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地味だっていいじゃないか

 黙ってベッドの端によると、駆と武が空いたスペースにもぐりこんで来た。

 相変わらず三人だと狭い。隣に寝そべる武の巨体に圧迫されながら俺はしみじみ思う。


「くうう、興奮がおさまらん!」


 駆が感情のこもった高い声を吐き出す。初の実戦を終えて気が昂ぶっているようだ。

 かっこいいというよりは愛らしい容姿も相まって、彼がはしゃぐと喜んで尻尾を振る犬を想像してしまう。 


「みんなが無事でよかったねー」


 すると武も、ゆったりとした速度で感想をもらす。

 武の大きな身体と間のびした声を聞いた俺は、優しい目をしたまんまるなクマを連想した。


「武は心配性だなー」

「災難は突然やってくるからね」

「よくわからんけど、そんなもんは返り討ちにしてやんよ」

「駆は強気だねえ」

「武はちょっと弱気すぎだろう」

「はは。じゃあ間を取って俊くらいがちょうどいいのかな」


 それまで傍観者だった俺であったが、思わぬ話の振られ方にぴくりと身体が反応。


「俊、お前も会話に入ってこいよ。つまんねえだろ?」


 駆からの招待状が俺の元へ。


「二人の会話を聞いているだけでも楽しいから平気だよ」 


 駆の誘いに感謝しつつ、丁重にお返しする。二人のパーティーに出席するか否かははぐらかした。 


「なんだよそれ。お前だって仲間なんだから、もっとこう、ぶつかってこいって」


 迂遠な言い回しなど通用しないとばかりに、暑苦しさ発揮して駆は俺を詰める。


「そうだね。ぼくももっと俊にぶつかってきてほしいかな。仲間なんだし色々と話したい」


 まさか武にまで駆と同じようなことを言われるとは。二対一。分が悪いのは明らかに俺だ。

 でも勿論、悪い気はしない。もっと仲良くなりたいと思ってくれているのだから。


「なら二人とも、吹き飛ばされても文句言わないでね」


 二人の言葉が嬉しかったことが気恥ずかしく、照れ隠しの意味も込めて冗談っぽく言い返す。


「はは、上等だ。いつでもかかってこいよ」


 駆は気分良さそうに声を挙げた。俺から彼の表情は見えないが、笑っている姿が目に浮かんだ。 


「僕を吹き飛ばしたらたいしたものだね」

「あはは」


 巨漢な武の意表を突く言葉。夜の静寂に俺たちの笑い声が響く。

 少しずつだが、俺はこの狭い三人ベッドに慣れ始めていることに気が付いた。


 

 翌朝、俺たちは食料や備品を揃え、リュックに詰め込むとカリーさんと一緒に灰の森へと向って行った。

 今日は休憩を挟みつつ、街には戻らず一日中狩りをする予定だ。

 森に到着した俺たちは、昨日同様に敵を慎重に選びつつ戦いを挑んでいった。多少は慣れたとしても、油断も傲慢もあってはならない。

 数多くのゴレムルを倒していくうちに、固体によって癖があることを知る。動きは鈍いが力強く頑強なモノ。逆に動きが速く、手足を鋭く振るが一撃が軽いモノ。同じ姿形プラーナから多様な個性を持ち合わせたゴレムルであったが、俺たちの対処はいつもシンプル。

 ――――前の三人がゴレムルの足を止め、後衛の有紗ちゃんが魔法で刺す。

 

 倒せそうな単体のゴレムルだけを狙って一日中狩りをした結果、十個ほどの魔石を獲得することが出来た。昨日よりも三個ほど多い収穫だ。

 カーデンブルグに戻り食事を終えた俺たちは、湯浴びをする前に宿前の広場に集まる。


「じゃあ、始めましょうか。今日はプラーナを視るということを教えます」


 今日から夜の空き時間は、俺が覚えた共用特技を皆に教えることになった。

 俺は本のメモを頼りに、かつて自分が習ったプラーナを視る方法を五人へ伝える。


「三人共、飲み込みが早いですね……」


 すると、ものの五分でプラーナを視覚出来るようになったのは後衛の女性三人組み。

 俺が習得するまでに三時間くらいかかった気がするのだが……


「私たちは既に魔法を使うことによってプラーナを感じ取っていましたし、扱い方も多少は心得がありましたからね」


 冷静に自分たちの習得スピードが速い理由を分析し、その場を立ち去る凛さん。 


「じゃあ、お風呂いってくるねー。ばいばい」


 あっけらかんと手を振って別れを告げる律子さん。


「ファイトです」


 深くお辞儀をすると、有紗ちゃんは二人の後を追いかけていった。

 残されたのは男三人。  


「続けようか」


 俺の言葉は夜風に乗って夜陰へ消える。

 確認すると、武と駆は特技をまだ何も習っていないらしい。二日半という短い間の中でひたすら組み手と模擬戦をこなしていたらしい。

 つまりプラーナの扱いは二人ともまったくの素人。ならば俺がそうであったように、まずはプラーナを肌で感じ取ることが出来るようにしなければならないだろう。


「二人とも、手を出して」


 故にこれは仕方ないのだ。

 俺は差し出された細い手と肉厚な手を握る。 

 満天の星空が輝く夜空の下、男二人の手から温もりを感じた。


「どう、何か感じる?」

「いんや何も」

「僕も感じない」

「そっか、何か感じたら教えてね」


 両手から伝わってくる男二人の体温。

 そこにときめきなどあるはずもなく、なんともいえない微妙な気分になった。


「俊は訓練の間こんな地味くさいことやってたの?」

 手を繋いで三人が向いあっているという、傍から見たら少し怪しい状況のなか駆が口を開く。


「そうだよ」   

 駆の言うとおり、俺のやっていたことは地味だと思う。


「でも、そのおかげで僕たち助かっているよね。今もこうして教えてもらっているし」

 そこへ武からのフォロー。


「ありがとう」


 派手さはないが、俺なりにパーティのためと思って考えてやった結果が評価された。素直に嬉しい。 


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