僕の気持ち、伝われ。
5話目です。
「あの~……さっきの本屋さんで、万引きしましたよね?」
俺は、オレがそのまま走り出すと思っており、走る態勢に入っている。だがそれも無用だった。彼は振り向いた。目と目があう。彼の顔に黒い影が落ちる。
全く同じ顔が目の前にいるのだ、しかもそいつが自分の犯罪のことを知っている。誰だってそうなるだろう。俺はオレに向かって話を続ける。
「お前は小説を書いているんだろ? いくらアイディアがないからって、盗作はよくないぜ」
俺は軽く睨みを利かせながら距離を縮める。
「俺が誰かは、言わなくても分かるよな? 俺もタイムマシンを使ってきたんだ。ただし、この世界からではないがな」
彼の顔は安堵を示している。大方俺のことをドッペルゲンガーなどと勘違いしていたのだろう。幽霊と思い込んでいた存在が、異世界から来ました、と言っていることには疑問を持っていないようだ。物分かりが早くて助かる。
「そういうわけで、その本を返し、お前も元の時代に帰れ。小説の締め切りが近いんだろ?」
俺的には、さっさと元の時代に帰ってもらいたいが、そう簡単にはいかないだろうな、と面倒くさくなることに高を括っている。
「お前は……あの爺さんに頼まれてきたのか? お前もお人好しだな……。だが、同じオレなら分かるだろ? オレは早くプロとしてデビューしたいんだ。そのためのチャンスも巡ってきた。これを使わない手はない」
目の前のオレが口を開いた。声まで一緒なので、俺の方も身震いをしてしまう。
確かに、良いチャンスではあるだろう。だが、俺はそんな真似はしない。今回はいいかもしれないが、これからは自分の手で書かないといけないのだ。いずれバレる。バレたら小説家人生は終わりだ。いくらなんでも、そんな単純なことに頭が回らないはずはない。いくら違う世界だとしても、オレは俺なのだから。
頭が働かないほど、犯罪を犯してもいいと思ってしまうほど、目の前で俺を睨み返しているオレは追い詰められているのだろう。
オレが自暴自棄になってしまうよう、俺は慎重に言葉を選んでいく。
「たとえ今回がうまくいっても、次からは自分の力で小説を書いていかないといけないんだ。誰の力でもなく、お前、いや俺自身の力でだ」
説教されることに不満があるのだろう、仏頂面のオレに言葉を続ける。
「実はな……俺も小説書いているんだ。ただ、プロではなくアマチュアなんだがな……。俺も大きな大会を控えているんだ。でも、オチのアイディアが浮かばなくて、気分転換に散歩をしていたときに老人に出会った。俺もお前と同じなんだ。同じ小説家として、同じようにアイディアに困っている」
冷静に話そうと思っていたが、どんどん熱くなってしまう。
「でも、そんな俺たちでも、違うところがある。もう分かっているよな? そうだよ、自分に弱いところだよ。別に、俺が自分に強いとか思っていないし、そう言うつもりもない。ただ、お前は弱すぎる。弱さゆえに、盗作をしても自分を正当化しようとする。なあ、盗作なんてしても、一時しのぎにしかならないことくらい、お前ももう気がついてるだろ?」
俺の口はまだ動く。目の前のオレはただただ俺を見据えている。
「俺だってな、俺だって小説家になりたいよ。でも、自分の力でだ。自分の力でなるんだ。だがアイディアが浮かばない。だから悩んでいるんだよ。悩みに悩んだ俺だって、苦しんでいるんだよ。なあ、俺と同じオレだろ? だったらどうして自分の力を信じれないんだ? なあ、なあっ!」
言いたいことは全部言ったつもりだ。顔を赤くし、肩で息をしながら伝えた思い。
オレが開いた口からは……。
「そもそも、お前が小説家だという証拠はあるのか?」
やはり伝えきれない。でも、俺は話を続ける。次で、会話は終わりだ。次、盗作を止めないのなら、俺は力づくでもオレをとめる。
「俺が小説家だという証拠か……」
俺は、俺がいま書いている小説のシナリオを話し始める。
内容はサスペンス。まず主人公の幼馴染が行方不明になって――――犯人は……。
「そう、ここまではできているんだが、最後の犯人の追い込みがまだできていないんだ」
こんな話で証明になっただろうか。今度は俺が黙り込む。オレが口を開くまで待つ。次のオレの発言次第では、今後の俺の行動も変わってくるだろう。ピンと張った糸のような張り詰めた空気が漂う。緊張感からくる汗が、一滴また一滴と俺の頬を滴っていく。
そしてそのまま数分。オレは考え事をしているのか、目をつぶり顎に手をのせ黙り込んでいる。
そして、目を見開くオレ。言うことは決まったのだろう。このまま話し合いで終わるか、殴り合いになるのか。
「そこはさ、思い切って犯人を変えたらどうだ? 主人公の元恋人が……みたいにしたほうが面白いかもしれないぜ」
オレの言葉に、俺は笑ってしまった。今までの俺の心配がバカバカしくなったからだ。いくらなんでもオレは俺。一生懸命に話し合えば通じるものか。
「なんだ? オレのアイディアはおかしいか?」
「いやいや、全然おかしくないよ。ってか、お前ってそんなフランクな口調だったか?」
「おいおい〜。同じオレを一体どんな評価しているんだよ。いやな……、お前の言葉で目が醒めたんだよ。やっぱり、自分で考えた方が楽しいしな!」
あんまりにも呆気なく解決したことと、オレの顔に綻びができたことで俺も安心をする。
「お前の言う通り、この本は返して、元に時代に戻るよ。そして、小説を書く。今度こそ、自分自身の力で。そして必ず、お前に負けない小説家になってやるよ」
オレの笑顔が眩しく光る。まるで別人のようだ。
「ああ、俺もだ。俺も小説家になって、お前や他の世界の俺たちにも恥ずかしくないようになる」
小説家宣言も終え、お互いはお互いのタイムマシンに戻るため、薄暗い路地裏を歩く。俺は、反対側へ歩いていくオレを振り返ることはない。もうお互いのことは分かっている。元々同じ俺どうしだったこともあるのだろう。
オレのことを信じている俺は、ただただタイムマシンに向かった。
例のごとく、ご指摘等ありましたら、よろ~。




