電車7
駅のホームから少し離れただけで、風景は広也の知らないものへと変わった。
在来線しか乗ったことが無いものだから、当然だった。
飽きない。
未知の風景は飽きない。
知らない建物ばかりだった。
このワクワクは、隣に母が居る事にも起因する。
平日の昼過ぎに母親と一緒に居る事など、年に何回かあるかと言う感じだった。
当然だが、母親は夜に仕事を終えて帰ってくる。
隣に居る母親の安心感と、窓から見える未知の風景に、広也は自分の胸の鼓動が聞こえそうな位、心地よい興奮を味わっていた。
「広也、もう三十分も、そうしてる。」
母親が広也に言った。
「嘘!そんなにっ!」
楽しいと時間が経つのが早いと言うが、その通りだと広也は思った。
幸せに感じている時間が過ぎるのは早い。
「実はね、広也に聞いて欲しい話があるの。」
「ん?何?」
顔を窓から母親の顔に移す。
結構、真剣な表情だった。
広也は体の向きを正面に戻し、顔だけ母親に向けた。
どうやら、どうでも良い話と言う訳では無いらしい。
「今から行く、おばあちゃんの話ね。」
「うん。」
(田舎のおばあちゃんの話か~。どんな人なんだろ?田舎ってどんなトコなんだろ?)
広也は母親の話を楽しみにしていた。