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異世界視力検査

 そう答えたカリーさんは、なおも笑顔を崩さない。そのままどれくらいの時間が経っただろうか?

 俺はカリーさんの掌から、体温以外の温かさを感じた。

 人肌の温もりよりも暖かく、自分の右手がぬるめのお湯に包まれているような感覚。


「カリーさん、自分の手が温かい何かに包まれているように感じます」

「よろしい、今キミが感じている熱は私のプラーナよ」


 得体の知れない熱ではあるが、不思議と不気味に感じたりはしなかった。


「これでキミはプラーナを認識した。というわけで、次のステップであり、今回の授業の目標であるプラーナを視るに挑戦してみよう」

 カリーさんの唐突な握手は、目標であるプラーナを視る技術を得るということに繋がっていたらしい。


「で、ここからどうすれば?」


 俺はもう握手は終わりで良いのではと思い手を引こうとしたが、思いのほか強い力でホールドされていた。 


「今キミが感じているものを視ようとしてみて。手に注目。そのままプラーナが視えるまで目を離さないでね」 

 

 この握手状態はまだ続くらしい。

「何も見えないですね」


 手に温かさを感じてはいるが、なかなかどうしてそれを視るには至らない。


「視えるまでそのまま集中。一度覚えてしまえば口笛なんかと一緒で忘れないから。頑張って」

「はい」


 俺は根気強く、視えない何かを見ようと目を凝らし続ける。

 このままでは目つき自体が変わってしまうのではないかと思うほど長い間、鋭く目を光らせていると変化が起こった。

 カリーさんの手を包む淡く白い光の膜。それは彼女の手だけではなく、全身をすっぽりと覆い尽くしていた。

 数秒前まではまったく視認できなかったこの光。

 きっとこれがプラーナだ。


「カリーさん視えました!」

 

 顔を上げてそう報告した時、思わずカリーさんの手を強く握り返していた。


「おつかれさま。それじゃあこのままテストを始めます」

 

 カリーさんが手を放し、きりりと表情を改める。

 それから何かに意識を集中させ始めたかと思うと小声でなにか呟く。

 するとカリーさんの全身を覆っていた白い膜が波立ち、その波が螺旋を描いて彼女の身体を駆け巡った。


「さて、私を包む光は何色に見える?」


 螺旋の動きが速まり、徐々に白かった光が朱に染まっていく。 


「白から赤にかわりました」


 俺は見たことをそのまま伝える。


「正解! そしておめでとう。俊くんが基本瞳術であるプラーナ視認の技術を体得したことをここに認めます」 


 手を合わせ、自分のことのように嬉しそうに顔を綻ばせるカリーさん。

 俺としても彼女のような人を失望させなくてよかった。


「ありがとうございます!」


 喜びの余韻に浸り、感謝の言葉がでる。


「でもなぜカリーさんのプラーナの色が変わったのです?」


 同時にふとした疑問も沸きでる。  


「それはね、私がキミを習得したかどうか確かめる為に、火の契約術を発動しようとしたからよ。術や特技を使おうとする者は、プラーナにも変化が現れるということを覚えておいてね」


 なるほど。今のは、カリーさんが火の魔法を使用しようとした際に、プラーナが白から赤に色が変わったということか。


「ちょうど午前中いっぱいかかったわね」


 懐中時計を取り出し、カリーさんが言った。


「新鮮な体験でした」


 異性に長い間手を握られるということと、プラーナを視るという技術を得る両方の経験が初めてだった。

 今にして思えば、カリーさんのような美人がこの授業の先生だと、手を握られた時に雑念がわきやすいので、彼女は適任ではないと思う。


「午後はどうするつもりなの?」


 早くも当初の目標は達してしまったわけだが。 


「決めてないですね。半日で何かできることってあります?」


 せっかくなので明日からの実戦のためにも有意義に過ごしたいのだが。 


「そうねー。せっかく基本瞳術の一つをマスターしたのだから、続けて視力の強化を習うのもいいかもね。半日あれば覚えられると思うし」

「視力の強化?」

「簡単に言えば眼がものすごい良くなるってことね」

「それは便利そうですね。うん、午後は視力の強化を覚えます」


 俺は迷うことなくその場で決断する。 

どの程度の効果か得られるのか分からないが、目が良いにこしたことはないだろう。敵を捜しやすくなるだろうし。


「オッケー。じゃあ受付で予約とってね。ちなみに担当はそのまま私になると思うから。午後もよろしく」


 受付で二千ゴルほど支払って視力強化の授業を受けることになったのだった。

 受付の指示に従い午前中と同じ教室に入ると、そこにはやはり午前中と同じ人が居た。


「じゃあさっそく、視力強化の授業を始めましょうか」


 カリーさんは部屋の端に俺を立たせると、自分は反対側へと向かった。


「これ視える? 穴の空いている方向を指差してみて」


 そう言いながらカリーさんが一枚の紙をこちらに向ける。

 自分と十メートルくらい離れた紙にはCの字が書かれていた。これはもしや。

 カリーさんの指示の通り、俺は指先を右に向ける。

 すると、今度は先ほどよりもかなり小さな字でCと書かれた紙を向けられた。

 疑いようもなく視力検査のようだ。何のためにこんなことをしているのだろうか。

 意図が理解出来ないままに、俺は再び左人差し指を右に向ける。


「これはどう?」


 別の紙が提示される。が、今度の字は小さすぎてただの点にしか見えなかった。


「分かりません」

 俺は地球世界の視力検査と同じように答える。


「はい、じゃあ視えるように頑張りましょう」

「え?」


 どうやら、この視力検査は一筋縄ではいかないようだ


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