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高みを目指して

――皆の姿を目で追っていると気が付いたことが幾つかあった。

 

 猪突猛進。防御よりも攻めあるのみで、攻撃に偏向していた駆の動きに変化が。相手との間合いを計り、振り下ろされる石腕の軌道を視て避けようとしているのだ。

 我武者羅だった攻めは、隙が出来たところに拳を突き出すという、避けて当てる動きになっている。

 勿論完全にゴレムルの攻撃を見切っているわけではないが、それでも攻撃を受ける回数は格段に減っていた。

 きっと駆なりに色々考えたのだろう。彼の動きの変化によって、回復をする回数が減るのはパーティにとって良いことだ。

 そして、変化しているのは彼だけではなかった。

 武は駆とは逆で、以前よりも率先してゴレムルへ攻撃を加えていた。

 結果、相手の攻撃を防ぎそこねて攻撃を受けることもしばしば。その代り、手数の増えた武に、ゴレムルが前よりも気を回すようになっていた。おかげで駆や俺は随分と動き易い。

 武も色々考え、パーティの為に立ち回りを変えることにしたのだろう。

 俺は魔法の発動時間を確認するため後衛へと視線を移す。魔法の準備している有紗ちゃんの前には杖を両手で構えた凛さんの姿。万が一の時は自分が有紗ちゃんを守ろうという気持ちが垣間見える。


 ――――意識の変化は前衛だけではない。誰しもが一所懸命だ。

 

 プラーナの総量向上により、有紗ちゃんと律子さんの魔法を使える回数が増えたこと。それぞれの動きを反省し見直したこと。この二つの成果は、一日当たりのゴレムルの討伐数更新という形となって現れた。その数、十体。

「みんな、慣れてきたわね。これなら安心かしら」

 胸に手を当て、カリーさんは俺たちの戦いぶりに好評価を与えてくれた。


「二人とも魔法はまだ使える?」


 日が落ち始めた頃、俺は律子さんと有紗ちゃんに確認する。


「ええ。いけるわよ」


「あと二回くらいなら平気です」


 二人の返事を聞いた俺に一つの案が頭に浮かぶ。


「最後に、今までよりもちょっと強力なゴレムルと戦ってみない?」 


 卒業試験というわけではないが、どうせならカリーさんのいる間に試しておきたい。

 俺の声を聞いた駆が


「おし、卒検だな!」


 と意気込み、


「どうせいつか戦うのだものね。いいよ、やろう」


 と武も賛同。


「保険があるうちに挑戦するってことね」


 律子さんは俺の意図を読み取り、


「分かりました。もう多数決で決定していますし、従います」


 凛さんも納得。


「が、がんばります!」


 最後に有紗ちゃんが覚悟を示す。

 こうして俺たちは今まで避けていた、強いゴレムルに挑むことにした。


「いた」

 

 歩き出して間もなく、相手をするにふさわしいゴレムルを発見。

 相手がどんな個体であれ、俺たちのとる戦法は変わらない。


「いくぞ!」 


 駆を筆頭にゴレムルに向かって駆け出す前3人。数の有利を活かし、三人でゴレムルを囲む。


「ぬううん」


 ゴレムルと正面に相対した武が口火を切った。

 上段から剣が振り下ろしにゴレムルが素早く反応。上体をそらして空振りさせる。


 ――――今までよりも敵の動きが良い! 


 空振りした武は、今度は盾をゴレムルにかち当てる。そのまま盾を押し込んでゴレムルの体勢を崩そうとするも、逆に押し返されてしまった。


 ――――力もある!


「せい!」


 攻撃の流れを途切れさせることなく、ゴレムルの右側面に位置どった駆の突きが続く。

 拳が石肌にぶつかり乾いた音が森に響く。命中はしたもののさしたるダメージは与えられなかったようで、間をおかずにゴレムルが足を振り上げ、駆を払いのけた。

 俺も流れを止めないようにと、つがえていた矢を射るが、ゴレムルの身体に刺さることなく地面に落ちてしまう。

 

 当たり方が悪かったか? 

 それとも相手の石肌が硬かったのか? 

 

 いずれにせよ、今まで俺たちが戦ってきたゴレムルとは一味違うようだ。


「怯むなよ、お前ら!」


 駆も相手を強いと認めたのか、気炎を吐いて味方を鼓舞。


「引かないよ!」


 武がゴレムルを見据えたまま駆の言葉に反応。普段のんびりしている彼が闘志を見せた。 

 攻撃の起点を武として、俺たちは再びゴレムルに挑みかかる。

 剣を避けられても、拳打が効かずに逆に攻撃を受けても、二人は決して怯まなかった。


「いきます!」         


 待ち焦がれた合図。凛さんから魔法準備完了の声がした。

 俺たちは素早く動き位置を変えて魔法の射線を確保。

 有紗ちゃんの杖の先から火の玉が発射。ゴレムルに着弾。

 同時にここぞとばかりに俺たちは攻撃を集中させる。三人が斬って突いて射る。

 が、これまでと違いゴレムルはいまだに健在だった。

 どころか、焦げた身体で手足を振り乱し動き回る。しぶとい相手だ。

 ――――が、まだやれる!


「もう一発魔法を!」


 俺は後衛に向かって叫ぶ。一発でだめならもう一発叩き込んでみればいいのだ。


「やれる!」


 弱気にならないようにと思っていたら、無意識に声が出た。

 実際、今ので倒せはしなかったが、魔法の直撃によってゴレムルの動きは鈍っている。


「勝とう!」


 武の瞳には決意の炎。何かに怯えていた彼の姿はそこにはなかった。

 再びゴレムルに立ち向かう武。

 俺は背中の矢筒から矢が無くなるまで射続ける覚悟を決める。数うちゃ倒れるの精神だ。 

 一番ゴレムルから攻撃を受けているはずの武はまったく怯まず、その場で奮戦し続ける。

 まさに壁。


「行きます!」


 凛さんの声。再び魔法がやってくる

 希望の火の球がゴレムルに着弾、今度こそ動きを止めて砂となった。


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