電車8
「あのね、広也・・・。」
母親は、じっと広也を見つめた後、目を逸らした。
「うん?」
広也は好奇心を抱いていたが、母親のこの動きが違和感を生み出した。
「おばあちゃんの事なんだけど・・・。」
「うん。」
母親は、もう一度、視線を広也に移した。
「あのね、お母さんのお母さんの事だけど・・・」
「うん。」
「あまり、広也には会わせたくなかったの。」
「・・・え?」
二秒くらい沈黙した。その二秒の間に広也は同然、(どうして?)と心の中で思った。
「お盆とか、お正月とか、広也の友達って田舎に帰る子、いるじゃん?」
「うん。」
「ウチはさぁ・・・、そういう事、無かったじゃん?」
「そう・・・だね。」
実は、この事を広也は気がついていた。自分は田舎に帰らない事に。
しかし、周りには、お盆にも正月にもどこにも行かず、広也と同じようにずっと、いつもの家にいる友達もいたので、
分かってはいたが、さして気にはしていなかったのだ。
「でも、友達にも、そういう子、いるよ。」
「・・・そうね。でもね、実は・・・お母さんのトコはちょっと違うの。」
「・・・。」
(違う?何が違うの?)
広也は、ここで何か嫌な予感を感じた。
なかなか話したがらない母親。あまり良い印象では無い「ちょっと違う」。
そう言えば、さっき、母親の視線に違和感を感じたのを思い出す。
「お母さん・・・何が、違うの?」
「うん・・・実はね、お母さん・・・」
母親が重い口を開いた。