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犬と人の異界見聞録。  作者: うっざ
1/1

犬≠人間

 

 

 おお、神よ。 

 この小さな少年を慰めてください。

 不運の続いた結果、力尽きて朽ち果てた彼を。 

 果てしない絶望に追われ、今公園のベンチで失神しかけている彼を。

 どうか、どうかーーー 


 今の懇願は、西の戦争から逃げてきた、辛い思いをした少年の救済ではない。


 今の願望は、誘拐事件に出会い、

心も体もズタズタにされているであろう息子をせめて癒してやってくれと言う母の願いではない。


 何の変哲もない高校生が、厄日だと神に訴え、救済を求めているそれそのものだ。


 そんな不運な少年、月神妖平(ツキガミヨウヘイ)のここに至るまでの経緯を話すとこんなものである。

 

 朝階段から落ちて気絶し、病院に連れていかれ治療を終えた後、ヤンキーに絡まれ財布をパクられる、誘拐事件の容疑者と間違えられ無駄な事情聴衆、話が噛み合わず長引き、やっと放して貰えたと思ったらひったくり被害に会う、頭に鳥の糞が落ちる、以下略.......自慢する訳ではないが、これは「何とか厄介さん」に次ぐ不幸度ではないだろうか。


 昔は案外運が良く、御神籤も「凶」「大凶」は出たことがない。

 だが最近は厄日の連続、もうたくさんだ。


 もういい、取り敢えず帰ろう。とベンチから立ち上がる。

 階段から落ちた時の痛みが、まだ背中に走る。

 するとふと、ある疑問がよぎった。


 ーーーあの時、誰が救急車を呼んだんだ?......ーーー

 

 両親は早朝から仕事で家に居ないから、家には飼っている犬しか居ないはずだ。救急車で運ばれ気づけば病院のベッドに居た。

 近所には知り合いは居ないし、落ちたときにあまり大きな音は出なかったはず。


 「はぁ、まあいっか。」

 

 短くため息をついて、今日は家に帰ることにした。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 


 ーーー状況を、整理しよう。

 まず目の前に居るこいつは誰だ。

 黒髪の長髪、深紅の瞳、小柄な身体、犬のような耳、....耳?


 「お前何で獣耳カチューシャなんだ?」

 「か、カチューシャじゃないです!本物です!」


 耳が本物だって?馬鹿な。と言いつつ耳へ手を伸ばして確かめる。

 柔らかい感触、どこかで触ったことのあるような........


 「あの....そんなに触られるとくすぐったいのですが....」

 「耳触られてその反応とか育成ゲームのキャラかよ、てか何でここに居るんだお前。」

 「もしかして気付いてないんですか!?僕ですよ僕!耳触られた時に気付いた見たいな顔しときながら!」

 「まあまあ、吠えるな吠えるな。」


 気付いたやら気付いてないやら訳の解らないことを。

 大体なんだ、家に帰れば当たり前のように玄関に座って「待ってました」みたいな顔で。

 まるで家の犬じゃないか.......ん?、犬?


 「あ、」

 「流石にもう気付きましたよね?解りますよね?ねえ!」

 

 ああ、神様。

 確かに私は願いました。

 だがしかし.......


 ーーー何で家の犬を擬人化させたんですか?ーーー 




 「ーーーっていう理由で、」

 

 俺はあの後獣耳に擬人化した経緯を話して貰った。

 といってもこんな流れだ。


 いつものようにゲージの中で寝ていた。→ いつの間にか人になっていた。

 いや全然解らない、少なくとも俺が神に願った事以外は。


 「改めて名乗らせて頂きます。クロワッサン・ロヴィン・アランレイヴと申します。

 以後お見知り置きを。」

 「ロヴィン・アランレイヴてどっから来たんだ.....」 


 あいつの名前はクロワッサンとしか付けた覚えしかないんだが。

 少し余計な名前が付いているが、まあいいだろう。

 

 「え?俺?あー、月神妖平です。どうも宜しく!」

 

 自己紹介を迫られたので、取り敢えずしておいた。

 それにしてもこいつ、人間になった事に動揺がないんだが。

 本当に頭大丈夫だろうか。


 「もう夜遅いし、寝るか。」

 「お休みなさい。」

 「お、おう」


 姿が変わってもなお馴れ馴れしく接してくる彼女に、 

 俺は少し動揺していた。



犬犬犬犬犬犬犬犬犬犬犬犬犬犬犬犬犬犬犬犬犬犬犬犬犬犬犬犬犬犬犬犬

 

 

 事件は起きた。

 それも、殺人事件やテロ事件よりももっと重要な事件が。


 (その日の朝)

 「おはようございます、ペロペロ」

 「う、なんだかへんな感触が......って!」


 躊躇なく顔を舐められて俺は飛び起きた。

 犬ならともかく、今は人間。

 人間は普通人の顔を舐めない。

 この子は頭がおかしいのだろう。

 そも、犬だろうと人間だろうととこれは変態行為そのものなんじゃないだろうか。

 

 「妖平さん、今は8時ですが、時間は大丈夫なんですか?」

 「あ、やっべ」


 アニメあるあるやら学校あるあるやらざわめかれる寝坊だが、

 これは結構焦るのだ。

 支度をしようとドアを開けて階段を急いで下る。

 用意を済ませ、出発しようとしたとき、ドン、と大きな音が聞こえた。

 

 何事だと思い、階段を上がる途中......

 足を踏み外して転落した。

 世界が反転し、朱色に染まる。

 落ちるまでの時間が、妙に長く感じる。

 ああ、これが走馬灯か。


 そしてその日、月神妖平は文字通り、死亡した。




死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死




 ーーーここは、何処だ?


 「......浄土です。」

 「浄土?ああ、仏教の。本当にあったんだ、あの死んだ人がいく......」

 

 待て、待て待て待て待て。

 

 「俺、死んだのか?」

 「いや、正確には世界の階段から転落した、という状況ですね。」


 世界の階段?なんだそれは。

 それって死んだのと何が違うんだ。


 空を見上げると、地上の空とは全く違う、朱い空が目に写った。


 「どうも浄土って感じしゃねぇけど、そこんとこどうなんだ?クロワ」

 「ええ、ここが間違いなく浄土。死者の監獄です。」


 さっきからクロワの顔が白い理由がわかった。

 だがその言葉に、少し引っ掛かる所があった。


 「死者の監獄って、浄土は死者の楽園じゃないのか?」

 「それは遠い昔の話です。今の浄土と言えばこれです。」

 

 つまりは言うとこうだ、ちょっとキツめの異世界にいきなり放り出されたってことだ。

 

 「ま、まあ大丈夫だよ...な、またすぐに地上に戻れる...はず」


 そういってクロワに声をかけるが、クロワは返事せず、少しの沈黙が流れた後.......


 クロワは噴火(・・)した。


 「もうこんなの嫌です!!!今すぐ地に埋まって死にましょう!!!」

 「おいおい何を言う、あとその発言ちょっとメンヘラに近いから気をつけて」


 といってもこのままではどうしようもないので、町を探索することにした。


 「なぁクロワ、俺達このままどうなるんだろう。」

 「きっと食べ物ないから飢え死にですよ。」


 ネガティブな会話をしているだけでも、息が切れそうなくらい気が重い。

 すると誰も居ないはずの廃墟から微かな足音が聞こえた。


 「誰だ?」


 怪しい人影、徐々にその姿がわかってくる。

 サラサラしたベージュ色の髪、蒼い瞳、豊かな胸、毛の少ないピクピクした耳........耳?

 

 「あぁっ!!!」


 驚きの声を発したのは、妖平ではなく、クロワだった。

 

 「あ、貴方は!!」

 「久しぶりね、クロワッサン公」


 また気のおかしなやつが来た、てかまた獣耳か。

 ならさぞクロワと仲がよろしい事だろう。

 

 「ちょ、その名前で呼ばないでくださいって言いましたよね!私が公爵だったことがバレるじゃないですか!」

 「まあまあ吠えない吠えない、で、そちらは?」


 クロワが公爵だった事はさておき、猫耳美女に名前を尋ねられたので答えるとしよう。


 「俺?俺は月神妖平、クロワの飼い主だ。」

 

 なんとなくクロワの飼い主だということを主張しておいた。


 「あら、貴方ペットだったのねワッサン公」

 「否定できないのが悔しい......あと名前!!」


 犬だからか知らないが、さっきから喚き散らしまくるクロワを取り敢えず縛って黙らせて、俺は猫耳に話をして貰った。


 「ーーーという理由で、」

 

 聞くところによると、こいつも世界の階段から落ちたみたいだ。

 それ以外はほぼ俺達と同じらしい。


 「ルミナウィーズ・アラン・ヘルミオネと申します。どうぞお気軽にルミナとお呼び下さい。」

 「おお、格好いい。」


 クロワのときとは対照的な反応をとると、今もなお縛られるクロワは何か言いたげにジタバタする。

 放す気はないが。

 まあ話せる仲間?が見つかって良かった。

 

 


 

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