電車5
広也は、家に着くと自室にランドセルを置き、居間へ向かった。
広也の家は一戸建てで、母親と二人暮らしをしている。
一階には玄関とトイレ、風呂場、母親の寝室がある。
二階に広也の部屋とリビング、トイレ、キッチンがある。
リビングのソファーに座り、ただ窓から空を見て、ボーッとしていた。
特に広也には、やる事が無い。
(母さんも仕事を終えて早く帰って来るんだったな。・・・いつ来るのかな。田舎って、どんな所なんだろう?)
これから、おそらく葬式に出る事になるのであろうが、広也の胸にはわくわくする期待があった。
広也は、俗に「田舎」と呼ばれる場所に行った事が無かった。生まれてずっと、都会暮らしだった。
一面に広がる田んぼも見たことがないし、家がまばらな所も見たことが無い。
湿った地面にも、雑草の生い茂る道にも触れたことが無かった。
それらを見られるかと思うと、小学生の広也には高揚感を感ぜずにはいられなかった。
ガタッ
一階から物音がした。
広也は立ち上がり、階段へと向かった。
直にガチャガチャと鍵を開ける音がし、ドアが開いた音もした。
「ただいま~」
母親の声だ。
「おかえり~」
広也は二階から叫んだ。
「すぐ行くから準備して~」
母親も一階から叫んでいる。
「わかった~」
広也は、そう返事をして自室へ入ったが、何を準備して良いか分からなかった。