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それぞれの役割

 剣を持ったリーさんとブラウンさんが同時に駆け出す。すると二人の身体によって塞がれていた俺の視界がひらけた。

 ブラウンさんとリーさんが左右から挟むようにして挑む相手は、石ころを積み重ねて造られたような石人形だった。


「ハッ!」 


 気鋭をあげて切りかかる二人。金属がぶつかる鈍い音。石人形はごつくて丸い拳を振って二人に応戦。

 石人形は形こそ人間そのものだが、目や鼻や口などがなく、のぺらぼうのよう。


「うーん。この程度なら手を貸すまでもないわね」

 石人形と絡み合うように戦う前衛二人の様子を見ながら、リドリーさんが呟く。


「そうね、ここはプラーナを温存しておきましょう」

 

 レイチェルさんもリドリーさんの意見に賛同。

 見ているだけでいいのか?

 はらはらする俺を余所に、前衛の二人は石人形を剣で切りつけ、逆に相手の拳を躱し時には盾で弾きかえしていた。

 石人形の攻撃は捌かれ続け、二人の攻撃が一方的に叩き込まれる。確かに完封している。


「とどめ!」

 ブラウンさんとリーさんが同時に盾を石人形にかち当て態勢を崩す。――二人が剣を大きく振り上げ、勢いよく叩き下ろした。

 石人形の両腕が切り落とされ動きが止まる。――すると積み重なった石の連結が解け、石から砂となっていった。


「ハッハッハ! 今日は調子よさそうだ。がんがんいくよ!」


 ブラウンさんは少し前まで石人形だった砂の中に手を突っ込むと、中から錆びた飴玉のようなものを取り出す。


「俊、これが魔石だよ」


「これを売ってお金にするのですか?」

 ごみにしか見えない飴玉もどきをつまんで見せてくるブラウンさん。よく分からないが、この世界ではこんなものに価値があるってことなのか?


「このままでもまあ売れるけど。この魔石をあとで錬金術師に練磨してもらう。そうすると、魔石の種類と価値が判明してより高値で売れるのさ。魔石には様々な使い道があってね、燃料になるし、加工して武器や防具に付加効果を与えることも出来る」


 なるほど。そういえばカリーさんが昨日、錬金術師は金策に役立つと言っていたが、こういうことだったのか。


「そして今我々が倒したのが、魔石モンスターであるゴレムルだ。キミのパーティが最初に戦う相手もゴレムルだろうから、よく見ておくといいよ」


「ありがとうございます」


 アドバイスに感謝。そして、教えてもらったことをあとでメモしておこうと心に刻む。

 俺はようやく、彼らの目的と行動が把握できた。

 ブラウンさんたちは、このゴレムルをたくさん倒し、数多くの魔石を集める。そして手に入れた大量の魔石をあとで仲間の錬金術師に練磨してもらい売る。 その売ったお金で今度は自分達の装備を買おうとしている。

そこには、小さいながらも立派な経済活動があった。


「よし、じゃあこの調子でどんどんいこうか」


「おっけー」


 俺たちは列になって再び歩き出す。


「敵発見。数は一だけど、今度はちょっと手強いかな」


 しばらく歩いたところで、リーさんが足を止める。


「オッケー。まかせて」


 リドリーさんが答えると同時に前の二人が疾走。

 ゴレムルの姿が俺の目にも露わになる。

 姿形と大きさはさっきの相手とまったく同じに見えるが、本当に前の奴よりも手強いのだろうか?

 

 二人が走った勢いのままに初撃を加える。甲高い音が響くと、ゴレムルがすかさず拳で応戦。一見さっきと同じように見えるが、ゴレムルの振りは明らかに先ほどよりも速く鋭かった。二人が盾を掲げて拳を受けるが、弾き返すには至らず防御しただけにとどまる。やはりさっきの個体よりも俊敏で力強い。

 ゴレムルの実際の動きぶりを見て、俺はリーさんの言ったことが事実だと認識。

 

どうするつもりだ?


 防御に比重を置いたリーさんとブラウンさんはダメージこそ受けはしなかったものの、相手にもさしたる傷を与えた様子がなかった。

 拮抗した状況。戦いは長期戦の様相を呈してきた。かに思われたが。 


「――火よ厳かに集え」


 リドリーさんの杖に火が集まり、大きな球体を象りはじめた。

 ――魔法⁉


「二人とも、いくわよ!」

 

 レイチェルさんが前にいるブラウンさんとリーさんに声をかける。


「うおおお!」


 二人は返事のかわりとばかりに、気合い一擲。切りつけるというよりは、力任せにゴレムルの足を叩いたが、返す拳によってブラウンさんも直撃を受ける。


「あぶない!」


 と、俺が叫びそうになった瞬間。


「飛んで行け!」


 リドリーさんが火の玉が灯る杖の先をゴレムルに向けると、勢いよく火球が飛び出した。

 二人の攻撃によって足を挫いたゴレムルに火の玉が直撃。火炎となってゴレムルの身を焦がす。火だるまになったゴレムルの動きが止まり、砂となって崩れる。 

 膠着した戦局を一変させる超常の力。

 これが魔法なのか……


「ブラウン、怪我は平気かしら?」


 膝をつくブラウンさんに駆け寄るレイチェルさん。


「一応 見てもらえるかい?」


「オッケー。攻撃受けた箇所を見せて」 


 言われたとおりに、ブラウンさんが服をめくるとゴレムルの拳を受けた胸が腫れている。


「くそ、鎧があればなんてことなかっただろうにな」


 愚痴るブラウンさん。


「ふふ。今日頑張って、素敵な鎧を買いましょう。では、傷を治すわよ」


 深呼吸したレイチェルさんの持つ杖の先に白い光が集まり始める。 


「癒しの光をあなたに」

 

 レイチェルさんがブラウンさんの胸に光り輝く杖の先をあてると、打撃を受けた箇所の胸の腫れがすっとひいていた。


「ありがとう。レイチェル」

 笑顔になったブラウンさんが立ち上がる。 

 どうやら、レイチェルさんは傷を治す能力を持っているらしい。

 その回復という能力は便利というより、なくてはならない存在だというのが素人の俺にですら窺い知れる。

 今日のように戦闘を繰り返すのであれば、怪我する可能性はどうあっても免れないだろう。そして怪我の具合が酷ければ、もう金策どころではなくなる。それどころか傷ついた状況で敵に出くわせば万が一のこともあるだろう。故にパーティの継戦能力向上、何より安全という意味において回復能力を持つ人間の意義は甚だ大きい。

 盾と剣をもってクロスレンジで戦うブラウンさんとリーさん。

 砲台として後方から火力を発射するリドリーさん。

 そして、戦いの傷を治すレイチェルさん。それぞれにしっかりとした役目があるということが分かった。


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