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いつか還るために

「すげえ」


 駆の声が聞こえる。確かに自分でも信じられないくらい、相手の動きが見てとれる。

 が、一つだけ問題がある。それは、この状態はまもなく終わるということ。

 俺は今、特技を持続しているような状態であり、プラーナを消耗し続けている。


「くそっ!」


 プラーナが尽き、戦闘の支配権がネェルオーガへと戻った。

 ここぞとばかりに激しく動いたため、疲労と痛みで身体がばらばらになりそうだ。

 対して、ネェルオーガは傷だらけにはなったものの、王者の見下す視線になんら陰りはない。

 この期に及んでも、己が負けることなど微塵も考えていないのだろう。


「俊、おれもやる」


 壊れた右腕をだらりとぶら下げる駆が俺の横に並ぶ。満身創痍においてもなお闘るつもりだ。


「ああ、二人でぶっ倒してやろう」


 もうろくに動けない俺は、重傷の相棒に強がりを贈る。


「いいなそれ」

 

 俺たちだって以前とは違う。王者にだって精神的には後れをとったりするものか。

 限界を超えた俺たちがネェルオーガに挑もうとした時だった。


「行きます!」


 待ち望んだ声が響き渡った。

 ――――――俺たちの最大火力。切り札である魔法の発動準備が整ったのだ。

 ネェルオーガは俺たちから魔法を放とうとしている有紗ちゃんに視線を移す。

 彼女の持つ杖の先に、赤く輝くプラーナが充満しているのを目にし、今から魔法を邪魔することは無理だと判断したらしくすぐに腕を交差し防御姿勢をとった。

 魔法を防御し、凌いでから反撃に出るつもりだろう。

 その判断は間違っていない。有紗ちゃんの新魔法は正真正銘俺たちの切り札だ。これで仕留められなかったら俺たちに勝ち目はない。のだが、俺たちの切り札は、表に見える魔法が全てではない。

 ――――隠れている札の裏にも仕掛けがあるのだ! 

 俺は加護を付したネックレスの効果により、僅かに回復したプラーナを口元に集める。


「「「「くたばれー!」」」」  四重のシャウトが発動!

 

 武が残してくれた特技シャウトは、俺たちの切り札となった。

 俺たちの誰しもが武ほど上手くシャウトを扱えないが、その代りに数がいる。

 武がみんなに教えてくれたおかげだ。

 駆、律子さん、凛さん、そして俺の四人同時シャウト。

 魔法に気を取られていたネェルオーガは、予想外の攻撃にショックを受け身体が強張る。

 シャウトがこの化け物に通用することも、俺は知っていた。武が見せてくれたからだ。


「火よ、お願い!」


 凛さんの簡易魔方陣で強化された、有紗ちゃんの新魔法が発動。無防備となったネェルオーガの元へ火の激流が押し寄せる。


「グオオオオオオッ!」 


 巨体といえど炎の奔流に抗う術などないようで、声を挙げて苦痛を現すことしか出来ない。

 その威力は間違いなく、これまで俺が見てきた魔法の中で最大。

 まるで俺たちの想いが灼熱となってネェルオーガの身を焦がしているよう見えた。

 燃える濁流が止まると、黒い塊となったネェルオーガが大の字に倒れる。


「やった…… のか?」

 

 ネェルオーガのプラーナはさっぱり消えていた。

 俺は警戒しないといけないと思いつつも、その場にへたり込んでしまう。

 皆が全霊を尽くした。

 駆は無茶な技を連発した。

 律子さんはその無茶を実現させるために、魔法を連続発動し続けるという無理をした。

 凛さんは、戦う前に出来る限りの備えを授けてくれたし、有紗ちゃんの補助も一手に引き受けてくれた。 有紗ちゃんはこれまでもそうであったように、俺たちの最大火力として勝負を決めてくれた。

 そして。

 ――――武の残してくれた力が俺たちを勝たせてくれた。

 ありがとう。

 単純な実力では俺たちはネェルオーガに負けていた。だが策を練り、全員が力を合わせて燃焼させることでどうにか勝てた。

 これからも仲間一人一人が必死になって困難を乗り越えていくと思う。いや、いかねばならない。

 ――――全ては望む未来を掴むために。


 お腹空いたねー。 

 風に乗って、あの間延びした声が耳に届いた気がした。


「やったな俊」

 

 駆がへたり込む俺の後ろから無邪気に抱きついてくる。


「ああ、俺たちやれたんだよな」


 今更ながら、あの大鬼を倒したという事実に驚く。


「ふう、なんとか勝てたってかんじよね。やっぱり無理にでも戦うことに反対すればよかったかしらね」


 律子さんが澄ました顔でそう言うも、ほんの少しだけ顔がにやけていた。


「みんな無事でほっとしました。あと勝てたこともよかった」

 

 凛さんは瞳を潤ませ泣きそうな声で言った。


「武さんの仇がうてました。でも、気持ちはすっきりしないんですね」


 有紗ちゃんは目から滂沱として涙を流し、自分の心境を語った。

 そうなのだ。仇敵を倒したところで、武の命が戻るることはないという事実がある。

 よって彼を失くしてしまったという事実は俺が、いや俺たちが生きている限りずっとついて回るだろう。

 この喪失の痛みは、ずっと消えることはない。

 だが幸いなことに、今は分かち合える。

 かけがえのない仲間と一緒に、背負っていくことが出来るのだ。 


 だから、先に進むよ武。


お読みいただきまして、ありがとうございます。

本作はこれにて終了となります。

続編の構想もあるのですが、今は他の物語を創作していこうかと思っています。

感想や評価をくれた方々、並びにブックマークつけて下さった方々、そして今この文章を目にされている方々。

ありがとうございます。

またお会いできれば嬉しく思います。

近いうちに次作を投稿いたしますので、よろしければご覧くださいませ。

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