電車4
昼休みだったので、教室に人はまばらだった。
誰かに事情を説明するのも面倒なので、広也はそそくさと教科書やらノートやらをランドセルにつめ、誰に話すことなく教室を出た。
教室のドアのところには、先生が待っていて、一緒に玄関まで行ってくれた。
「じゃ、広也君。気を付けてね。」
「はい。先生、さよなら。」
そう言って、広也は学校を後にした。
昼過ぎに帰れるなんて、高学年になってからは久しぶりだ。
何かいつもより特した気分だ。
しかし、その気分もすぐに冷めた。
(おばあちゃん・・・会った事もないおばあちゃんに会いに行く・・・)
思った後で、日本語がおかしい事に気がついた。
(おじいちゃんは、いるのかな・・・。おばあちゃんが亡くなったなら、これからおじいちゃんは一人なのかな・・・)
祖父や祖母は、どういう所に住んでいる誰なのだろう。どんな人なのだろう。
自分の事をどう思っているのだろう。
そして、母は、なぜ会わせなかったのだろう・・・。
この歳になっても、祖父と祖母に会った事が無いとすると、母は意図的に会わせていなかったのかも知れない。
小学校五年生の広也には、そう予想が出来た。
そんな思いを巡らせている内に、いつもの駅に着いた。
昼過ぎだからか、人はほとんどいなく、通勤ラッシュが嘘のようだ。
(小学生だけでも、この時間に登校するようにすれば良いのに。)
なぜ皆が通勤や通学の時間が重なるように社会が出来ているのだろうか。
わざわざ混雑する時間をつくっている気がする。
「・・・危険ですので、白線の内側までお下がりください。」
いつものアナウンスだ。
広也は、昼でもこのアナウンスは流れるんだ、そう思った。