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狩って稼ぐ

「いやあ、今のはけっこう手強い相手だったね。これなら良い魔石がいただけそうだ」


 傷の回復を見届けたリーさんが、ゴレムルの亡骸である砂山に手を突っ込む。


「個体によって手に入る魔石の種類が変わるのですね」


「その通り。そして僕の経験上、、強いゴレムルの方が良い質の魔石を落とす。これがね」


 にっこりしながら魔石を俺の方へ放り投げるリーさん。


 両手でキャッチすると、荷物係としての任務をまっとうすべく、俺は腰に下げた袋の中に石を放り込んだ。


「昔は魔石モンスターなんてものは存在しなかったらしいのだけどね。北の大穴からモンスターが湧き出るようになった頃から魔石が出現し、少し遅れてその魔石がモンスター化するようになったらしい。で、元となる魔石の質が良いほどに魔石モンスターも手強くなる」


 高く売れる魔石ほど手に入れるのは容易でないということか。


「お金を稼ぐのは大変ってことですね」


 ままならないものだ。


「はは、そういうことだね」


 リーさんが肩をすくめ苦笑いを浮かべる。

 それからお昼になるまでブラウンさんたちは狩りを続けていった。


「よし、いったん森から出て食事にしようか」

「賛成!」


 ブラウンさんの意見に満場一致し、一息つくことになった。

 敷布を広げ皆が上に座る。俺は昼食に持ってきたサンドウィッチと水筒をリュックから取り出して並べる。


「どうだい俊。感想は?」


 ハムっぽい薄切りの肉とチーズのサンドを頬張りながら、ブラウンさんが尋ねる。  


「色々勉強になります」


 俺は先ほど見聞きして気が付いたことをメモしながら答える。


「とくに強いゴレムルとの戦い方なんかは参考になりました」

「ふふ。どこらへんが?」


 リドリーさんからの興味あり気な視線。


「前衛の二人はリドリーさんの魔法があると分かっていたから、防御に重きを置き、且つゴレムルの意識を

自分たちに向けていましたよね。魔法の威力が高いことを知っていたから、それを当てやすくするために動いている感じがしました」

「このぼうや、なかなかしっかり見ているじゃない」


 リドリーさんは満足げに頷くと、水筒に口をつけて水を飲んだ。


「魔法の効果はすごい。が、その大火力も当てなければ意味がない。だから僕たちは状況によって、魔法を当てるために連携するのさ」


 リーさんは口に含んだ卵のサンドを飲み込んでから言った。


「まあ。後衛を生かすも前衛次第だし、その逆もしかりってことね」 


 伸びをするレイチェルさんが話をまとめる。この言葉はそのままメモしておこう。


「そういえば、疑問だったのですが、みなさんはどうやって強いゴレムルと弱いゴレムルを見分けていたのですか?」


 それはずっと不思議だったことだ。俺からするとどのゴレムルも見た目はほとんど一緒に見えたのだが、俺の知らない特徴でもあるのだろうか? 


「ああ。それはね。エインガードとしての基本的な技術の一つでね。僕たちはゴレムルの宿すプラーナを見て判断していたのさ。ゴレムルのまとうプラーナが力強ければ強いと判断し、微弱であれば弱いとね」


 食事に気が持って行かれているブラウンさんの代わりにリーさんが答えてくれた。

 どうりで俺には見分けがつかなかったわけだ。プラーナを視ることができないのだから。


「プラーナって視えるものなのです?」


 プラーナとは超能力みたいなもので、不可視のものであると思い込んでいたのだが。


「ああ。ちょっとした訓練で視ることが可能になるよ。キミも早めに覚えておいた方がいいかもね。そうしないと独り立ちした時に大変だからね」


 どうやらそれは間違った認識であったらしい。それがわかっただけでも、今日この人たちに付いてきてよかったと思う。


「ありがとうございます。覚えておきます」


 感謝多謝の気持ちで頭を下げておく。


「そういえば、ジョーは今頃がんばっているかしら?」


 レイチェルさんがふと思い出したかのように呟く。 


「ふふ、今日こそ技を覚えるって張り切っていたわね」


 リドリーさんがそれに答える。ジョーというのは、今日来ていない二人のうちの一人なのだろう。

 会話から鑑みるに、どうやらただ休むために来なかったというわけではないみたいだ。

 きっとジョーさんはジョーさんで今も何かに勤しんでいるのだろう。 


「マリーはなにしているかな?」


 今度はリーさんが人心地ついたブラウンさんに問いかける。 


「さあ、彼女のことだから自由気ままに買い物でもしているかもね。まあ今日は大量の魔石を練磨してもらうからね、今のうちに休んでいてもらうとしよう。ハッハッハ!」


 ブラウンさんの高笑いが青空に響く。彼の見立てでは、今日は来ていないもう一人人物であるマリーさんという人は、自由に休みを満喫しているらしい。


「さて、夕方までもう一稼ぎするとしようか!」


「オッケー!」


 ブラウンさんの号令に負けないくらいの大きな応答。

 明るく元気な仲間たちか。俺たちのパーティもこうありたいものだ。

 それぞれ基礎訓練に励んでいるであろう五人の顔を思い浮かべると、自然と背筋が伸びた

 午後の狩りが始まる。


 ブラウンさんたちは、時に二体のゴレムルを同時に相手どりながら積極的に狩りを続けていった。


 幾度かの戦いを目にし、新たに気が付いたことが。 

 ゴレムルたちは近寄れば襲ってくるが、ある程度の距離が空いていると追ってはこない。


 これならば、もし危うくなっても逃げればなんとかなりそうだ。つまり俺たちのパーティが戦う場合においても、慎重さがあれば危険はだいぶ抑えられるだろう。これは重要な事だと心に刻み、あとでメモしておくことにする。

 個人的にありがたかったのは、昼食がなくなった分、荷物が減って背中が軽くなったこと。

 

 体力とプラーナ回復を図る為に、定期的に休憩を挟んで狩りは続く。消耗したプラーナも体力と同じように休めば回復すると彼らは教えてくれた。


 日が落ち始めるまで狩りは続いた。


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