週休二日の営み
「そういえば、お腹すいたね」
さも大切なことを今思い出しかのように武が呟く。早く戻ってご飯を食べに行こうという意思表示だろう。
年上だけれど、のっそりとしたパンダみたいな彼が言うと、可愛いいものがある。
「武はそればっかりだな」
駆が呆れたようにそう言うと、皆から笑いがこぼれる。
今日の成果、七体のゴレムルを撃破。
報酬として鉄石を四、赤銅石を三つほど獲得。(そのうち鉄石を三つは自家消費)
現在、俺たちの手元には鉄石が一つ、赤銅石が三つある。これは換金すると約一万八千ゴルほどになる。協議の結果、六人で均等に分けることとなった。
今回は弱そうなゴレムルを慎重に選んで戦いを挑んだが、慣れてきたらもう少し手強そうな個体を相手にするのも良いのかもしれない。実入りが増えるわけだし。
まだら雲のかかった空が茜色に染まり始めた頃、俺たちの今のホームであるカーデンブルグに帰り着いた。
魔石商の店へ行き換金を済ませた俺たちは、一人当たり約三千ゴルほどを分配する。
それから武の希望を叶えるべく、食事処竜の住処へと向う。
「みんな、今日はおつかれさま。この調子なら私が同行するのはあと四日くらいかな」
席に着いて、注文した塩漬け肉が運ばれてきたところでカリーさんが言った。
「えー。いっそのことカリーさんも仲間に入っちゃいましょうよ」
それに対し律子さんが不満を漏らし、さらには勧誘を試みる。どこまで本気で言っているのか分からないが、彼女は意外と大胆な面があることを俺は認識し始めていた。
カリーさんが居なくなると不安で寂しいが、俺たちだけでもやっていけると認めてもらえたということでもある。複雑な心境だ。
「今日はみんな、頑張ったよね」
武は肉の塊をフォークで刺し、それだけ言うと口の中に肉を運んでいく。
「カリーさんの言うとおり、役に立たない人なんていなかったですね」
武と駆は前衛としてパーティの為に身体を張り、律子さんは奮戦して傷ついた仲間を癒していた。有紗ちゃんは、ここぞの場面で一撃を決めてくれたし、凛さんはその特技によりパーティの資産を増やした。俺もなんやかんやで少しは役に立っていた。はずだ。
今日、俺たち六人はそれぞれの役目をしっかり果たしていた。
「だな。この調子で明日からもバリバリやっていこうぜ!」
駆が拳を合わせつぶらな瞳を輝かせる。
「はい、頑張ります」
小さな手で握りこぶしをつくる有紗ちゃん。愛くるしい。
「これからは、今日のようにゴレムルをハントしていくのでしょうか?」
凛さんの言葉を皮切りに、今後の方針について話合いが始まった。
「俺はそれが良いと思うのですが、みんなはどうです?」
お金を貯めつつ、戦闘という行為に慣れていくことが今の俺たちには必要なのではないかと思う。
「いいぜ! やろうじゃんか」
威勢よく即答する駆。俺の意見に賛成のようだ。
「そうだね。出来ることが今は他にあるわけでもないものね」
補足を加え同意を示す武。彼の言うとおり、そもそも俺たちに選択肢などない気がする。
「でも目標というか、区切りみたいなのは欲しいわね。当ても無く同じことを繰り返しているとマンネリ化して気が緩むわよきっと」
このまま流れそうな所で待ったをかけたのは律子さん。確かに彼女の言うことももっとも。
「それならある程度お金が貯まるまでは、今日のようにゴレムルを狩ることにして、蓄えが出来たら全員で特技の習得に入るっていうことでどうです? その後のことはまたその時になったら決めるということで」
俺は律子さんの意見を加味しつつ、自分なりに良いと思った考えを述べる。
「私も俊さんの意見に賛成です。彼の言ったサイクルが一つ区切りとしては妥当かと思うからです。それに新たな特技を覚えれば、その後の狩りの効率も上がるかもしれないですし」
すぐに凛さんが賛成。
彼女のような理知的な人が後押ししてくれると、自分の意見がそうは間違っていないのだろうなと安心する。
「はーい。二人の意見に異議なーし」
手を挙げて答えたのは律子さん。他の三人からも特に反対の意見は出なかった。
「話し合いも一段落したみたいだし、一ついいかな?」
カリーさんが会話の隙間を縫うように発言。
「これから頑張ろうって時に水をさすようで悪いのだけど、休息する日も決めた方がいいわよ」
これまでまったくパーティの方針に口を出してこなかったカリーさんが、始めて自分の意見を述べた。
「いや、休みなんかいらないから。年中無休上等っしょ」
やる気に溢れる駆がカリーさんの意見を一蹴。
「うん、早く元の世界に戻る為にも休みなんて必要ないっていう気持ちも分かるのだけどね。実際にそれをずっと続けるのは大変だし、定期的に心と身体を休ませないと危険でもあるのよ。なにせキミたちは戦っているのだから」
カリーさんは反対の意見を受け止め、包み込むように自分の言葉を紡ぎだしていく。
「もちろん私はキミたちの仲間ではないので決める権利はない。だからこれは様々なエインガードを見てきた私個人からのお願いとして聞いて。どうか休む日を作ってちょうだい。疲弊して死んでしまったら元も子もないのだから」
カリーさんの真摯な眼差しが俺たちを見つめる。経験から出たであろう彼女の言葉は重く、未熟である俺には何も言い返すことが出来なかった。
早く元の世界に戻りたくはあるが、それは六人全員ということが大前提だ。一人でも欠けてしまうのは嫌だ。
「分かった。死んだら最悪だし、俺はカリーさんの言うとおりにするべきだと思う」
真っ先に反対していた駆も俺と似たような気持ちになったのか、己の意見を翻し休みは必要だと主張。
話し合いの結果、俺たちの活動は五日働き二日休む。いわゆる週休二日制がとられることになった。
アストヴェリアにおいても地球世界と同じような生活サイクルになったことが、少し可笑しかった。
というわけで今週はあと四日、俺たちは精を出して狩りをするに決定した。
食事を終えた俺たちは、月明かりに照らされた路を歩き宿へと戻った。
湯浴びをし、部屋に戻った俺は、宿の店主から借りてきたランプを机に置き、今日のおおまかな出来事や気が付いたことを明りに照らされた本にメモしていく。
ゴレムルの特徴や魔法を当てる為のこちらの動き方のパターンなど。思いつくままにペンを走らせる。こうして書き連ねていくことで、一日を振り返れるし、そうすることで何か気が付いたことがあれば、明日からの活動に活かすことも出来る。
本に書き留める行為は、俺なりに一日を大切にしようという意思の表れだ。
書き終えた俺がランプの明りを消しベッドに横になっていると、外に出ていた武と駆が部屋に戻ってきた。




