電車6
「・・・危険ですので、白線の内側までお下がりください。」
いつもの駅。広也は、母と二人でホームに立っていた。
母の手には旅行用の大きめのバッグ。中には、自分たちの数日分の衣類やアメニティが入っている。
広也もリュックを背負っていた。筆記用具やらノートやら、母が持てなかった衣類が入っている。
手には、駅で買った弁当が入った袋を握っていた。
広也と母親は、これから特急列車に乗る。いつもの在来線とは違う電車だ。
広也は都会から出たことが無かったので、そんな列車にも乗ったことは無かった。
いつも漫画や映画の中だけのものだった。
窓から眺める自然の風景、列車内で食べる弁当。
これから葬式だと言う事も忘れて、広也の胸はワクワクだけになっていた。
パァーーーーッ!
特急列車が来た。
窓から列車の中が見える。いつもの在来線とは違う列車の進行方向に向いている座席。中にはトイレもあるらしい。
プシィーーーッ!
扉が開いた。広也と母親は列車の中に入っていった。
母の後に続き、指定席を探す。母親と二人で取った席なので、二席づつ並んでいるイスのどちらかは窓側の席となる。
「母さん、窓側、座らして。」
「うん。」
こうして念願の窓側の席に座った広也だった。隣には母親が座る。
在来線とは違う興奮があった。
「母さん、弁当は少し後で食べよう。」
広也は、好きなものは後に残しておくタイプだ。
今は、この窓際の席の興奮を味わい、それが一段落したら駅弁と言うものを食べてみよう。
そう考えていた。
列車は動き出した。