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因縁の相手

 夕食後、俺たちは武が教えてくれたシャウトを練習した。

 いまや形見となってしまった技だからこそ、覚えて戦いの役に立てることで武への餞としたい。

 翌日、さっそく習得中であるシャウトをゴブリンに試したが、成功率は三回に一度ほどだった。これでは 不確定要素が大きすぎて実戦ではまだまだ使えそうにない。

 その代りというわけではないが、凛さんが有用な特技を実戦で披露してくれた。

 杖特技『簡易魔方陣』である

 効果はシンプルで、凛さんの描いた簡易魔方陣の上に乗って魔法を使うと、効果が増大するというものだった。


「ギイイッ!」


 魔法を予期し、防御姿勢をとっていたゴブリン。だが、想定以上の火の玉を受け止めきれず、に緑の肌に燃え広がる。ゴブリンは苦悶の声を挙げた。

 俺と駆は虫の息となったゴブリンに躊躇なく止めを刺す。

 わかったのは、簡易魔方陣と有紗ちゃんの魔法のコンボは、ゴブリンのガードを突き破ることが可能ということ。戦術の幅がさらに広がった。

 奴が相手でも、この連携なら通用するかもしれない……

 口には出さないが、皆きっとネェルオーガの存在をかなり意識している。

 強敵に打ち勝つために、有紗ちゃんは身に余る強力な魔法の習得を試みた。

 凛さんは魔法の力をさらに高める術を会得した。

 律子さんだって強い敵を相手にするにはもってこいの状態にまで覚えた魔法を習熟させた。

 俺は戦いのスタイルを変えたため、後衛三人ほど強敵を打倒するということに特化はできなかったが、それでもいつかは武の仇を討ちたいとは思っている。

 気の強い駆も絶対に同じ気持ちだ。


「あの、ちょっとお伝えしたいことがあります」


 食事の席で珍しく凛さんが会話の口火をきった。


「実はかねがね実験していた錬金術がこの度完成したのです」


 ――実験? つまり誰かに習ったものではない?


「もしかして凛さんのオリジナル術ですか?」


 よもやと思うが、可能性はある。

 彼女自身が地球世界の技術や知識を応用すれば、新たな特技や魔法を作り出すことが出来ると言っていたからだ。


「はい、いちおう」 


 凛さんは俺の問いに対し謙虚に肯定。まさか特技開発を実際に成し遂げてしまうとは……


「どんなモノなんですか?」


「武具に鉄石を錬金することで耐久性能を向上させる術ペーストは皆さんもご存じかと思います」

「はい」 


 実際に俺の短剣と盾。それと駆の金属棒にも、使用期間を長持ちさせるためにペーストの錬金が施されている。


「今回編み出したのはその逆です。武具の耐久力を減らします。寿命を縮めると言った方が分かり易いかもしれません」


 いきなりデメリットを語る凛さん。

 ならば当然にメリットもあるはず。


「その代り、武具の性能を向上させます。この錬金を施すと刃物の切れ味は増し、棒の打撃力も上がります。名前はひとまずブーストと名付けました」


 研ぎ澄ました鋭利な刃物ほど脆く折れやすいと聞いたことはあるが……その論理を実際に実現したのが錬金術のブーストってことなのか?


「この術は、有形固定資産の耐用年数を延長させるのではなく、逆に短縮させた場合の計算式や意味合いから着想を得ました。一回あたりの攻撃による武具の損耗を、減価償却費が発生したと認識します。すると、一回の攻撃による武具の損耗が激しいほどに減価償却費も増えることになります。減価償却費が増えるということは、より多くの資産価値が一度の攻撃で失われることになり、それを与えたダメージと――――」

「説明されても分からないから平気よー」


 律子さんが話を遮る。俺もちんぷんかんぷんだったのでよかった。


「あ、すいません……」


 凛さんは学者さながらに持論を嬉々として語っていたことが恥ずかしくなったらしく、顔を赤らめ俯いた。


「……俊さん、これ受け取ってください」


 テーブルの上にそっと置かれたのは剣帯に収められた二本の短剣。


「これには今言ったブーストの錬金が施してあります。いざという時に使ってください」


 サプライズプレゼントに驚く。まさか既に錬金済みの代物を用意してくるとは。 


「ありがとうございます。大切に使わせてもらいます」


 せっかくの厚意。というかモノが既に用意されているのだから、遠慮したらむしろ無礼だと思ったのでありがたく頂く。 


「はい、動きの邪魔にならないといいのですが」


 心配そうにテーブルに置いた短剣を見つめる凛さん。


「大丈夫そうです」   


 俺は剣帯を腰に装備し、抜剣しやすいように背面で交差させ×の状態にした。

 これで左右の腰に二本、背面に二本の計四本の短剣を装備したことになる。

 軽く屈伸運動をしてみたが、特に動きの邪魔にはならない。

 ――よかった。つくづく思うが、得物が小さく持ち運びが便利なのは短剣のよいところだ。

 翌日から、俺たちは多くのゴブリンたちと戦った。

 一戦ごとに命を賭し、掛け値なしの真剣勝負を繰り広げていく。

 その結果として、おれたちの戦闘技術とプラーナ総量は以前よりもかなり上昇していった。

 そろそろ有紗ちゃんの新魔法も実戦で使えるかも。近いうちに試してみるのもいいかもしれない。

 最初は五人でやっていけるか分からなかったが、なんとか今日まで生きている。 

 

 ――――武、どうにか俺たちやっていけそうだよ。


「⁉」

 

 亡き友に想いを馳せていた時だった。

 遠見で周囲の様子を確認していた俺は驚きで声が漏れそうになる。

 武の仇ともいうべきネェルオーガとその取り巻きのゴブリンを発見したのだ。

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