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未来の為に

 翌朝、男部屋に五人の仲間が集まった。それぞれの意思を確認するためだ。


「昨日も言ったけど、私は元の世界を目指すわ」

「……私もです」

「私も、おうちに帰りたいです」

 

 後衛女性三人の意思は既に固まっていた。

 ――俺はこの人たちを、武の代わりに守っていきたい。


「俺もです」

「みんな一緒、だな」


 故に答えは一つしかなかった。

 喪失の痛みは癒えないが、それでも先へ行こうと決めたのだ。


「すいません。戦いのスタイルを変えたいのでしばらく練武館にこもらせてください」

 

 パーティの決意が露わになったところで、俺は今後の方針について希望を述べる。


「悪いけど俺も修行させてくれ」


 俺と同じように、駆も今後の為に考えていることがあるようだ。


「そうね。各々自分を一度見つめ直してから再出発した方が良さそうね」


 律子さんが意見をまとめる。


「はい。私も考えていることがあるのでちょうどいいです」

「私もとっくんしてもっとすごい魔法おぼえてきます」 

 

 こうして、新たな旅立ちは各々の鍛錬から始まることとなった。

 話し合いが終わると、俺はさっそく練武館へと足を進めた。

 ――新たなスタートをきるためには、根本的に戦い方を変える必要がある。


「よろしく。私はカルセヴニです」 

 

 教室で待っていたのは、くすんだ黒髪に淵のない丸眼鏡をかけた、眠そうな眼をした男性だった。やや猫背の細身な身体、歳は三十くらいだろうか。


「よろしくお願いします。俺は」 

「待ってください」 


 カルセヴニ先生が手のひらで自己紹介の中断を促してきた。

「名前はいいです、どうせ忘れるから。とっとと手習いを始めましょう」

 

 ぞんざいな扱いに悪い意味で驚く。

 同じ先生でもカリーさんとはえらい違いようだ。


「では基礎の初めからいきましょう。短剣には持ち方が大まかに二種類あります」

 

 俺は弓を扱うことを諦め、新たに短剣を己の得物として選んだ。

 調べた結果、短剣術は体術の動きに似ている部分があり、これまで積み重ねた駆との組手練習を活かせると分かったからだ。盾も装備できるし。

 それに俺のような体格に恵まれていない人間にも、短剣なら無理なく扱えると思ったというのも理由の一つだ。

 自分には、武のように山となってその場を動かず、圧力をかけて敵を止めることは出来ないだろう。

 だったら自分なりにどうしたら良いのかを考えて、仲間を守るためにやってみるしかない。


「順手持ちと逆手持ちです。順手持ちは包丁の持ち方と同じ。逆手持ちはキミたちの世界でいうアイスピックの持ち方と同じです。理解しましたか?」

「はい」


 カルゼヴニ先生曰く順手持ちは攻撃と突進突きに優れる。逆手持ちは手を引いた際に刃が邪魔にならないため、徒手空拳と同じような感覚で扱うことも出来るらしい。故に順手持ちよりもより少ない隙で攻撃が出来るだろう。

 それぞれの特徴を活かし、順手と逆手を持ちかえながら戦うスタイルを今から教えると説明された。  


「ここまでは基礎の基礎的な話。次は短剣特技の特徴について教えましょう。そのためにまずはこちらから」

 

 カルセヴニ先生は短剣ではなく、刃渡り七十センチほどある片手剣を手に取る。


「いいですか、見ていて下さい。」


 先生が剣を持って脱力し、ふいに縦と横の連続切りを放つ。言われた通りによく観ると、素早い二段斬りが空を十字に裂いていた。

 これがいったい何だというのだろうか? そもそもこれから短剣特技を習うのに、なぜ片手剣を使っているのだろうか?


「そしてこれが片手剣特技、十字斬りです。いきますよ」

 

 穏やかだった先生のプラーナが針のように研ぎ澄まされていく。研磨されたプラーナが身体を駆け巡り、先生が剣を振る。

 剣閃が十字に煌めき、縦と横の斬撃が同時に空を刻む。まさに十字の一振り。先に見たのが素早い連撃なら、今の特技は縦と横の同時攻撃だ。


「……お見事です」

「続いてこれが短剣特技のディレイファング。キミがこれから覚えようとしている技です」


 俺の声を無視し、先生は説明を続ける。少しむなしい。

 先生は剣を放り投げると、今度は刃渡り二十センチほどの短剣を右手に持った。


「いきますよ」 

 

 声と同時に先生の身体を包むプラーナの一部が、手に持つ短剣の刃部分へ集まっていった。刃に集められたプラーナが白から紫へと変色し、おぞましい濃い紫色に輝く。


「これがディレイファングです。この状態で刃が相手に触れれば、切り裂いた箇所の動きを鈍らせることが出来ます」


 紫紺に輝く刀身を指でちょんちょんと触る先生。俺にはその一連の変化が、ただのナイフが毒ナイフになったように視えた。


「さて、ここで問題。片手剣特技と短剣特技の違いについて何か気が付きませんでしたか?」

「十字斬りの時は、身体全体のプラーナを変化させていました。でもディレイファングの時は一部のプラーナを刃に集めていました」

 

 先生からの質問に感じたことを素直に述べる。


「その通り。短剣特技の特徴として、身体全体のプラーナを使うのではなく、一部を刃部分に集める技が多いことが挙げられます。ちなみに短剣と片手剣では技の性質がもまるで異なります。それにプラーナの消費量も。どちらが少ないかは分かりますね?」

 

 片手剣は身体全体のプラーナを使っていたが、短剣は刃に集めた分だけのプラーナを使用していた。よって答えは明白。


「短剣ですか?」

「その通り。短剣特技の特徴として、燃費が良く相手の状態に異常を引き起こす技が多いということを覚えておいて下さい。ちなみに片手剣は直接的なダメージを与える技が多めにあります」

「はい」

 

 忘れないように先生の言葉を持ってきた本にメモしておく。


「よろしい、では実習にはいりましょう。ところでキミは左利きですか? それとも右利き?」


 俺は先生の問いにしばらく頭を悩ませ、


「左です」


 この時間(・・・・)は左利きの作法を習うことにした。


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