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再集合

 市壁の門の前で七日ぶりにみんなと顔を合わせる。


「久しぶりー。みんな元気だった?」


 律子さんが変わらぬ笑顔で手を振る。俺の目線は顔の下にある、彼女が着ている目新しい服へと注がれていた。

 それは白を基調としたフードのついたローブで、袖と襟の部分には赤い模様が散りばめられている。

 看護士のイメージである白と、魔法使いが着ていそうなローブが組み合わさったような服装だなという印象を受けた。

 個人的には治癒の魔法を扱う律子さんのイメージにはマッチしていると思う。

 そんな律子さんとは対照的な濡羽色のローブを着ているのは有紗ちゃん。

 サイズが大きいのか、袖からは指先だけしか出ていない。頭には先っぽがちょこんと折れた藍色の三角帽子。魔法少女から魔女っ娘へクラスチェンジした印象。

 仮装をしているようにも見え、ハロワインで見かけたらついお菓子をあげたくなってしまうような可愛らしさがあった。 

 凛さんは若草色の丈が長い上着にケープを羽織っており、恰好だけ見れば、パイプを燻らせている昔の探偵のようにも見える。


「みんな、装備買ったんですね」


 俺は、綺麗可愛い美人の三人に目を奪われる。

 彼女たちの恰好は、今の地球世界では奇抜とされるが、それぞれ似合っているところがすごい。

 ――が、身を守る防具としては頼りないのではないか?


「はい、ちょっと恥ずかしいのですが、契約した精霊の力を効率よく引き出す為にはこういった格好が適しているようです」

 

 俺の疑問に答えるかのように、率先して説明を始める凛さん。趣味で服を買ったのではなく、しっかり実用的な防具を選んだと言いたいのだろう。


「じゃあ三人の魔法にも影響が?」

「はい。僅かですが魔法発動に伴うプラーナの消費を抑えられています、他には魔法の発動時間短縮の加護も付しています」

 

 俺は息を飲んで驚く。前衛が防具を装備する理由とはまったく違う。

 後衛にとっての防具とは身を守る為のものではない。


「なるほど」


 魔法をより効率的に扱う為にあるらしい。アストヴェリアに来てまた一つ、俺の知る既成概念が崩れた。


「それに私たちの契約した精霊は基本的には金属を嫌う為、鎧などを着こんでいるとの力が弱まってしまいます。相性が悪いのです。」

「重装備の魔法使いはありえないのですね」

「はい、そうなりますね」

 

 理にかなった装備を選んだ結果が、三人の今の姿だと納得。


「白は汚れが目立つから、ほんとは黒めの色が良かったのだけどねー」

 

 律子さんが布を引っ張りながら愚痴る。機能的な理由を把握しても尚、彼女は自分の感性に素直だった。


「あ、みてみてー。このペンダント凛ちゃんから貰ったのよー」

 

 律子さんは胸元をまさぐり、先にくすんだ赤い石のついたペンダントを摘みあげる。


「お、どういうこと?」


 皆を代表するかのように駆が質問。


「これは赤銅石を加工して作ったアクセサリです。私はこの七日の間に赤銅石を錬金加工する技能を学びました」


 鉄石を武具に錬金して耐久性能を上げたように、この赤銅石のペンダントもきっと何かの意味があるのだろう。


「このペンダントはそのまま身に着けているだけでは特に意味はありません。しかしながら私のプラーナを赤銅石に流し込むことによって、装備者のプラーナ自然回復を促進させる効果を生み出します」

 

 凛さんのプラーナをアクセサリの装備者に分け与えるとい認識でいいのだろうか? 


「本来なら私のプラーナを直接他人に分け与えることが出来ればベストなのですが、プラーナは個人によって細かな質が異なるためそれは叶いません。故に、赤銅石に私のプラーナを送り込むことによって、プラーナ回復補助の加護が発動するようにしたのです」

 

 凛さんいわくプラーナは直接受け渡しが出来ない。だから赤銅石を媒介にし、自然回復力を高めるという効果に転換させたらしい。

 よく考えている。便利な能力だ。

 きっと凛さんは自分だけがプラーナを温存していてもあまり意味がないと感じ、こんな特技を身に着けたのだろう。彼女の気持ちには俺も共感出来る部分が多い。


「というわけでペンダントは人数分用意しましたので、お渡ししておきますね」

 

 凛さんは説明を終えるとペンダントを全員に配った。 

 実戦で俺が加護を付してもらうことはほとんど無いだろうが、プレゼントはありがたくいただいておく。

 お返しはこれからの狩りで役に立つことによって返したいところだ。


「凛ちゃんすごいわよねー手先が器用で」


 褒める箇所が違う気がするのだが……


「律子さんは何をしていたのですか?」

 

 ペンダントの先を指で弄ぶ彼女に問う。


 「よくぞ聞いてくれました!」


 腰に手を当てて胸を張る律子さん。


「私は新しい特技を覚えるよりも、今覚えている癒しの光をもっと上手に使えるようにしたいなと思ったの。で、色々考えた結果、他のパーティに同行して魔法のコツを教えてもらうことにしたの」


 律子さんは以前の俺と同じように、余所を見て学ぶということをしていたらしい。


「だから私はこの七日間。別のパーティに付いていって色々と学んできたわ。もちろん分け前もしっかりもらったわよん」


 俺とは違い、治癒の特技を持つ律子さんなら引く手あまただろう。報酬を貰えるのも当然か……


「余所を見て色々と気が付くこともあったわ。魔法も、コツを教えてもらって発動時間がだいぶ短縮した。さらにお金も稼いだ。これぞ一石三鳥、なかなかでしょう?」


 にっこりと大人の笑みを浮かべる律子さん。

 観察上達収穫という三拍子を一度にこなした彼女は、おっとりしているように見えて侮れない人だと思う。 


「もちろん、稼いだお金はちゃんと両替商に預けてあるから使い道はみんなで相談して決めましょう。それじゃいきましょうか」


 さらに仲間たちへの気配りも忘れていない律子さん。さすが大人。


 

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