プロローグ
「卒業証書授与、卒業生総代、松下 幸太郎」
まだ肌寒さの残る三月の中頃、私、松下 幸太郎は名門国立最京大学を首席で卒業、明日からはーーー無職です。
両親を早くに亡くし、高校はバイトと勉強に明け暮れた。返還不要の奨学金を得るため、一年の時から、サークル等の課外活動に力を入れ、ボランティア活動、ビジネスプランコンテストと学内だけでなく学外活動に力を入れてきた。学業を疎かにすることはできないため、彼女も作らず、合コンもせず、卒業後の金持ちライフを目指してエリートコースをまっしぐらのはずだった。
しかし、就職活動中に悲劇が襲った。
私の出したプロフィールはあまりにもテンプレ過ぎたのである。
いかにも「自堕落に大学生活を謳歌したパリピ学生」が付け焼き刃でばれない程度の嘘を並べただけのエントリーシート、しかも全部盛りマシマシと来れば面接担当者も苦笑いである。エントリーシートを見た試験官の苦笑いは今も忘れない。
120社を超えて、やっとこさ受かった会社は3日前破産してしまった。
「これからどうすりゃいいんだ・・・」
「まぁなに、今更悲観しても始まらんでしょ、来年頑張れば大丈夫だって!」
優しく声をかけてくれるその男は学年次席の西園寺 将である。
競ってたわけではないが、何かと他人から比べられる私たちだが、大学生活を振り返ってもこいつほど信頼できるやつはいない。身長190cm、細マッチョという言葉がぴったりな短髪がきれいに整えられた好青年は早々に大企業への就職を決め、四月からは海外を飛び回る商社マンだ。
方やこちとら、身長は165cm、高校時代までは頑張って身長を伸ばそうと頑張ったが、学年の平均身長には届かなかった。伸びた髪を後ろで束ねている姿が似合っていたようで、所属していた演劇サークルではなぜかヒロイン役に抜擢されることが多く、ヒーロー役の将との掛け合いは学園祭の目玉の一つとなっていた。
後から聞いた話ではチケット売上と同じくらいにパンフレットの売り上げが好調だったらしい。何でも漫研と合同でなにやら企画していたらしいが、最後まで見せてもらえなかった。
「まぁ、お前のことだからなんとかなるでしょう!最悪実家に戻ればいいんだからさ!」
「それだけは絶対勘弁したい・・・」
実家に帰るなんて・・・それがいやだから遠くの大学に通ってそのままここで就職しようと思ったのに・・・
「そういえば幸太郎の希望業界は何だっけ?」
「最初はITやコンサルを目指していたけど、今となっては何でもいいさ、いっそのこと誰も知らない土地で商売を始めるのもいいかもしれない」
「あれ?都会へのこだわりはなかったの?」
将は私のいきなりの放言に耳を疑った。
「いや、ここまで来ると実家に帰る以外でならどこでもいいような気がしてきた。」
「かなり末期だね・・・とりあえず今日はお互い卒業できたんだから羽目を外して飲み明かそうよ」
それもそっか・・・と思いながらビールの入ったグラスを傾け、一気に飲み干す。
親友と呑む酒は格別であり、いやなことを一瞬で忘れさせてくれる。
きっとこんな他愛もない日常がずっと続くものだと思っていた。
その日の帰り松下幸太郎は姿を消した。