表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/57

新たなる一歩

 二週間が過ぎ、俺たち五人は再び集まる時がやってきた。

 それぞれが鍛錬をし、先に進むための新たな力を身につけたはずだ。

 

 「久しぶり」「おう」「元気だった?」「お久しぶりです」「どうもです」


 短く挨拶をかわし、これからどうするかを決める運びとなった。

 話し合いの結果、俺たちはゴブリンに挑戦することにした。敵を知るには、戦ってみるのが一番良い。ゴブリンをなんなく倒せるようになればきっと奴にだって……


「ゴブリンを倒しにいきます」


 カリーさんと約束していたので、出発前に協会に寄って報告。


「分かった。私も同行します」


 俺たちの決意を汲み取ったカリーさんは厳かに頷く。俺たちはゴブリンの縄張りであるトラバト断層地帯へと赴いた。

 カーデンブルグから灰の森にいく道を途中で右に曲がる。つづらおりになった坂道を登り、山を一つ越えると僅かだが風に潮の匂いが。


「もう少しで到着するわ」


 カリーさんの言葉を聞いた俺たちに緊張が走る。初遭遇で大切な仲間の命を奪い去ったゴブリンは憎たらしいが恐怖の対象でもある。

 俺は剣帯に収められた二振りの短剣をさすり、この二週間で習ったことや学んだことを思い出す。

 トラウマに打ち勝つ為にやれることはやった。

 前を歩く駆だってそれは同じはず。金属棒を肩に担ぐ相棒の姿を見て二人での特訓を思い出す。

 駆いわく棒術で習ったのは、主に敵の攻撃を防御する技術らしい。

 攻撃的なものは特技の足払いくらいしか修めていないと言っていた。

 彼なりに武がいない穴をカーバしようと思ったのだろう。俺がそうであるように。


「すいません。私は二週間のうちに強い魔法を習いましたが、まだほとんど使いこなせていません。まだプラーナが不足しているらしいです」


 出発前、泣きそうな顔で有紗ちゃんは皆に謝った。彼女なりに頑張ったが、背伸びし過ぎたらしい。

 ゴブリンたちの恐怖に対抗するために強力な魔法を求めた。その結果、無理をし過ぎて失敗したのだとしたら、慰めはするが責めることなど俺には出来ない。

 ともあれ、有紗ちゃんの新しい魔法はまだ戦術には組み込めない。

 高さ五メートルほどの岩山が連なるトラバト断層地帯に到着。

 岩山がひしめいており、視界はあまりよくない。


「様子を見てくる」


 俺は左に短剣、右に小盾を装備し、仲間たちから離れ背の高い岩を登っていく。続いて遠見を発動、周囲の様子を確認する。

 岩山の他に、横穴が空いている大山が幾つもあった。ゴブリンの住処だろうか。いずれにせよ穴の中にこもられたら、索敵しようがない。

 目を凝らし続けているとゴブリンを発見。視線で姿を追ってしばらくの間、様子を伺う。

 一匹で歩いている。手には錆の浮いた鉈らしき得物。周囲に味方の影はない。

 俺は岩山を降りて、仲間にそのことを伝える。話し合いの結果、戦いを挑むことになった。

 距離を詰め、ゴブリンを補足。

 駆が棒を両手に構え、ゴブリンに向かって疾走。

 俺も短剣を左逆手で持ち、ディレイファングを発動――刃が紫に染まっていく。駆の後に続く。


「ギイイツ!」


 驚き声を挙げるゴブリンに、長いリーチを活かした駆の棒突きが見舞われる。

 ゴブリンは右手に持った鉈で棒を叩き弾く。そこへ走りよった俺の短剣技ディレイファングが鉈を振りきって隙の出来たゴブリンの右手を掠める。

 すぐさまやってきたゴブリンの反撃鉈はディレイファングによって振りに鋭さがなくなり、右の小盾で余裕を持って弾けた。


「駆、右側から攻めよう」


 今の動きで、ディレイファングが極まったことを察した俺は相棒に提案。


「がってん!」


 駆の突きからの振り上げが見事に決まり、ゴブリンが自分の得物である鉈を取り落とす。

 ――チャンス到来。俺は盾を捨て置き、空いた右手で短剣を順手持ちする。

 左逆手と右順手の二刀で、無手となったゴブリンを攻め立てる。浅く、細かく斬り刻む。


「ガアッ!」


 素手の反撃など恐れるに足らずと思っていた俺に、ゴブリンの乱杭歯が突き立てられる。


「っつ!」


 執念ともいうべきゴブリンの噛み付きにより肩口から出血。


「てめえ!」


 激昂した駆の足払いが決まりゴブリンが横倒しになる。

 俺は倒れたゴブリンにまたがり喉を短剣で引き裂く。飛び散った緑の血が頬を濡らす。

 ゴブリンは悪鬼の形相で俺の頬を殴る。痛さはないが、死に瀕しても衰えぬ闘志に気圧されてしまう。

 これが本当の戦い。ゴレムルとは違う、命ある生物との殺し合い。家畜ですら食べるのみだった俺に、未曾有の領域が迫る。

 抵抗を止めないゴブリンの首に、止めの一撃を加える。


「ヴヴッ」


 断末魔の声を挙げると、ついにゴブリンは動かなくなった。

 少し前までの俺だったら、たとえ敵とはいえ生物の命を奪うことは出来なかっただろう。だが、武を殺されたという事実が、彼岸の境界を越えさせた。

 生温い緑の血を拭っていると身体が拒否反応を示したのか、猛烈な吐き気がこみ上げくる。

 せりあがってきたものを無理やり飲み込むと、立ち上がって大きく深呼吸する。


「報酬を回収するね」 


 俺はゴブリンの死体を漁り、金目のものを探す。駆が肩を叩き「おつかれ」と言って探すのを手伝ってくれた。


「楽じゃないね」


 戦い自体はそれほど苦戦を強いられなかった。


「ああ」


 駆が重く頷く。だが楽ではなかった。ゴブリンも俺たちも命懸けで己の存在を守る為に必死だった。

 カリーさんがゴレムルとゴブリンは違うと言った意味を俺は理解した。 

 ゴブリンの死体から、子袋をいただく。中には古びた硬貨や、見知らぬ石。それにさび付いた指輪が入っていた。

 これらがガラクタなのかお宝なのかは、街に帰ってから鑑定してもらう。 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ