16歳の誕生日
来ないわねー、アイツ。
別に待ってるわけじゃないわよ。
お客人をもてなすのは王女としての嗜みだから、わざわざ訪れたらすぐ分かるバルコニーにいてあげてるの。
……でも、失礼を詫びなきゃいけないことも事実。
あれから親書に書き添えさえしなかった。どうせあと一年残ってんだから、まあいい。そんな気分でズルズル来ちゃった。
早く来なさいよ。こっちのメンタル、思った以上に切迫してんだから。
今年が約束の十六年目。予想以上に精神にキタのよ。
「王女様、お誕生日祝いの品が届いております」
「今行きます」
侍従に答えてバルコニーから部屋に入って、届け物をまとめて保管する部屋まで行く。いい気分転換よ。
しかしまあ、例年だけど多いわね。軽く山よ。箱から袋からよりどりみどり。ここにない分だと馬や彫像なんかがある。
ん、これ、バラの花束かしら。両手に抱えきれない。サマースノーの花束なんて、アタシの温室とお揃いね。気の利いたマネする……
違う。
あそこには彼以外の王子なんて入れてない!
偶然、にしてはピンポイントに狙いすぎだわ。白いバラが世の中たくさん存在する中で、何でサマースノーなのかしら。
――来ないつもり?
これって彼の「来ない代わりに贈ったプレゼント」なんて意味じゃないわよね!?
そんなわけないわよ。だって、毎年来てくれた。
せめてメッセージカード。お願いだから別の誰かであって!
花の中に手を突っ込んで、手探りでカードか何かを探す。手はもうトゲだらけで痛い。
何も見つからない。これは彼の贈り物なの? 別の誰かのものなの?
侍女たちが傷だらけになった手を心配して声をかけてくる。トゲの処理もしてないなんて、贈り主の気遣いのなさが知れる。
おかしいわね、目眩がする。立ってられない。あんまり眠れなかったからかしら。
腕からサマースノーの花束が落ちる。
白い花びらは、アタシの血でかすかに赤い。
それより、頭が回ってるの。倒れちゃう。
目の前には血を流す手と、白いサマースノー。
……ああ、そういうことだったの。今時、バラのトゲに毒とか。呪いはどこ行った、呪いは。
「きゃあああ! 王女様!」
騒がしいわね。最後くらい浸らせてよ。
本格的に罰が当たったなあ。来年でもいいじゃん、なんて思ってるから彼に謝りそびれるのよ。
ほんっと滑稽ね。これじゃどっかの夢見る町娘の思考じゃない。このタイミングで眠りにつくのは偶然で、アタシが彼を邪見にしたこととの因果関係はないじゃない。
大体、何で今年は遅いのよ、アンタ。毎年毎年飽きもせず、アタシに『おめでとう』言うために来るくせに、後味悪いったらありゃしない。
早く来なさいよ――このアタシが、直々、に――…