカルド海外州:総督府


 ピカルド海外州は、マルクヴァルト邦国のシルヴァニア侵攻に対する対抗同盟の原加盟地域となった事で、国際場裏に於ける発言力を確保した。一国の海軍力に匹敵する第5艦隊を保有している事が、海外州独自の外交政策に裏付けを与えている。


 本国政府との連絡が途切れた以上、そして本国を侵攻したと思われる外国勢力とも連絡が取れない以上、ある程度の独立した行動は避けられない。それは、海外州にとっては、独立の好機であると同時に、本国との精神的な繋がりが断絶する事も意味した。


 総督(シドニア伯)は、できれば本国に侵攻した外国勢力(=日本)との連絡を構築して、その統治下に入る事を願ったが、一方で、海外州の独立を目指す政治勢力が結集し始めた。


 海外州は、海軍力こそ誇るべき規模であるが、陸上戦力は少なく、その上、人口や面積も旧メルケル帝国の大領邦程度の規模しかない。その国力で、列強諸国が競争する西大戦洋地域で、果たして独立を維持できるものだろうか。


 もしも、海外州が独立を志向した場合、国力は中小国程度に留まるだろう。それならば、やはり本国を占領しているであろう外国勢力の保護下に入った方が、結果として海外州の独立性と自治は守られるのではないか。


 本国を占領下に置いたのならば、海外州を統治する資格があるだろうし、防衛する義務もあるのではないか。侵攻国は、最後まで被占領国の統治に責任を持つべきだ。


 総督の心中は、何とも他人任せというか、他力本願であったが、それも仕方ない。海外州が誇る第5艦隊にしても、本国政府の財政的な支援があればこそ維持できるのであって、その財政支援がなければ、海外州の経済力で支えきれない時が必ず訪れるはずだ。


 海外州の独立性には、強い軍事力が不可欠だが、それを支える経済基盤が脆弱であるのだから、侵攻国の財政支援に頼りたいというのも無理からぬ事だった。独立派が当てしている軍隊は、いつ張子の虎となってもおかしくないのだ。


 総督は、独立派を牽制しつつ、侵攻国との連絡を試みていた。海外州と本国を遮るのは、海洋国家のルッテラント連邦であるが、かの海上戦力は、邦国海軍との海戦によって、大きくその戦力を低減していた。


 6個戦隊から4個戦隊まで海上戦力を減らした連邦海軍は、自国の沿岸防衛に手一杯のはずで、とても外洋航海に割ける軍艦は少ないだろう。


 邦国海軍にしても、連邦海軍との海戦によって、かなりの海上戦力を消耗したはずだ。そもそも、邦国海軍は外洋海軍でなく沿岸海軍ないし、部分的に地域海軍程度の海軍力でしかない。


 従って、第5艦隊と本国政府・本国艦隊(※正確には日本が設置した総督府・A方面軍を含む)との連絡を妨げる様な勢力の危険性は少ないと見積もられる。


 首都が陥落したとは言え、本国政府の統治機構や支配領域がまだ残存している可能性もあるから、本国の政治情勢によって、いくらでも海外州の対外政策は変わり得る。


 もしも、本国政府や王国軍がまだ持久しているというのならば、それに加わるという選択肢もあるし、一方で、侵攻国が優勢もしくは完全に占領下に置いているというのならば、占領軍の味方に付くという選択肢も有り得る。


 どちらの選択肢を採るにせよ、海外州の独立性と自治は保たれなければならず、それが為し得ないというのならば、勿論、『高度な自治権』が『国家主権』に取って代わる事も有り得た。


 しかし、何れの選択肢にしても、総督がそれを決断するには、あまりにも荷が重く、彼の精神力を超えていた。彼の精神は、思わぬ事態の連続に疲弊している。



Ⅰ用語解説


植民地艦隊:エリザベス王国海軍の大艦隊で、本国艦隊と対を成している。第4・5・6の3個艦隊が所属しているが、飽くまでも書類上の分類でしかなく、実体のある艦隊司令部はない。


ピカルド海外州:エリザベス王国の海外領土・大陸領土の一つで、旧メルケル帝国領でもある。バッテンベルク王朝が、帝国諸侯との婚姻で獲得した。以後、王国政府はこの海外州に、植民地艦隊の第5艦隊と陸軍の2個師団を駐留させている。


クシニスカ大公国:旧メルケル帝国の中部に位置する小国。対抗同盟の結成を準備した。



Ⅱ書評・感想


『軍事力の効用(The Utility of Force : The Art of War in the Modern World)』著:ルパート・スミス(原書房)


①概要:著者は、戦争のパラダイムシフトが起きており、政府と軍隊がそれに対応できていない現実を指摘している。本書の冒頭と結論で宣言されている「最早、戦争は存在しない」という一言に、著者の主張が端的に表れている。


 従来の戦争観は、『工業化された国家間戦争』が中心となっているが、現在、主要国が取り組んでいる戦争・紛争の多くが『人々の間の戦争』に変化しているという現実が確かにある。『人々の間の戦争』という現実と『工業化された国家間戦争』という戦争観が乖離している現状があるのだ。

 国家は、未だに冷戦時代(※著者に言わせれば、「冷戦」という言葉は誤用で、正確には「対立」が相応しい。即ち、戦争状態でなく対立状態にあるのだから「戦争状態でない戦争」という矛盾を孕んでいる)の戦争観を前提とした軍隊の編制や国防省を維持しているが、最早、『人々の間の戦争』というパラダイムに変化している以上、それに対応した組織の変革が求められている。

 それにも関わらず、政府は旧態依然とした軍隊と国防省で、『人々の間の戦争』を戦っている。だからこそ、軍事大国が中小国の武装勢力に戦略的敗北(戦略目標を達成できないという事)を喫する事態に陥るのだ。


 そもそも、組織と編制は、時代の変化と目的に応じて、設置されて、新編され、廃止されなければならない。それにも関わらず、安全保障機構(国防省と軍隊)は、依然として「時代の変化」に順応せず、「目的」も曖昧としている。

 要するに、国家間戦争の減少と、低強度紛争(LIC)の急増は、国家の安全保障機構に変革を要求しているのに、国家安全保障戦略や軍事政策の最優先順位は、相変わらず古びたままだという事だ。敵=武装勢力は、国防省や国軍を保持している訳ではない。


 しかし、それにも関わらず、先進的な国家の軍隊は、軽武装の武装勢力に勝てないでいる。いや、戦闘や戦術レベルでは勝利できていても、その勝利を戦域や戦略レベルでの政治的な勝利に繋げられていない。最早、戦争で勝利する条件は、工業力でもなく、科学技術でもないのだ。二つの世界大戦は、まさに「工業力による戦争」であった。

 しかし、『人々の間の戦争』に於いては、工業力や科学技術は効果を上手く発揮し得ない。何故なら、明確な攻撃目標がないからだ。国家間戦争の様に、敵国の軍事基地や軍需工場といった分かりやすい攻撃目標はなく、敵兵は人々に紛れ込んで、戦闘を行い、生活を営んでいる。


 『人々の間の戦争』に於いて重要なのは、まず敵兵の姿を探すという事だ。それには、我々(味方)も人々の間に潜り込む必要がある。言うなれば、現代の軍隊は、情報機関や法執行機関が国内で行う防諜活動の如く活動しなければならない。 

 昨今、「警察の軍隊化」や「軍隊の警察化」、あるいは社会の安全保障化といった言説が主張されているが、今後は、ますます、「軍隊と警察」「軍隊と情報機関」の境界は曖昧となって、やがて両者は融合する様になるのかもしれない。

 我々は、兵士と言えば、銃を持ち、軍服を着こんだ男性を思い浮かべるだろう。しかし、将来の兵士は、コンシールド・ウェポン(秘匿用の武器)を持ち、一般市民と同じ服装と容貌で、子供から老人まで、男性だけでなく、女性や性的少数派の人間も兵士になって、人海を泳ぐのかもしれない。


②軍隊の展開、軍事力の行使、軍事力の効用:軍隊と軍事力には、展開・行使・効用の三つのレベルが存在する。政治指導者が考えるべき軍事政策とは、軍事力を行使して、如何なる政治的な効果を得るのかという戦略目標(政治目的)を設定する事だ。


 戦略目標が、当該地域に軍隊を展開する事そのものに設定されているというのならば、そこには何らの効用はない。抑止は軍隊の機能と結果に過ぎないのであって、抑止が崩壊した場合に躊躇なく軍事力を行使できないのであれば、抑止でさえない。残念ながら、主要国による海外派兵の多くが、こうした軍隊の展開それ自体を主目的にしている。

 つまり、国際貢献だとか、人道支援だとかそういった耳触りの良い言葉は、政治指導者や輿論を満足させるかもしれないが、ただただ、そうした政治的な実績を得たいが為に、軍隊を展開し、危険になったら撤退するというのは、偽善以外の何物でもない。

 軍事力の効用は、戦略目標と軍事目標を設定し、軍隊を展開して、軍事力を行使する事によって得られるのであって、単に自国軍を海外に派兵する事で満足しているのならば、海外派兵をしない方が遥かにましだ。軍事力の行使には、二つの結果しか得られない。

 即ち、「人間を殺す事」と「物を破壊する事」の二つだ。政治指導者は、この二つの効果を使って、政治的な成果を生み出さなければならない。軍事力の効用とは、軍事力の行使によって得られる結果を用いて、戦略目標を達成するという事だ。それこそが、政治指導者が為すべき軍事政策なのであって、間違っても、軍隊の展開や軍事力の行使そのものが目的なのではない。しかし、およそ現代の政治家の殆どがこれを履き違えているのが現状だ。


③湾岸戦争・イラク戦争と「意思の衝突」:著者のルパート・スミス退役陸軍大将は、戦争とは「意思の衝突」であると喝破する。戦争が、政治指導者や軍隊の指揮官による「意思の衝突」という現象であるならば、軍事目的は、相手方の意思を攻撃しなければならない。物理的な攻撃目標は、敵兵であり、敵軍の装備や基地なのだが、心理的・精神的な攻撃目標は、敵の指導者や敵軍の指揮官の心理を突くべきである。


 即ち、現代の戦争では、心理戦が中核に据えられているのだ。例え、敵兵を殺し、敵軍の装備と基地を破壊したからと言って、敵の指導者が、その攻撃によって、心理的な衝撃を負わないのであれば、こちらが思う様な、政策や関係、態度を相手方に強制する事はできない。

 何が言いたいのかと言えば、軍事力の行使によって、こちらが望む効果が得られないのであれば、それは敗北という事だ。軍事力は、手段に過ぎない。敵国の政治体制を転換させて、民主化させたいと望むのならば、その戦略目標に沿って軍事力を行使しなければならないが、軍事力の行使と軍事力の効用を結合させられなければ、失敗に終わる。


 その点を踏まえると、湾岸戦争・イラク戦争に於ける有志連合軍の失敗が理解できるだろう。サダム・フセイン大統領に対して、有志連合軍は、戦略目標を強制する事ができなかった。有志連合軍は、圧倒的な軍事力を用いて、戦場の勝利を我が物としたが、結局、「意思の衝突」に於いては、サダム・フセイン大統領に敗北したのだ。

 イラク軍は、有志連合軍の攻撃によって戦争遂行能力を喪失しかけたが、それでも、湾岸戦争直後に於ける国内の治安維持と国土の掌握には、ある程度は成功しているし、イラク戦争後に於ける、イラクの民主化・安定化には至っていない。2019年現在でも、イラク情勢は不安定なままで、選挙が実施されて、国民の代表による政府と議会が組織されていても、政治の腐敗は相変わらずで、有志連合軍が目指した政治的成果とは程遠い。


 相手国の政権を転覆し、民主化・安定化を果たすというのならば、独裁政権に取って代わる指導者や官僚層を用意しなければならないが、有志連合軍にはそれが欠けていた。いや、より正確に指摘するのならば、代替の指導者や官僚はいても、独裁政権時代の腐敗と汚職を受け継ぐ人物であったのならば、結局は開戦前と何ら変わる事はない。

 その二つの戦争に於いては、政治指導者が決定すべき当然の前提条件すら、まともに為されてはいない。戦争後の具体的な計画を欠いたまま、戦争状態に突入した。戦略目標の達成には、単に軍事力を行使すれば良いのではなくて、関係省庁による政治力や外交力も結合させなければならない。


 軍事力の行使は、戦略目標を達成する上での手段の一つに過ぎず、地域を民主化・安定化するだとか、難民を定住化させるだとかいった問題は、政治力や外交力も行使する必要がある。要するに、政治指導者はあまりにも軍事オプションに依存し過ぎていて、自らが為すべき政治力の行使という義務を怠っている。これは、政策決定者の職務怠慢だ。

 戦争に於いて、軍事力は中心の手段であるが、戦略目標の達成に於いては、政治力や外交力と並ぶ手段にしか過ぎない。従って、政治指導者は、軍事力の行使によって得られる効用と、得られない効用を区別する必要があり、軍事以外の手段によって、軍事力の効用を最大限に活用しなければならない。


④ユーゴスラヴィア問題:著者は、ユーゴスラヴィアの民族紛争に対する国連保護軍司令官を務めた経験を引き出しながら、現代の軍隊が抱える問題点を指摘する。


 まず、現代の軍事作戦に於いては、多国籍軍の形式を採る事が主流である事、その為に、指揮命令系統が煩雑になり、多国籍軍司令官と派兵国が二重に指揮権を保持するという問題がある事、それによって、複数の異なる諸国から派兵された1個大隊で構成される1個旅団の戦闘力は、1個大隊に分断されているという問題である。


 派兵部隊の単位が、そのまま戦闘力となってしまうのだ。多国籍軍によって、1個師団や1個旅団を編成したとしても、実際には派兵国が指揮権を握るから、多国籍軍司令官が独自に動かせる部隊は殆どなく(※場合によっては、「殆ど」でなく、「全くない」)、結果として、各派兵部隊を単位として、担当の任務や地域を割り振るはめになる。

 もしも、多国籍軍の指揮権統一が為されたとしても、次に、派兵された軍人の価値を考慮しなければならない。

 つまり、派兵国は、海外派兵を決定しておきながら、自国の軍人=国民が戦死する事を極度に嫌う。政治指導者と国内輿論は、自国の軍人が戦死する事に耐えられない。

 

 しかし、そもそも自国の軍人を戦死させたくないというのならば、海外派兵を決定すべきではない。それは明らかに偽善だ。それも、極大の偽善だ。民族浄化や虐殺を非難するというのならば、同じ国民の血を流しても平和維持活動・平和強制を行う覚悟がなければならない。その覚悟がないというのならば、戦争や紛争を非難する資格など一切ないという事を思い知るべきだ。


⑤総括:著者が主張する戦争のパラダイムシフトと、その分析手法には矛盾がある。クラウゼヴィッツ主義的な戦争観を批判しながらも、三位一体の戦争観を引きずっている。

 しかし、それこそが現代の戦争と軍隊の問題点を浮き上がらせてもいる。戦争のパラダイムシフトに適応できない安全保障機構の中で、著者は、何とか与えられた目的と任務の遂行の為に、組織を目的に応じて改編し、『人々の間の戦争』に順応しようと努力していた。


 そこに、現代の軍人が抱える限界が見て取れる。政治手段として戦争を遂行する現代の国家に対して、文化や宗教の枠内で戦争を遂行する武装勢力と「意思の衝突」を繰り広げる為には、シビリアン・コントロール(政治統制)が逆機能に陥っているのではないか。そのつけを、現代の軍人が背負わされているのではないか。

 正直に言って、私は、本作を読み進めていく中で、政治家や官僚、そして無邪気で無知な国民に対して、怒りを覚えた。著者は、その矛盾の犠牲者なのではないか。政治家・官僚・国民が無責任な決定と言動を繰り返すこの世の中で、まともな精神を持つ軍人は、その真面目さ故に、民主政のスケープゴートになっている。


 ボスニアの虐殺が発生した当時、国際社会というやつは、国連保護軍の無力を激しく批判した。しかし、そもそも、その様な事態を招いたのは、まさに国際社会の怠惰によるものだ。民族紛争・民族浄化を批判しながらも、自国の将兵が戦死する事を拒否する身勝手な輿論が、虐殺を幇助したのだ。勿論、人間は死ぬ事に対する恐怖を持っているし、その感情自体は非難される理由はない。

 しかし、海外派兵をするという事は、軍隊を展開するという事で、それは軍事力を行使する覚悟が伴わなければ、何の効果もない。ユーゴスラヴィアの民族勢力は、国連保護軍と国際社会(その背後にある派兵国の国内輿論)が、自国軍の戦死を酷く嫌う事を正確に見抜いていた。

 だからこそ、虐殺という手段を採っても、軍事的に制裁されないという確信があった。著者は、NATOによる空爆を通して、民族勢力の指導者に対して、「意思の衝突」を仕掛けたが、結局は無力だった。著者は、紛争や虐殺を止める為に、何度も軍隊の展開から、軍事力の行使という段階に移行しようとするが、その度に、派兵国の政治介入が入り、実効性のある軍事行動が妨害されるという有り様だ。


 エドワード・ルトワック博士による著名な論文があるけれども、彼が主張する様に、軍事介入は、紛争や対立状態を長期化・固定化させるだけで、最後まで責任を持つ覚悟がないのならば、安易に軍事介入すべきでない。紛争の当事者同士による徹底的な戦争による他には、平和は訪れないというのは、本書を読み通しながら噛み締めた。



Ⅲあとがき


本話は9,000字程度ですが、おまけの書評は5,000字を越えています。何というか、最近は書評を掲載する為に、本作を執筆しているという字義通り本末転倒の状況です。日本が登場するのはまだ先ですが、第10章から日本に戻る予定です。書評でも触れましたが、軍事力の効用には限界があります。政治指導者は、その限界を良く理解した上で、政治力を行使しなければなりません。第10章に登場する日本政府の高官は、こうした限界を感じ取って、対外政策の基本方針を転換させます。


こうして、政治小説・架空戦記というフィクションを書いていると、歴史上の優れた政治家や将軍がいかに素晴らしいのかを改めて感じます。偶然と摩擦が支配する現実世界にあって、針に糸を通すかの如く、精緻な外交を繰り広げた実在する傑物には、本当に驚かされるばかりです。本作に登場する人物の一部には、実在した政治家や将軍をモデルとしているキャラクターもいますが、そうしたキャラクターでさえ、元ネタの人物を越える事はできませんでした。私としては、元ネタの人物を越える様にしたいのですが、それは未だに叶いませんね。


本作を執筆するに当たって、ネットだけでなく、論文や図書館でも調べる様にしていますが、一番役に立つのが、図書館でしょう。ネットでは見つからない情報の宝庫です。




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