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子鬼

 傷を負った肩に痛みがないことに気が付いた。見ると、服は破れていたが、噛みつかれた傷跡がどこにもなかった。

 律子さんに治療された? でもいつの間に?


「俊君の傷は戦っている間に回復しておいたわよ。これからは戦闘中でもそれなりに治癒が出来ると思うわ」

 

 俺の疑問に、謎を作った当事者である律子さんが答えてくれた。


「これまで私の魔法は発動時間が長く、杖で患部に触れないと実行できなかった。それは実質、戦闘後にしか傷の手当てを行えないということでしょう。ずっと不便だなあと思っていたのよ。だから私は、癒しの光という特技だけをひたすら磨いて発動までの時間を早め、三メートル程度なら傷口から離れていても使えるようにしたの」

「おみそれしました」


 ずっと以前から自分の魔法の欠点に気が付き、改善するためにこれまでの時間を費やしたという鋭さと意思に脱帽。

 その結果、労力に見合う成果を律子さんは手にした。戦闘中に回復が出来るということは、負傷による戦力低下をリカバーすることが可能ということだ。強敵を相手にするのならば、これほどに心強いものはない。


「ちなみに、杖からタクトに装備を変えたのも、魔法の効力よりも、発動までの早さを重視したからよ」  


 律子さんはタクトを八の字に振りながらそう言った。後衛の装備も杖だけでなく色々と種類があるらしい。それぞれ自分のスタイルに合った武器を選ぶことが重要なのだろう。

 一匹目のゴブリンを倒した俺たちは、今度は有紗ちゃんの魔法と連携し二匹同時に相手をすることにした。

 ターゲットを発見。接触した俺は盾を構えゴブリンと対峙する。

 魔法を使うので今度は無理に攻めない。俺の隣には駆の姿。棒を両手で構えてもう一体のゴブリンと睨みあう。

 一対一の状況が二つ並んだ。この状態を維持していけば、いずれ切り札の魔法がくる。


「ギッ!」


 と思いきや、俺と向き合っていたゴブリンが突然前へと駆けだす。俺は逃げ出すではなく前に突っ込んでいったゴブリンを慌てて追いかける。


 ――狙いは有紗ちゃんか! 

 

 直観的にそう判断。

 魔法を準備している有紗ちゃんのプラーナに気が付き、自分にとって脅威になると悟ったのだろう。

 俺がゴブリンの立場だったら同じことをしたかもしれない。     

 

 ――こいつらも頭を使っている!


 舐めていたつもりなど毛頭ないが、それでも俺の見積もりが甘かったのだ。


「そっちいった! 逃げて!」


 苦し紛れにゴブリンの背中に短剣を投げ刺すが、それでも足は止まらない。俺は必死に追いかけるが、間に合いそうもない。意表を突かれて出遅れたのが痛恨の極みだった。


「はッ!」


 有紗ちゃんを守るようにゴブリンの前に立ちはだかる凛さん。杖を順手で長く持ち、振りかぶってゴブリンを殴打。凛さんがもしもの為に学んだらしい杖技『溜め打ち』が見事に決まった。

 よろめくゴブリンに追いついた俺は、背後から近づき暗殺者さながらに喉を掻っ切る。

 膝から俯せに崩れ落ちるゴブリン。

 危なかった。相手もこちらも必死、まさに殺るか殺られるかの勝負だ。


「いきます!」


 凛さんの号令。いかずちが発動し、駆と対峙するゴブリンの元へ雷撃が見舞われる。

 これで詰めるか⁉


「こいつ、魔法を防御しやがった!」


 駆が驚き叫ぶ。俺たちの切り札を防がれたという受け入れたくない事実。

 認めよう、こいつはゴレムルとは格が違う。


「今いく!」


 俺は走って駆に加勢し、数的有利を活かしてゴブリンを倒した。


「これは、簡単じゃないね」

 

 俺は汗をぬぐい、感想を漏らす。命を懸けた一戦だった。ゴブリンは俺たちの最大火力である魔法を潰そうとし、いざ喰らうとなったら防御した。ゴレムルにはまったくなかった行動パターンだ。

お互いの思惑が絡み合い、それぞれが力と知恵とで己の勝ちを掴もうとする。これこそが本当の戦いなのかもしれない。

 一戦ごとに神経が磨り減る。心が疲れる。殺意というのは、本当に恐ろしいということを俺は今日知った。

 これまで以上に休憩を頻繁に挟み、早めに街へと帰る。ゴブリンから入手したモノを換金した結果、しめて二万ゴルほどだった。残念なことに一日ゴレムルを狩っていた時よりもよりも少ない稼ぎだ。


「エインガードがゴブリンを討伐する意味ってあるのですか?」


 となれば当然の疑問が浮かぶ。


「あるわよ。ゴブリンを相手にするのは大変だったでしょう? 相当神経も使ったはず」

「はい、一筋縄ではいかなかったです」


 初めてとはいえ、ゴブリンを相手にするのは大変だった。ゴレムルとはわけが違った。


「だからこそ、キミたちのプラーナは増大するのよ。相手が強大であれば、キミたちは危険を冒すことになる。危機に直面した時、プラーナの器たる魂が震える。魂が刺激されれば、心の力ともいえるプラーナが増えるのよ」


 厳しい戦いになるからこそ、プラーナが増えていくということか。


「稼ぎはいまいちだとしても、今の俺たち自身が成長するには、ゴブリンはもってこいの相手なのですね」


 俺の推察を聞いたカリーさんが頷く。

 皆で話し合った結果、当分の方針はゴブリンを討伐していくことによってプラーナを高める。

 同時に覚えた特技を習熟させるということに決定した。

 厳しい戦いを繰り返すことが、俺たちの地力を上げることになるのだ。


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