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特技習得


「これが視えるようになったら合格ね」


 冗談ではないらしい。確かに、今視えないものが新たに視えるようになったのなら、それは視力が強化されたということにはなる。

 俺は睨みつけるように紙を凝視。

 だが点は点のままで穴の空いている向きなど全く分からない。


「アドバイスを一つ。自分のプラーナが今どうなっているか確認してみて」

 言われた通り、覚えたばかりの技術を使って己の身体を見回してみる。

 カリーさんよりも弱々しい光が穏やかに身体を包んでいた。


「今の何もしていない状態のプラーナがそれね。今度は私に注目してね」」

 言われた通り彼女の姿に注目する。

 すると、光の強さこそ俺とは違ったが、プラーナそのもの自体は俺とそんなに変わらなかった。

 カリーさんと俺のプラーナの違いを考える。それは光の強さくらいだ。

 とすると、この光をもっと輝かせろといいたいのだろうか?


「これが遠くを視ようとする意思と動作にプラーナが反応するとこうなる」


 言葉と同時に、カリーさんの瞳あたりを包むプラーナに変化が起こった。小さな波がいくつも立ち、ぶつかり合って消える。また波が立って消える。が絶え間なく繰り返されていた。


「目の部分のプラーナの形が変わりました」

「キミもこれが出来れば合格ね」


 どうやら、光の強さは関係なく、プラーナの形を変えることが今回の課題のようだ。

 眼の部分に変化があったということは、きっとあの変化を起こせれば視力が上がるのだろう。

 カリーさんの言わんとしていることがおぼろげながら分かってきた。ただ重要なことが一つ謎である。それは。

「どうすれば、プラーナをその形に変えられるのです?」


 プラーナの形を変える方法だ。


「視るという動作にプラーナが反応するようになるまで、ひたすら目を凝らしてこの紙に書かれている字を視ようとしてちょうだい。そうすることで己の意思と動作をプラーナに教え込むのよ。口笛と同じでそのうち出来るようになるわ」


 それこそ大雑把過ぎて目を疑いたくなるような方法だが、ほかならぬカリーさんの言うことなので、信じて凝らすことにした。 


「つまりは根気勝負ってことですね」


 午前中よりも長くなるであろう勝負を前に決意を固める。


「ええ、がんばってね」  


 そう言ったカリーさんは憎らしいほどに爽やかな笑顔であった。

 俺はひたすらにカリーさんが持った紙の点を睨みつけ、見えろ見えろ見えろと心を滾らせる。

 雑念を振り払い、一つのことを念じる作業は、百度参りさながらの苦行。

 瞬きすら律し眼を凝らし続けていると、瞳が渇き涙がこぼれそうになる。

 精神修行と我慢比べの二重苦は、なかなかの苦行であり肉体的にも精神的にも辛い。

 集中せねば。

 どうにかこうにか念じ視続けていると、夕方近くになって変化が現れた。


「カリーさん。見えましたよ!」


 それまでただの小さな点だったものが拡大され、輪郭が浮かび上がった。


「お、出来てそうだね。じゃあ穴はどの方向に空いているかいってごらん」


 俺の声に反応したカリーさんは試験代わりの視力検査を続行。 

 カリーさんの言うとおりに、穴の空いている方向に指を指そうと思ったが。


「意地悪ですね。穴なんてあいていませんよ」


 俺の目に映ったのはただの○だった。


「正解よ。おめでとう。よくがんばったわね!」


 俺の答えを聞いたカリーさんが駆け寄ってくる。


「ありがとうございました。カリーさんのおかげで今日一日、とても充実していました」


 感謝を込めて礼を述べる。

 カリーさんのおかげで、今日一日でプラーナを視ることが可能になり、さらに視力を強化する技術を覚えることが出来た。きっと仲間の役に立てるはずだ。


「うんうん、よかったよかった」


 カリーさんは俺の頭を軽く撫でながら、微笑む。

 十七にもなって頭を撫でられるのは少しこそばゆいが、それ以上に嬉しかった。

 課題をクリアできたという達成感が心地よい。


「じゃあ、みんなでご飯でも食べながら、明日に備えたお話をしましょうか」


 カリーさんの提案に乗り、俺は五人と合流し、食事処・竜の住処に赴いた。


「みんな、初期訓練おつかれさまでした! いよいよ明日からエインガードとして本格的な活動の始まりね」


 食卓に着いた俺たちに向かってカリーさんが告げる。


「今日は私のおごりだからじゃんじゃん食べてね!」

「やった! あ」


 思わず歓喜の声を挙げたのは武くん。


「ふふ、喜んでくれているようで何より。明日からしばらくは、私も皆と同行するからよろしくね」


 縮こまる武君の姿を見ながらカリーさんが言った。

 付いてきてくれるのか。


「あら、それは心強いわね」


 律子さんが俺の気持ちを代弁する。


「ええ。ただ私は基本付いていくだけ。なるべく何もしないつもりだからあまり頼りにしないようにね」

「つまりは万が一の時は助けるけれど、基本的には自分たちでどうにかしろということですね」


 凛さんが抑揚の無い声で推察する。


「ええ。そうしないとキミたちの為にならないのよ」

「ふっふっふ。カリーさんよ、あんたは何もしなくていい。俺たちで全部なんとかしてやっからさ!」


 不敵な笑みを浮かべた駆が拳を合わせる。 


「ふふ、頼もしいわね」 

「わたしも、がんばります」


 消え入りそうな声で少女なりの決意を語ったのは有紗ちゃん。


「ところで、俺たちの目標って、何なんでしょうかね?」


 最終的な目標は言うまでもなく、北の大穴に向かい、蘇生術を会得し俺たちの元居た世界に帰ることだが、そこに行き着くまでの道筋がまだよく分からない。


「そうね。キミたちがまず成すべきことは戦いに慣れることね。そうすると数を重ねるうちにお金も稼げると思うわ。稼いだお金で装備を買うのもいいし、新たな特技を覚えるのに使ってもいい。そうやって経験を積みながら戦力を増やして行くことが、とりあえずのキミたちのやるべきことかな。そして充分に鍛錬を積んだのなら、北へ向かってゆっくり進めばいいと思うわ」 


 戦闘経験を積み、獲得した資金で戦力を整える。それを繰り返すことによって最終目標に近づいていけるということか。


「頑張らないとですね」


 声に力が入る。俺たちのこれからの行動は、元の世界に帰還するという目的に全て繋がっているのだ。ならば、目的を早く達する為にも、一日一日を無駄にすることはしたくない。早く慣れていかないと。


「一つ付け加えておくと、北へ向かえば向かうほどに、モンスターは手ごわくなるから、焦らず無理せずにね。死んだら意味が無いから」


 俺の逸る気持ちを見透かしたのか、カリーさんが釘を刺すように言った。


「もし死んでしまったら、もう生き返ることは出来ないのです?」


 都合のいい考えだとは思うが、一度死んで蘇ったのだから、出来れば二度目もあればいいなという願望が沸く。 

「残念だけどそれは出来ないわ。この世界で死んだ魂に干渉する術を私たちは知らないわ。つまり、死んでしまったらそれまでよ。だから無理は禁物」

「そう、なんですね……」


 声のトーンが下がる。

 場には沈黙。今度こそ本当に死んでしまうかもしれないという事実。

 俺たちがこれから挑む戦いの日常は、前いた世界の環境とは比べ物にならないほどの危険があるだろう。

 志半ばで潰える可能性だってあると思う。だが、それでも成したいことがある。  

「だけど、元の世界に戻りたいです」

 大きくはないが、意思を込めて力強く言った。


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