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必勝パターン

思わず声が出てしまった。


「ん? ロマンがあっていいじゃん。必殺技っぽいしよ」


 反論する駆は、少しばつが悪そうだった。 


「腕、痛いんだろ?」

「すこしだけ」

 

 駆は強がりと気まずさからか、そっぽを向いた。 


 「ふう、使う時は切り札としてだね」

 

 駆だってせっかく覚えた新特技を真っ向から否定されたのでは気分が悪いだろう。

 だから俺なりに駆のメンツを傷つけないよう配慮しておく。


 「まあ、いまんとこはそれでいいや」 

 

 小さな特攻隊長はひとまずそれで納得してくれた。

 駆の特技オーバーブロー。それは僅かな隙で強力な一撃を繰り出せる必殺技。

 が、使用することの代償は大きい。なにせ右腕一本を犠牲にしてしまうのだから。使えば実質戦闘不能になってしまうといっても過言ではない。

 使いどころがすこぶる難しい技だ。というか、この技を使わなければならない状況に陥ることがそもそも恐ろしい。

 故に、せっかくの特技であるがあまり実戦で使うことはなさそうだと俺は心の中で結論づけた。 

 だが、自分にダメージが返ってくると知りつつ、この特技を習得した駆の心意気には敬意を表する。彼はとても勇気がある。

 駆の腕を律子さんに治してもらい、俺たちは新たなゴレムルに向かって歩き出す。

 戦いに入った俺たちは、いつものように前衛が足を止め、有紗ちゃんの魔法で仕留める作戦に切り替えた。


「いきます!」


 魔法発動の準備が整ったという合図。

 いつもならここで前衛が連携して魔法の射線を確保するのだが、今回は武のシャウトが活躍。


「ぬおおおお!」


 武の咆哮にゴレムルがショックを受け動きを止める。

 その後、前衛のおれたちが一斉に飛び退くと、有紗ちゃんの杖の先から黄色い光の球体が射出され、ゴレムルへと向かって飛んでゆく。

 黄色の球はゴレムルの真上へと進み、そこでぴたりと動きを止める。

 ――――途端に光が弾け何撃もの雷となってゴレムルへと降り注ぐ。

 これが有紗ちゃんの覚えた新しい魔法、『いかずち』である。

 雷撃がゴレムルの身体を焦がすと、白い煙が濛々と立ちこめる。そこに飛び退いて距離をとっていた俺たちが再び詰め寄り、ゴレムルに止めを刺した。

 有紗ちゃんが覚えたかみなりは、威力こそ火の玉と変わらないが、攻撃の軌道と範囲がまるで違った。火の玉が直線なのに対し、かみなりは斜め上に角度をつけて敵の元へ進んでいき、真下に落ちる。火の玉と比べて味方に当たる可能性は低いと思われる。ただし、かみなりはある程度の範囲に万遍なく落ちてくるので、距離を取らないと巻き添えをくらってしまう可能性があるので、一概には言えないか。

 だからこそ、上手くいけば複数の敵を一網打尽に出来るかもしれないが……

 使い方が大事なのは間違いない。

 あといかずちを使う際は、範囲は広いが火の玉よりも射程が短いということも考慮しないといけないだろう。

 今の戦いで分かった一番の収穫は、シャウトで敵がスタンしたところへの魔法攻撃はとても強力な連携だということ。

 皆の特技のお披露目も終わったところで、一つ挑戦したいことが出来た。それは、


「今の感じなら二体同時にでも相手に出来るかな?」

 

 俺としては、覚えた特技を駆使すればやれると思う。いや、やれる。


「お、いいじゃねえか。やったろうぜ」


 強気な駆はすぐにやる気になり、


「僕もいけると思う」

 

 武もそれに乗ってきた。後衛の三人もこっくりと頷く。

 

 意見が揃ったので、俺たちは少しだけ上の戦いへと手を伸ばすことになった。

 二体のゴレムルを発見。

 それぞれを駆と武が相手取る。俺は戦線が綻びそうになった方へと加勢し、それ以外は援護射撃でゴレムルの動きを牽制する。

 複数を相手にする上で意識することは、かみなりの魔法を二体同時に当てる。これが予め立てた作戦だった。

 前衛二人がゴレムルに向って走り出す。

 武は立ち止まると、剣と盾を使って、ゴレムルを斬るというよりは豪快に押し込む。兜を装備したことで今までよりもさらに思い切りがよくなったかもしれない。

 駆は足を使ってゴレムルの攻撃を躱しながら、隙あれば踏み込んで突きを繰り出す。彼の基本的な体術はこの七日の間にさらに洗練されていた。

 駆と武。二人の戦いを間近で見続けている俺だからこそ、動きの変化が分かった。

 ―――前衛二人の成長が、ゴレムルと一対一での勝負を可能にする。


「いきます!」「ぬおおおおお!」

 

 凛さんの掛け声を合図に呼応し、武のシャウトがゴレムルたちに向けられる。見事二体とも身をすくませることに成功。

 数瞬遅れ、かみなりがゴレムルたちに降り注ぐ。白煙を上げるゴレムルにすかさず前衛二人が止めを加える。 

「大勝利!」


 自分ががこの森の王者だといわんばかりに右手を掲げ余韻にひたる駆。

 俺たちは強い個体に続き、複数相手にも勝利を飾った。

 もうゴレムル相手にはそうそう後れを取らないだろう。となれば、そろそろ次のステップを考えても良いのかもしれない。

 この日、俺たちは十八体ものゴレムルを倒した。もちろん新記録だ。

 満足のいく成果を得た俺たちは、気分よく街に戻る。


「ゴレムルはもう俺たちの敵じゃないな! そろそろ他のモンスターに挑んでみてもいいんじゃねえ?」

 

 パンを頬張り、瞳を爛々と輝かせる駆が提案。


「俺たちも最初の頃よりはだいぶいい感じになってきたよね」


 駆ほどの自信は持てないが、それでも手ごたえは俺も感じている。 

 いずれ俺たちは北へと向かうのだ。慢心はよくないが、卑屈になるのはもっとよくない。後ろ向きな思考になると先のことが考えられなくなるからだ。


「確かに私たちは以前よりも強くなっていると思うわ。でも、ゴレムルを相手にもう少し経験を積んで強くなりましょう。私は他のモンスターを相手にするのはまだ反対だわ」 

 

 水を差すような発言をしたのは、律子さんだった。


「実は先週同行したパーティとトラバト断層地帯というところに行ったの。そこでゴブリンっていう小さな鬼みたいなモンスターと戦ったのだけど……ゴレムルとはモノが違った。うまく言えないのだけど、私たちにとってもゴブリンとの勝負は厳しいものになると思う。だからもうちょっと強くなってから挑んだほうがいいと思う」


 経験者かつ、根はしっかり者の年長者である律子さんの言葉には重みがあった。


「うん、僕も律子さんの意見に賛成です」 


 武も律子さんの発言に何か思うところがあったらしい。


「なら今後もしばらくの間はゴレムルを狩る。区切りの良いところでまた新たな特技を覚えて戦力アップを図る。そんな感じですかね?」

「あいよ」

 

駆が不満そうながらも納得。他に反対する仲間もいなかった。

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