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報酬の価値

 凛さんのプラーナに変化。魔石を乗せた右手部分のプラーナが、白から黒色へと変わる。


「研鑽にて魔石となれ」


 彼女によって放出された黒いプラーナが石の中に吸い込まれたかと思うと、今度は逆に石の方から黒い柔らかな光が放出される。

 数瞬で光の放出が終わると、ただの石ころにしか見えなかった魔石に変化が生ずる。

 何の変哲もない石ころが、黒い光沢を帯びた、魔石と呼ぶにふさわしい神秘を醸し出す石に化けた。


「これは、鉄石(くろがねいし)ですね。とりあえずしまっておきます」


 凛さんは目を細めて分析すると、腰にぶら下げている皮袋に鉄石という魔石をしまった。

 この鉄石というのがどれほどの価値を持つのか気になるところではあったが、今は気にしてもしょうがないか。


「よっしゃ、次いってみよう!」


 怪我が治った駆が、右腕をぶんぶん回し張り切る。


「みんな、まだいけます?」


 全員の意思を確認した結果、このままゴレムル狩りを続けることとなった。


「魔法の準備が整ったら、凛さんか律子さんが俺たちに声を掛けてもらえます?」

「了解」「分かりました」 


次の標的を探す前に、魔法の発射時におけるパーティの連携だけは確認しておく。


「じゃあいきましょうか」


 それぞれがはいと返事をする。俺の声も皆の声も軽くなっている。初勝利によってパーティに広がっていた緊張が少し和らいだからだろう。俺もだいぶ気が楽になった。

 それから俺たちは相手を慎重に選びつつ、律子さんと有紗ちゃんのプラーナが尽きるまで新たに三体ほどのゴレムルを倒していった。


「いったん森の外に出て休憩しましょうか」


 いまの俺たちは、後衛の魔法なしにゴレムルを狩ることは出来ないので、枯渇したプラーナが回復するまで休むことになった。 

 目印を辿って森の外へ出た俺たちは、敷布を轢いてその上に座り込む。


「思ったより楽勝じゃんか」


 水筒の口を開けラッパ飲みする駆は、試合に勝って気分爽快な部活少年さながら。


「みんな無事でよかった」

 

 対照的に大きな背中を丸め、安堵の息をもらす武。失礼ながら、その姿は息子の試合を応援し、身体を気遣う保護者のように見えた。


「みんないい感じだったよね」


 初戦で思わぬ事態に陥ったものの、それ以降はわりとスムーズにゴレムルを撃退することが出来た。

 敢えて口にはしなかったが、ゴレムルというモンスターが生々しくないということは俺たちにとって運の良いことだったと思う。

 生物を相手にしているのではなく、ゴレムルという無機物と戦っているのであって、命を奪うというよりはモノを破壊している感覚に近いのだ。


「あ、これよかったらみんな食べて下さい」


 俺はリュックの中から先ほど買った干し肉を取り出すと、左手でナイフを持って皆に切り分ける。


「わ、ありがとう」


 満面の笑みで喜びを表す武。俺としても買ってきた甲斐がある。

 気分が良くなったので、彼の分だけ少し大きめに切ってあげた。


「ところで、今持っている魔石ってお幾らになるのかしらねー」


 足を斜めに揃えて女性らしく座る律子さんが質問。


「そうですね相場の変動があるので、概算になりますが」


 と前置きした凛さんが、皮袋の中から四つの魔石を取り出す。


「鉄石が一つ当たり三千ゴル、赤銅(しゃくどう)(せき)が五千ゴルくらいになると思われます」

 現在手元には鉄石が三個、赤銅石が一つあるので合計で一万四千ゴルほどになるのか。

 とすると、六人分の一日の宿と食事代くらいは稼いだことになる。

 これは、なかなかの収入なのでは? 


「けっこうお金になるのねー。でも、もっと稼いで早く新しい服を買いたいわね」

「はは、いいですね」 


 律子さんのゆるい言葉に皆の笑い声がわく。


「私は、新しい魔法を覚えたいです」


 リスのように干し肉を齧っていた有紗ちゃんが小さな声で言った。

 どうやら、有紗ちゃんは魔法少女という自分の役割にたいして前向きな模様。なによりだ。


「俺も必殺技か奥義を会得してえな!」


 有紗ちゃんに触発されたらしい駆が便乗するように願望を述べる。


「必殺技と奥義の違いってなんですか?」


 怪訝な顔で二つの違いを問い質したのは凛さん。

 なんとも残酷な質問。


「いや、必殺技ってのはババーンって感じで。奥義ってのはキラーンって感じ?」


 駆は身振り手振りで答える。

 俺にも必殺技と奥義の違いなど分からない。が、駆としては、有紗ちゃんの魔法のような派手な特技を覚えたいと言いたかったのだろう。


「なるほど、二つは似たようなものなのですね」

「ま、まあ、そういうこと」


 凛さんに生真面目に答えられ、恥ずかしくなったのか顔を赤らめる駆。

 そこでパーティにまたささやかな笑いが起こった。 

 理知的な凛さんと感情的な駆は水と油のようで、かみ合わない二人のやり取りは傍から見ているとおもしろ可笑しかった。 



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