視るための習い
「この基本瞳術っていうのは、何を教わるのですか?」
「これはプラーナの視認を可能にするための訓練です」
ビンゴ、思った通りだ。
「じゃあ、これでお願いします」
俺が昨日、ブラウンさんたちと共に行動して一番に感じたこと。
それは弱い相手と強い相手を見分けられる目が、まず自分たちのパーティに必要であるということだった。
理由は一つ。リスクを減らせるからだ。初めての実戦で強いゴレムルと戦うようなことはなるべく避けたい。強い相手にはこちらも強くなってから挑めばいいのだ。
「はい、承りました。お時間は何時になさいます?」
病院で予約を取っているような気分だ。
「今からって、空いています?」
妙なところで元居た世界のことを思いだしてしまった。
「ええ」
俺の感傷などおかまいなしに物事が進む。
「ではお願いします」
今はやるべきことをやろう。そして、今俺がやるべきことはしっかりと基本瞳術を身に着けること! ではなく、
「千ゴルになります」
お金を支払うことだった。
どうやらエインガードといえど、無償で技術を得ることは出来ないらしい。
受付に促され奥へ進み、廊下を歩く。長い廊下にはまるで学校のように部屋が幾つも並んでいた。
俺が指定された部屋の扉を開き中に入ると見知った顔が。
「ふふ、キミとは縁があるようね」
白い服の裾から伸びる細い手。待っていたのは、目の醒めるような美人のカリーさんだった。
「今回私がキミの先生を務めさせてもらいます。よろしくね」
「よろしくです」
エインガードの説明や案内だけでなく、まさかこんなこともやっているとは。
カリーさんの仕事は思ったよりも多岐にわたるようだ。お疲れ様ですと心の中で労っておく。
「最初に学のが基本瞳術とはね。色々考えた結果なのだろうけど、その考える姿勢を大切にね」
「あ、はい」
むずかゆくなる気持ち半分と、褒められた嬉しさが半分。返事にもそれが現れてしまった。
「キミは今回が初めての訓練だと思うから、プラーナを駆使した特別・特異な技である『特技』についての基本的なことを教えるわね」
自分の実情をよく知っているカリーさんが先生だというのはラッキーだ。
「はい」
「特技というのは、武器の種類によって固有である専用特技。それと基本的には前後衛や得意武器などに関係なく誰でも覚えられる共用特技の二種類があるのよ」
その道を突き進むことで習得出来る技と、泳ぎや自転車に乗るなどといった一般的に覚えられる動作の二つを区別しているのだろうか?
「ちなみにキミが今から覚えようとしている特技はどっちだと思う?」
カリーさんのその質問に俺は迷うことはなかった。何故なら、俺が覚えようとしている瞳というものは誰しもが持っているからだ。
「共用特技ですよね」
「その通り。ちなみに共用特技っていうのはパーティの一人が覚えてしまえば、覚えた一人が他の仲間に伝授出来るわよ」
出来るとしても、それってカリーさんのような立場の人が言ってしまっていいのだろうか?
まあ、エインガードを育成するという意味では、教え合うことを推奨したほうがいいか……
だが、もう一つの疑問。
「それなら。みんなで共用特技を習得して、あとで教え合う方が得になるのでは?」
一人が一つの共用特技を覚えたとして、六人で教え合えば結果として一人六つの技を覚えられることになる。同じことを専用特技でした場合に比べると三十六対六で、その差は三十にもなる。
「数だけで比較すればね。でも、専用特技と共用特技では質が違うから単純に比較することはできないのよ」
なるほど。質が違うならば数を比べることはナンセンスだ。
だがそれでも、いまいちわからない。
「どういう風に質がちがうのです?」
「大雑把に言うと、共用特技はあれば便利っていうものが多いけど、専用特技はあると戦局を変える可能性がある」
俺が今覚えようとしているのが共用特技であるプラーナを視認する技術。
それに対して専用特技とは、リドリーさんが使っていた魔法のようなものなのだろう
そう考えると、両者は質というより、そもそも使い道が違う。
「共用特技ばかりあっても、決め手に欠けますか?」
ブラウンさんたちの姿を思い出す。強い相手に対して、リドリーさんの火の魔法は切り札となっていた。もしあの魔法がなかったら、長期戦は免れなかったと思う。
「そうね、欠けると思うわ。私個人としては、パーティによるところはあるにしても、バランスよく専と共の特技を習得した方がいいと思うわ。特に最初のうちわね。ちなみに習得にかかるお金は専用特技の方が高いからね」
唇の手を当て、しばらくの間考えこんでからカリーさんは言った。
「分かりました。ありがとうございます」
質問の答えとアドバイスに感謝。
「よし、それじゃあ、そろそろ授業を始めましょうか」
カリーさんの瞳にやる気の灯火。
「よろしくお願いします」
俺は、乗り気な先生へ敬意を示して一礼した。
「まったくの初心者であるキミの場合、まずはプラーナを感じるところからやりましょう」
そう言いながら、一歩二歩と俺に向かって近づいてくるカリーさん。
「はあ」
プラーナを感じると言われても、どうすればいいのだろうか。
俺が疑問に思っていると、目の前まで来たカリーさんがふっと手を握ってきた。
「どう?」
カリーさんはにこにこしながら両手で俺の右手を包む。
脈絡のない行動と問いに鼓動が跳ねる。どうっていわれても、困る。
「や、やわらかいです」
何と言っていいのか分からない俺は、照れのせいか目を背けながら本能的に思ったことを述べる。
「あはは。そうじゃなくて、何か違和感みたいなものはない?」
俺の答えが面白かったらしく、小さく吹き出すカリーさん。
「いや、何も」
なんと言われようが俺は今、カリーさんの肌の温もりしか感じていない。
「じゃあしばらくこのままね」
いたずらっぽく笑うカリーさん。
落ち着かない時間が続く。
「……」
「あの、いつまでこのままですか?」
美人の温もりと沈黙に耐えられなくなった俺は、なんでもいいからと声を発する。
「キミ次第」




