盾を担う少年の秘密2
僕に話しかけてくれたパラディンのジョーさんは盾という敵の攻撃を引き受ける役割。
神官の楓さんはヒーラーという仲間を回復する役目。
吟遊詩人のマサムネさんはバッファーという仲間を強化補助する役割。
そしてアタッカーである僕は攻撃して敵にダメージを与える役目だ。
ボスのトロルに挑む。
パーティでの戦いは新鮮だった。
トロルの敵愾心を盾のジョーさんに集め、その隙に僕が特技タイガーファングで攻撃を加える。
ヒーラーの楓さんが攻撃を受けダメージを負ったジョーさんを回復。
バッファーのマサムネさんが攻撃力を高めるスキル、バトルソングで補助をする。
みんながボスを倒そうと懸命に役割を果たそうとしている。
奮戦していると、ボスのヒットポイントゲージが残り四分の一になった。
――――あと一息で倒せる!
勝利への予感に手が震える。
その時、ボスがこれまで見せたことのない行動をとった。
画面に表示されるへヴィインパクトという見慣れぬスキル名。棍棒を振り上げたボスが、次の瞬間思い切り地面に叩きつけた。地面がえぐれ衝撃波が発生、波紋がひろがっていく。
ボスが使った派手なエフェクトのスキルは、その威力もかなりのものでパーティの被害は甚大だった。
盾であるジョーさんとアタッカーの僕が倒れ、後ろにいる楓さんとマサムネさんも瀕死に陥った。僕たちはあと一歩のところでボスに敗れてしまった。
「なにあの初見殺し。ひどくない?」
ジョーさんが文句を垂れる。
「いやーびっくりしたね。思わずコーヒー吹いちゃったよ」
マサムネさんがほのぼのと感想を漏らす。
「あのくそトロルが! 次はぎたぎたにしてやんよ! タケシンさんがな」
楓さんは闘志を漲らせ、ボスへの復讐を僕に丸投げした。
負けたというのに気まずさはなかった。むしろみんな敗北を愉しんでいるようにすら思えた。
――――この人たちと一緒にボスを倒したい。
「何かアドバイスあります?」
そんな風に思った僕は、自分から一歩踏み込んで話をした。
「そうだなー。たぶんボスのヒットポイントが減るとさっきの攻撃がまた来るから、四分の一になる辺りから用心した方がいいかも。次は俺も気を付けるから」
どきどきしながら返事が来るのを待っていると、いくらか間を置いてからジョーさんがチャットをくれた。
「アドバイスありがとうございます」
僕はジョーさんの助言を頭に刻み、お礼を打ちこむ。
ボスとのリベンジマッチが始まる。順調に攻撃を加えボスのヒットポイントを削っていく。
「そろそろかな」
ジョーさんのチャットが画面に映る。
「オッケー」
マサムネさんがみんなの防御力を上げる補助呪文をかける。楓さんが大きく後ろに下がりボスから離れる。
ジョーさんが盾スキルを使用し、防御力を高める。
「いこう!」
号令に従い、「了解です!」と応える
僕はボスへの攻撃を再開させる。
そこへ、ボスの大技へヴィインパクトがやってくる!
衝撃波をまともに受けた僕はなぜか無傷――否、ジョーさんがスキルかばうというスキルで僕のダメージを引き受けてくれたのだ。
「俺は生き残れなかったか。タケシンさん、あとは頼んだ!」
二人分のダメージを受け戦闘不能になったジョーさんからの遺言を託される。
「はい!」
彼の想いに応えたい!
バトンを受け取った僕はスキルタイガーファン具をこれでもかと、ボスへ浴びせまくる。
すると、僕らは瀕死状態に陥りながらも、なんとかボスを撃破することが出来た。
「やったー! みんなおつー」
「今日のコーヒーは苦かったぜ」
「あの○○トロルが! ざまあ」
勝利に喜ぶ三人。僕も嬉しい。
それは今まで倒せなかったボスがようやく倒せたからというだけではない。
むしろ四人で協力して、強敵に打ち勝つことができたことの方が僕の心に響いた。
「タケシンさん。よかったらフレンドになろうよ?」
僕が勝利の余韻に浸っていると、ジョーさんから思わぬ言葉が。
「はい、ありがとうございます!」
断る理由などなかった僕はすぐさま返事をする。
すると、フレンドのお誘いがありますというテキストがパソコン画面に表示された。
オッケー表示をクリック。結果として、それまで誰もいなかったフレンドリストにジョーさんの名前が表示された。
「あ、私もー」
「同じく便乗」
促されるままに楓さんとマサムネさんの二人ともフレンドになる。
現実世界で出来なかった友達が、まさかこんなところで出来るとは思わなかった。人生分からないものだ。
そんな胸が躍る体験もあったせいか、僕は時間を忘れてこのゲームにのめり込んでいった。
フレンドになった楓さんとマサムネさんは主に夜になるとゲームにインしてきたが、パラディンのジョーさんは僕と同じように四六時中インしていた。
そういうわけで、僕はジョーさんと行動を共にすることが増えていった。
プレイの時間帯と気が合った僕たちは四六時中行動を共にし、瞬く間に深耕を深めていく。
気が付けばそれぞれ「タケ」、「ジョー」と呼び合うようになっていた。
ジョーは社交的な奴で、彼と一緒に冒険をすることで様々な他のプレイヤーと知り合いになれた。
現実世界ではどこにもなかった居場所が此処に出来た。
ゲームのアップデートが近づく度にそわそわし、心待ちにする僕とジョー。
時には運営会社の対応に愚痴をこぼしつつも、僕たちはしっかりとゲームを楽しんでいた。
レア装備を二人で取りに行こうとして、宝を守るボスに返り討ちにされたこともあった。
二人での時間が増えていくと、当然会話も増えてくる。そして会話の中身もゲームに関することだけではなく、プライベートな話題になることも。
「タケって何してる人?」
それは、いつかは聞かれるだろうと思った質問だった。だから僕は、そう聞かれたらどう答えるか、あらかじめ決めていた。
「一日中、ゲームをする仕事をしているね」
嘘はつきたくなかった。ジョーは初めて出来た友達だったし戦友だから、彼には正直でありたかったのだ。
「はは、俺と一緒だね」
僕の言葉にジョーがそう答える。
「うん、知ってた」
だっていつも僕と一緒にいることが出来るのだ。きっとジョーは自分と同じような環境にいるのだろう。こんな話をしていると、彼との間に親近感のようなものが芽生えた。




