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みんな考えている

砂のなかから赤銅石が二つも。


「やった」


 この瞬間、俺たちの卒業が決定。

 課題をクリアした達成感と共に、心地の良い疲労に包まれる。


「おめでとう。今日はおごるから皆でご飯に行きましょう」


 俺たちはカリーさんの好意に甘え、食事処竜の住処にて夕食を摂ることとなった。


「この調子でこれからも頑張ってね。このままいけば、そんなに遠くないうちに次のステップに進めると思うわ」 

 

カリーさんから労いの言葉をいただく。


「次、ですか?」


 同時に気になる単語も。


「ええ、北の大穴から出現したモンスター種の討伐よ。強力な固体ほど大穴のそばに生息しているから、この辺りにいるモンスターはそれほどまでには脅威でもない。だけれど、魔石モンスターとはまるで異質な存在なの。だから新たなモンスターを討伐しに行く時は、私に声を掛けてね」 


 カリーさんの話を聞いた俺は、協会の張り紙に描かれていたあの凶悪な顔を思い出す。確かに無機質な魔石モンスターのゴレムルとはまったく異なる存在だった。

 だが、いつかは倒さなければならない相手には違いない。そのためにはもっともっと力をつけなければならない。   


「はん、首洗って待ってろよ!」


 まだ見ぬモンスターに向かって吼える駆。彼の辞書に弱気という文字はないらしい。


「そういえば、凛さんの動きちょっと変わりましたね」

 和やかに食事が進む中、俺はふと気になったことがあった。 


「はい。有紗ちゃんの前に立つようにしました」


 そう、凛さんがまるで有紗ちゃんをかばうように前に立っていることが気になったのだ。

 魔法の準備中にもし有紗ちゃんが狙われたとしたら、中断して下がればいいだけのことなのではないだろうか? 同じ後衛である凛さんがわざわざ守ろうとしなくても良い気がする。


「有紗ちゃん、物凄い集中力でして。一度魔法の準備に入ると、周りのことを一切意に介さないのです。だから私が守らないと」


 俺の内なる疑問に率先して答える凛さん。

 考えていることなどお見通しなのかもしれない。


「有紗ちゃんの名誉のために言っておくけど、もともと魔法を発動するにはかなりの集中力がいるのよ。集中がおろそかだと失敗しちゃうから。だから物凄い集中力があるっていうのは魔法使いにとって欲しい才能なのよ」


 律子さんが割ってはいる。   


「はい。だから有紗ちゃんを責めているのではありません。尊敬しているので、万が一の時は私が守ろうと思っただけなのです」 


 今はまだ戦闘自体にはなかなか加われない凛さん。歯がゆい思いがあるのかもしれない。

 俺にも気持ちは分かる。  


「どうも、ありがとうございます」 


 皆の会話を聞いていた有紗ちゃんは、照れてしまったのか顔を赤くして下を向いていた。

 夕食を終えた俺たちは、カリーさんに見送られながら宿へと向かう。

 一息ついた後は、恒例である俺による視覚強化の授業が始まる。とはいっても、一通り説明も終わったので、あとは自主練習になるのだが。

 後衛三人は既に卒業しているので男三人のむさくるしい時間が始まる。


「みえろお!」

 

 声を張り上げる駆。


「大声を出しても視えるようにはならないよ」


 力の入れどころを間違えている駆にアドバイス。


「ふう、お腹すいてきたね」

 

 息を吐き出す武。


「武、視ることに集中しよう。雑念は駄目だよ」


 俺は笑いをこらえて武を嗜める。さっき夕食を食べたばかりなのに武はもう空腹らしい。

 一時間程で授業を切り上げ、残った時間で今度は駆が先生となって組み手の講義が始まる。武も俺たちの隣で剣を持ち素振りを開始。

 さらに一時間ほど汗を流した所で、今日の自主練習はおしまいになった。


「ふう。そろそろ風呂いくか」


 駆の声に賛成し、俺たちは三人で浴室へと向かう。

 建物の中に入って服を脱ぐと、武の身体に無数の痣を発見。


「怪我、治してもらわなかったの?」

 

 俺は斑模様にになった武の肌に着目。


「うん、ちょうど律子さんのプラーナが切れていたみたいだったし」

「今からでも治してもらえば?」


 生々しい戦いの痕を目にし、俺が提案。


「これくらいなら平気だよ。勲章みたいなものかな」


 心配ないよと笑顔を作る武。


「勲章?」


 俺は、思いもよらない言葉に反応。


「僕なりに相手を恐れず、傷つくことも怖がらず、敵に立ち向かった証」


 俺には理解しかねるが、武にとってこの負傷は名誉なようだ。


「わかるわかる。男たるもの傷の一つや二つくらいないとだよな!」


 駆には武の気持ちが分かるらしい。


「はは、駆は強いなあ」


 武は楽しそうに答える。


「そういえば、駆も武も今日は動きがいつもと違ったよね」

「ああ、俺は足を使って動きまわることにした。本当は武みたいにどっしり構えて打ち合いたいんだけどな。俺は身体も小さいしそれはきっぱり諦めた。だからこれからは、相手の間合いを見切って突く。ヒットアンドアウェイってやつよ!」

 

 休日の間、駆なりに色々と考えていたらしい。


「攻撃を受ける回数が減ってよかったね」


 俺の本音に駆が「おう」と胸を張って答える。 


 試行錯誤の結果が今日の動きに繋がった。駆はただの単細胞格闘馬鹿ではない。たぶん。


「僕は皆の盾になるって決めたんだ。盾の役目って相手の攻撃を受け止めることでしょう? だから駆くんとは逆に、足を止めて壁のように立ちはだかろうと思ったのだよね。それと、より多くの攻撃を僕が受けるためには、こっちから積極的に攻撃を加えた方がいいと気が付いたんだ。そうすることで、相手の注意をより引きつけられるからね。僕は身体も皆よりは大きくてもあって頑丈だから、多少の攻撃を受けるのは覚悟の上で攻めるようにしたんだ」  

 

 いつになく口数多く話す武。彼も色々と考えているみたいだ。

 壁としては頼もしい発言だが……自分の身を顧みる心が少し欠けているような気もする。俺にはそれが少し心配だった。


「あんまり無理しすぎないでね。頼もしいけど、武の身体も大事だと思うよ」


 俺の言葉に武は「そうだね」と半月の笑みで頷いた。


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