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シャウトなブロー

 一時間ほどで灰の森に到着。前衛である俺たちが買ったばかりの防具を装着する。

 武は鍔のあるどんぐりのような形をした金属性のヘルムを買ったようだ。他は予算がなかったのか以前と変わらない。頭部の防御を優先したのだろう。

 駆は黒い光沢を帯びた革製の胸当。同じ黒で塗装された、額部分に金属を張り付けたはちまき、ならぬハチガネを装備していた。あとは小手とブーツも新調したのか黒で統一されている。忍の者でも意識したかのような恰好だ。

 

 さて、俺の新特技を披露する時がついに来た。

 

 皆に遠見の効果を説明した俺は、背の高い木を見定めると、枝に足をかけて登っていく。下の方から「地味だなあいつは」という駆の声と、「でも便利ですよ」とフォローする凛さんの声が聞こえる。

凛さんの言葉に感謝をしつつ、一方的に親近感を抱きながら頂上まで登りきる。


 ――遠見を発動。


 白い木と葉によって視界はかなり狭められたが、それでも全く視えないということはなかった。周りを見渡し索敵の範囲を広げていくと、ちらほらとゴレムルの姿が。俺はゴレムルの居場所を頭に記憶し、接触する為のおおまかな路順を思い描く。それから地上に戻って皆を先導した。


「よし、いこうか」


 スムーズにゴレムルを発見すると、勢いよく駆と武が飛び出していった。

 俺も二人の後にすぐさま続く。ゴレムルと間合いを取る駆と、果敢に距離を詰める武。新しい特技をさっそく試すつもりのようだ。


「ぬううおおおお!」


 武の雷鳴のような咆哮が耳をつんざく。木々は震え葉が揺れる。

 同時に石腕を振り下そうとしていたゴレムルの動きが止まった。 

 事前に説明を受けていなければ、俺の身体まで硬直していたかもしれない。

 この猛々しい叫びこそが、武の覚えた新しい特技である『シャウト』だ。

 動きを止めてやろうという意思を声に乗せ叫ぶ。それにプラーナが反応し、物理的な効果を生み出すという特技である。

 簡単に言えば、叫んで相手をびっくりさせ、僅かな間動きを止める技だ。


「やった。成功した」

 

 覚えた技がゴレムルに効いたことに喜ぶ武。

 シャウトは相手に効果が及ばない場合もあるらしく、同じ相手に何度も使うとその度に成功率は下がるらしい。武いわく猫だましのようなものとのことだ。

 だが、成功すればその効果は大きい。戦闘中に数秒稼げるということは絶体絶命のピンチすら凌げる可能性があると思う。

 しかも、シャウトは共用特技なのでその気になれば俺でも覚えられるというところもポイントが高い。武はパーティの為に良い特技を覚えてくれたと思う。


「てめえの顔も見飽きたぜ!」


 武の作った隙を活かし、駆が右拳にプラーナを集める。どうやら彼も覚えた特技を披露するつもりのようだ。駆の拳に赤いプラーナが収束、輝きが増していく。


「奥義、オーバーブロー!」


 拘束が解け動き出したゴレムルの胴に向かって、駆のプラーナが収束した拳が放たれる。

 赤い光を宿した拳が石の胴体にめり込むと同時に重い衝撃音が発生。石で出来ているゴレムルの身体が突きあげられる。

 ゴレムルの浮いた身体が地面に着くと、すぐに崩れ落ちて砂となっていった。


「!?」 


 開いた口が塞がらない。駆からとっておきの一発とは聞いていたが、まさか魔法なしで、しかも一撃でゴレムルを倒してしまうほどの威力だとは思わなかった。 


「駆、すごいな」


 俺は素直に仲間を称える。


「……だろ? これが修行の成果だ」


 得意げな言葉と裏腹に駆の顔は苦々しい。


「どうかした?」


 異変に気が付いた俺が声を掛けるが駆は黙って横に首を振った。


「ちょっとごめんね。駆くん右腕見せてもらっていいかな?」

 

 近づいてきた律子さんの言葉は、ゆったりとはしていたが有無を言わせないという圧力があった。彼女は駆の顔色が優れないことから何かを察知したらしい。


「いや、いいよ。っておい!」


 駆の言葉を待たずに律子さんが実力行使で彼の袖を捲り上げる。


「あらま」

 

 駆の右腕を晒すと、律子さんに驚きの声。

 彼の腕がとんでもないことになっていた――右腕全体が赤く腫れあがっていたのだ。


「なにこれ?」


 拳で殴ったのだから、拳が腫れあがるのならまだ分かるが、腕そのものが赤く膨らんでしまうなんて、いくらなんでも異常に過ぎる。


「ちっ。まさかここまでオーバーブローの反動があるとは」

「どういうこと? 説明しろよ?」


 俺は反動という単語に反応する。


「この特技はな、プラーナの消費もそこそこで魔法ほどの溜め時間も必要ない。ただ、たった一つだけ欠点がある。技を使った時の反動で自分もダメージを受けるんだよ。今の感じだと右腕はこのままだと厳しいな」

 明かされたのは衝撃の事実。


「だめじゃんそれ」



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