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俺の役割

「ハッハッハ! 今日はだいぶ稼げたな。俊のおかげで身軽に動けたからかな」


 灰の森からカーデンブルグへの帰り路。疲れているだろうに、ブラウンさんの声は朝と一緒で軽やかだった。


「そうね。これも俊のおかげかしら」

 長い髪を振り反転し、後ろの俺に向けてウインクするリドリーさん。機嫌がよさそうだ。


「いえ、こちらこそありがとうございました。みなさんのおかげで本当に勉強になりました」


 感謝される喜びをかみしめつつ、多謝を贈る。


「また気が向いたら一緒に冒険しよう」


 リーさんが親指を立てる。気恥ずかしさもあったが、せっかくなので俺も親指を立てかえす。


「あ、そうだ。使ってないあれ、俊にあげちゃおうよ。今日の彼の報酬としてさ」


 街の市壁を潜ったところで、レイチェルさんが立ち止まった。


「はい?」


 予想だにしない言葉。お礼をあげないといけないのはむしろ俺の方だ。


「おお、そいつはナイスアイディアだ! ハッハッハ!」


 ブラウンさんはいつものように豪快に笑って快諾。


「賛成ね。手ぶらで返すのはしのびないわ」

 リドリーさんと、


「よし、じゃあ僕がとってくるよ」


 リーさんからの反対もなかった。



 ほどなくして走ってどこかへ向かったリーさんが再び戻ってくる。


「俊、これよかったら使ってくれよ」


 彼の手には木の弓と矢が。


「え?」


 ずいっと弓と矢の入った矢筒を差し出すリーさんに俺は戸惑う。


「いらなかったら捨ててしまってもいいわよ」


 気を利かせたつもりなのか、目をしばたかせる俺にレイチェルさんが言葉を繋げる。

 この場合、断るのも失礼に値するのか?


「いえ、もらうからにば大切にします」


 いくばくかの逡巡の末、先輩の厚意に甘んじることにした。 

 もちろん、俺は弓なんぞ使ったことはない。が、持っていても邪魔になることはないだろう。


「今日一日で俊が何を習うべきか分かったかい?」


 弓を受け取った俺の肩に腕を回すブラウンさん。


「はい、おかげさまで、何が必要かわかりました! 明日、練武館に行って習得してきます」


 負けじと俺もブラウンさんの肩に腕を回して答える。


「ハッハッハ! そいつはよかった。どうだい? これから一緒にご飯でも」


 肩を組んだブラウンさんは、口を大きく開けて大笑いする。


「すいません、仲間と約束していて」 


 一緒に行きたいのは山々だったが、先約があった。


「そうか、じゃあここでひとますお別れかな。またな!」


 軽い別れの挨拶。しかしながら四人全員が手を振って見送ってくれた。


「どうもありがとうございました」


 俺はあらためて感謝の意を示してお辞儀する。

本を脇に抱え、餞としてもらった弓を胸に抱いて宿へと向かう。道中、今日の出来事がフラッシュバック。四人の顔が頭をよぎる。


 ブラウンさんにリーさん。リドリーさんにレイチェルさん。皆親切で頼れる先輩だった。俺もあんな風になれるのだろうか? ともあれ、後輩とよべる存在が出来たら、親切にしてあげたいと思った。  


 宿泊している宿に着いた俺は、待っていた仲間たちと共に食事に向かった。


「鍛え抜かれた俺の拳、みんなに披露するのが楽しみすぎる!」


 パンを口に含みながら、細い腕を振り上げ握りこぶしを作る駆くん。相変わらずに自信家だ。


「つかれたなあ。明日、身体が動くかなあ」


 言葉とは裏腹に、キノコを和えたパスタを元気よく貪る武くん。その勢いがあれば明日もきっとなんとかなる。


「ふふふ、みんなおつかれさま」


 器用にパスタをフォークに巻きつける律子さん。彼女はいつもとまったく変わらぬ様子。涼しい顔だ。 


「ありえないことってありえるのですね。とても衝撃的でした」


 未だに俺たち世界の常識を信望しているらしい凛さん。ショックのせいかあまり食が進んでいなかった。


「私は、難しかったけど楽しかったです」


 パスタを苦戦しながら口に運んでいる有紗ちゃん。個人的に一番心配していたが、今のところ問題なさそうで何よりだ。


「で、俊はどうだった? てかお前、今日何してたの?」


 駆くんが思い出したかのように尋ねる。


「あ、それは僕も気になってたんだ」


 武くんもそれに乗る。


「実はね……」俺は昨日今日あった出来事をかいつまんで皆に説明。

「うおおお! いいな、お前もう実戦に出たのかよ」


 話を聞いた駆くんが、口角泡をとばして興奮。


「駆くんだって、今日一日楽しそうだったじゃない」


 俺は興奮して顔を近づけてくる駆くんをまあまあと宥める。


「おいおい、俊ちゃんよお、くん付けはやめようぜ。よそよそしくて仲間って感じがしないじゃんかよ」


 俺は礼儀のつもりで駆くんと呼んでいたのだが、それは彼にとっては他人行儀に映ったらしい。


「わかったよ、駆」


 俺は礼節よりも深耕を図ることに重きを置くことにし、彼の要望に応える。

 まあ出来れば、駆にはもうちょっと慎みを覚えてほしい気もするが。


「おう、よろしくな俊。ところで明日はお前どうするつもりなの?」


 俺の返事に気をよくしたらしい駆が、手に取った骨付き肉を俺の皿に寄越してきた。彼なりの友情表現か。


「明日は普通に訓練を受けるつもりだよ」


 俺は駆からいただいた骨付き肉を、友情を受け取るつもりでありがたくいただく。


「へー。なんの訓練うけるの?」


 一つの回答によりさらなる疑問が生まれたらしい駆が、俺の肉を物欲しそうに見ながら質問する。

 仕方がないので自分の皿にあるソーセージを駆の皿に移してやった。これで貸し借り無し。


「ああ、それはね……」


俺の返答に皆が怪訝な顔を浮かべる。


「――なんでかというと」


意味が分からないといった様子の皆に、それを訓練する理由も加えて説明しておく。


「それは、ありがたいですね」


 俺の意図をすぐに察知したらしい凛さんが大きく頷く。

 皆からそこまで評価されたいわけではないが、褒めてもらえるのは素直に嬉しかった。

 

夕食が終わりお湯浴びをすると、重い荷物を背負って歩きまわったせいか、疲労がかなり溜まっていたことに気が付いた。故に慣れない三人川の字寝なのに速攻で眠りに就けた。

 翌日の訓練最終日、俺は皆と一緒に練武館へ向かった。

 建物の中には受付があり、カウンターの後ろにある棚には本がびっしりと並べられていた。

名前からいって武道場のような場所をイメージしていたが違った。静かな室内といい、どちらかといえば、古い図書館の雰囲気に近い。


「じゃあ、またあとで」


 既に受ける訓練の種類が決まっている五人が奥へと消えてゆく。

 独りになったところで俺は受付に向かう。


「あの……」


 俺が遠慮がちに言葉を続けようとすると、


「はじめまして。ルーキー組の俊さんですね。ブラウンさんよりお話は伺っています。登録致しますのでしばらくお待ちいただけますか」


 眼鏡の受付女性が早口で捲し立てる。せっかちな人だ。彼女の言葉から察するに、おそらくブラウンさんがあらかじめ話をしておいてくれたのだろう。俺が戸惑わないように。ブラウンさんは笑い方こそ豪快だが、気遣いも出来る素敵な紳士であるようだ。


「俊さん、お待たせしました」


 機械的な声に呼ばれ受付に戻る。


「こちらが習得技術ゼロのあなたが受講出来る講義と訓練になります」


 俺はカウンターの上に差し出された一枚の紙に注目する。

 そこには、基礎剣術 基礎昆術 基礎棒術 杖特技 基礎弓術 基礎火契約術 基礎電磁契約術など様々な項目がずらりと並んでいた。


 なるほど、ここに書いてある中から覚えたいものを選べということか。

 先ほど個人で受け付けに登録したのは、個々が習得した技術を記録していくからだろう。

 おそらく技術の習得度合によって、受けられる訓練の種類も増えたりするのではないだろうか? なぜなら、基礎の訓練があるということは、その先にもっと特別な訓練もあると考えるのが普通だからだ。

まあ、今の俺には関係ない話だ。現実に戻った俺は、自分が必要とする技能を探していく。

 発見、おそらくこれであっているだろう。


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