一人はみんなのために。俺はオレのために。
3話目です~。
俺の目の前にいる老人が俺自身? 意味が分からない。率直に出た意見がそれだ。きっとこの老人はいかれている。
「おいおい~。そんな顔するなよ。少し考えれば、僕が君だって分かるだろ」
俺はいつの間にか仏頂面になっていた。眉の間にできた皺を意識しながら、俺はコーヒーを啜りながら考える。
なぜ老人は俺を待っていた、なんて言ったのか。
なぜ老人は俺が小説を書いている途中の息抜きに立ち寄ったことを知っているのか。
そしてなぜ、このコーヒーは俺の好みの味なのか。
老人を信じていいかもしれない、おもむろにそんな感情が芽生えてきた。老人の顔が俺の親父に似ているのも頷ける。
「僕のことを信じてくれるかい?」
老人はニヤケ顔をしている。このニヤケ顔をみると、どうも先ほどの信頼が揺らいでしまう。しかし、疑っていても始まらない。そもそも、老人は俺とドアの間に立っているのだ。俺を引っ張ったほどの力の持ち主だ、力づくでは外に出られないだろう。しかもその奥には、暗く細い道が続いている。暗い夜道を走って家に帰れる体力も自信もない。早々と俺は諦めた。老人を信じるかどうかは別として、とりあえず話を聞くことにする。
「分かりましたよ。あなたの話を聞きます。信じるかどうかは、その話のあとで考えますね」
老人はまたニヤケ顔になる。
「さすが君だ。さあ、話をしようか……」
俺は老人の話を聞いた。途中に、知らない単語などが出てきたが、そこは俺の知識でカバーした。日ごろから小説を読み書きしていたおかげかもしれない。
俺は頭の中でまとめてみる。
まず、俺が今いる世界のほかに、所謂パラレルワールドと言われる世界が無限にあるらしい。俺のいる世界線がA、老人の世界線をBとする。老人の世界では、この世界より科学技術が進歩していて、タイムマシンなるものが存在している。しかもそれは、別の世界線に行くことができる。老人はそれを使って、様々な世界線の様々な時代を旅行しているという。さしあたり、タイムトラベラーと言ったところか。そして、また別の世界線Cでのことだ、老人は旅行の途中にタイムマシンを誰かに使用された。タイムマシンは利用者が望むものを叶えようとするそうだ。そしてその使用者は、世界線Cのオレだった。オレは俺と同じように、小説を書いていたという。望むものは小説のアイディア。タイムマシンは、使用するオレがアイディアを手に入れれるように働く。そして、タイムマシンに乗ったオレは未来に行った。未来の本屋で、自分が書く予定の小説を手に入れるために。
「あれ? ここまでの話を聞く限りでは、俺に関係なくね?」
俺は重要なことに気付いてしまった。俺に関係あるのであれば、俺もどうにかしようと考える。が、別の世界線のオレがやったことだ。俺には関係は無いように思える。
「いやいや、そうはいかないんだよ~。未来に行った君は、無事に元の世界に戻ったんだけど、その後時空警察にばれてね~。捕まっちゃうんだよ。直接君が悪事を働いたわけではないが、彼のせいで君の未来が悪いほうに流れちゃうんだよ~」
ん? どういうことだ? 俺の世界まで関係してくるのか?
「いくら世界線が違うといっても、世界同士が少し影響しあっているんだよね~。世界線Cの君が逮捕されるという、悪いことが起こると、君の未来も悪い影響を受けるんだよ~」
俺の未来も悪くなる。知らなければ良かったが、それを聞いた後では、老人の頼み事は断りにくくなる。というよりは、俺自身と他の世界の俺たちのためにも老人の通りにするべきだろう。
「それで、世界線Cのオレが犯罪を犯すのを防げばいいんだろ? 具体的には何をするんだ?」
俺が頼みごとを聞く意思をつかみ取ったのか、老人はニヤケ顔になる。
「君が世界線Cの世界に行って、直接君に会ってほしいんだ。そして君自身が君を止める」
「そんな簡単なことを俺がする必要あるか? お前が犯した失敗だろ? お前が解決しろよ」
俺の未来への影響を考えると、確かに無視はできない。しかし、別の世界線のことに疎い俺なんかよりも、目の前に立たずんでいる老人ほうが適任な気がする。が、その疑問の答えは、すぐに判明した。
「いや~僕自身が行くのがベストなんだけどね~。僕が行ったら、同じ世界線の同じ時間内に同じ人間が二人存在することになるだろ? それは色々まずいんだよ~。そこで、同じように小説制作に勤しむ君を選ばせてもらったわけ。まあ、もう一方の君はズルをしようとしてるけどね~」
何がまずいのかは言われなかったが、老人同士が出会ったらまずいことになるのは俺でも分かる。無限にもある世界線の中から選ばれたことは、逆にすごいことかもしれないな。老人は行くことができないなら、ここは俺が一肌脱がないといけない。一人はみんなのために、と言ったところか。
「よし、分かった。全世界線の俺たちの未来を変えてやるっ‼︎」
老人は、君ならそう言ってくれると信じてたよ。と、ニヤケ顔で言われる。いくら同じ自分といっても、そのニヤケ顔はどうも苦手だ。掌の上で踊らされた感じになる。
椅子に座った時にもらったコーヒーを飲みきる。ぐちゃぐちゃしていた頭も完全に覚醒し、老人の目を見つめる。俺の行く決意を読み取った老人は、俺をあの椅子に勧めた。あの椅子、家の真ん中にあるメタリックの椅子だ。別の世界線や未来に行くための椅子だと分かった今では、椅子に接続されているコードにも納得がいく。
椅子に座り、コードが何本も刺さっているヘルメットを着用する。老人が言うには、段々と意識がなくなり、目が覚めたら未来についているそうだ。この家自体がタイムマシンのようなもので、世界線Cの、どこか空き地に家ごと飛ばされる。
世界線Cに着いたら、家から出て周りに人がいないか確認すること。
家から離れる時は鍵をかけること。
これを忘れていた老人はたまたまオレに見つかったそうだ。
そして、必要最低限しかコミュニケーションを取らないこと。
俺は世界線Cには本来存在しない人間だ。あまり他世界に関与しないほうがいい。オレだけ見つけて、オレだけと会話をする。
その他に、世界線Cの大体の文明レベルなどを聞き、行く準備は万全だ。老人は椅子についているボタンを押して、家から出て行く。俺に意識があったのはそこまでだった。
なにかあったら言ってね。




