戦闘開始
「いくぞ、死の先を往く者たちよ!」
声高らかに言い放ったのは駆。先陣をきってゴレムルへと疾走。俺もすぐに小さな背中を追いかけるべく、弓を下に向け左手で矢をつがえて走った。
葉を踏みしめる足音が背中からするので、武もきっと追ってきている。
「ちぇすとー!」
駆は走った勢いそのままに、地面を踏み切り飛び蹴りをはなつ。
真正面からの攻撃をゴレムルは右腕でしっかり防御。したが、助走で蹴りに勢いがついた成果か、上半身が少しのけぞる。
駆が地面に着地。すぐさまゴレムルから反撃の左腕が振り下ろされる。
「っつ」
駆は腕を交差させて辛うじて防御したものの、衝撃により華奢な身体がよろめいた。
駆が危ない。俺はゴレムルの次なる一手が繰り出される前に、急ブレーキで足を止め、つがえていた矢を 引き絞るとゴレムルに向け苦し紛れに射る。
俺の放った矢はゴレムルの頭部脇をすり抜けはるか彼方へ。ダッシュ&ストップ&シュート&ミスという 泣きたくなるくらい華麗なコンビネーションを披露。
が、その行為も全てが無駄ではなかったらしく、ゴレムルの注意が俺へと移る。
「うわあああ」
悲鳴のような叫び声を挙げながら、武が左手に持った盾を身体の前にかざし、半身になってゴレムルへとタックルをぶちかます。
不意の巨体の突撃による衝撃はかなりのものだったらしく、ゴレムルがよろめいた。
「ナイス武!」
腰を落とし、右腕を引いて大きく踏み込んでからの正拳突きがゴレムルの胸へ打ちこまれる。
ゴレムルの石と駆の手甲部分の金属がかちあい鈍い打撃音が森に響く。
「うちまくりいい」
一撃を打ち込んだ駆は、間髪入れずに左右の連打を叩き込む。上体を振って勢いをつけ腕を振る。弧を描くフックがゴレムルの腹に殺到。だが駆が調子よく攻撃していたのも束の間、ゴレムルの押しだすような前蹴りに吹き飛ばされた。
俺は再び矢をつがえながら、駆に注意がいっているゴレムルの脇に回り込む。それから勇気を出して肉薄し、外しようがない距離で矢を射る。
ゴレムルの右側頭部に矢が刺さった。
同時に虹彩のないゴレムルの黒一色な瞳が俺へと向けられる。反射的に飛び退くと、数俊前まで俺が居た場所に右石椀が叩きつけられた。
あぶなかった!
「ぬん!」
駆と入れ替わるように距離を詰めた武の剣が、石を削ってゴレムルの右肩に食い込む。
すぐさまやってきたゴレムルからの左腕の反撃を、武は腕を十字にしながら盾で防ぐ。
ここまでの攻防で分かったこと。それは、残念ながら俺たちの攻撃は、ゴレムルへあまりダメージを与えていないということ。
打撃・射撃・斬撃の三連撃をお見舞いしたにもかかわらず、動きの鈍る様子がないゴレムルの壮健な姿を見ると、そう判断せざるをえない。
――――となると、やはり決めては。
「まだまだ!」
立ち上がった駆がゴレムルの右側へと回り込み、拳を打ちこむ。
ゴレムルと正面から相対する武も、ゴレムルの右肩から左わき腹へと袈裟に切りつける。
二人が攻撃を加えている間、俺はゴレムルの背後に回り込み、後ろから全員の姿を見渡す。
目当ての有紗ちゃんを発見。魔法の発動はまだかと思い、彼女のプラーナの状態を確認する。有紗ちゃんを包むプラーナは激しく波打ち、大部分が朱に染まっている。
俺たちが待望する魔法による攻撃という役は、あと少しで札が揃いそうだった。が、
「ごめんなさい、うてません!」
予想だにしない言葉が切り札である有紗ちゃんの口から。
――――なぜ? 疑問と動揺が生まれる。
「味方に当たりそうで、魔法が撃てないようです!」
凛さんが素早く理由を察し説明。迂闊だった。戦い方として前衛が敵をくいとめ、後方からの魔法で勝機を作るということは提案したものの、肝心な魔法を当てるための動きを考えていなかった。 俺のミスだ。せっかくここまでは上手くいっていたのに。
俺はブラウンさんたちとのことを思いだす。彼らは魔法を当てる為に声を出し合って、連携していた。ならば俺たちも、声を出して連携するしかない。だが今は戦っている最中。綿密な打ち合わせなど出来るはずがない。
どうする? どうすればいい?
俺が悩んでいる間にも、駆と武はそれぞれ側面と正面からゴレムルに立ち向かっていた。
ゴレムルの石拳と盾がぶつかり、剣と拳が石の身体に挑みかかる。俺の眼前では、今も二対一の戦いが繰り広げられている。
ん? ゴレムルの意識は完全に駆と武に向いている? そう気が付いた瞬間、閃きが。
「駆、武。次に俺が矢を射って声を出したら、こっちに集まってくれるか」
アイディアを検証する暇もないので、思いついたことをすぐに実行するべく二人に声を掛ける。
「オーライ相棒!」
駆はこちらを視ず、ゴレムルから目を離さないまま返事をする。
「わ、わかった」
武はゴレムルの攻撃を盾で弾き返しつつ返事をくれた。
細かい説明も聞かずに作戦に乗ってくれた二人に感謝。
「もう一度魔法をお願いします! 今度は大丈夫だから」
今度は大きな声で後衛の三人に向かって叫ぶ。
「はい!」
有紗ちゃんの返事も確認。これで準備は整った。
仕切り直しといこうか!




