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あなたを想うからこうするのです

作者: 岡野柚子

「……俺、絵麻が好きだ」


いきなり何を言い出すのかと思えば。

目の前の男は凄く苦しそうに私にそう訴えた。「絵麻」その名前が私の名前であることをどれだけ望んだだろうか。罪悪感で押しつぶされそうな顔をしながら彼は好きである女を変えたりしない。


「…頭おかしいんじゃないの?」


嘲笑うように言えば彼は冷や水を掛けられたような顔をした。幼稚園のころから一緒にいた私になら受け入れ、そして応援してくれると思っていたのだろうか。あまい、あまい。


「双子の姉を好きになった?そう言うのを世間ではきんしんそーかんっていうのよ?」


「……」


「…幼いころに両親を亡くし、たった一人の大事な家族だと思っている絵麻に今の竜の気持ち話したら…どう思うんだろうね?」


「…そんなことくらい分かってんだよ。…でも…」


「諦められないんだ」


私の言葉に彼は言葉を詰まらせた。

彼の姉の絵麻は同性の私から見てもとても魅力的な女の子だ。天真爛漫な笑顔に愛くるしい顔立ち。そして、彼女の一番の特徴といえるのがモデルのようにすらっと高い身長だ。150もないチビな私とは正反対。でも、羨ましくなんてないわ


「その諦められない竜君は絵麻ちゃんとどうしたいの?手をつないでハグして…ちゅーして…それだけじゃ足りなくて抱いたりとかもしたいの?」


「それは…」


年頃の男子。そういう欲求があるのは当たり前だけれどこうもあからさまに聞いては答えにくいようだ。…でも、私は彼のその困ったような顔を見るのが至極好きなのだ。趣味が悪いと言われても構わない。だけど、好きな相手のどんな顔だって見たいって言うのは恋する乙女として当然のことでしょう?


「…そんなことしたら絵麻を傷つけちまうだろうが」


「じゃあ…どうしたいの?」


「それが分かんないからお前に…!」


「竜がどうしたいかなんて…私に分かるはずないでしょう」


「そうだけど…」


「…かわいそうね、竜」


きっと彼はいつからか覚えてもいないころからこの苦しみに苛まれているのだろう。近くにいるのに触れられない。ほしいと思っても手を伸ばしてはいけない。終わることのない連鎖。

止めるのは簡単だ。ただ絵麻のことを女として認識しなければいい。そしたらすぐにでも解放されるのに彼はそうしようとはしない。純粋に不純に絵麻を愛し続けている。ああ、なんてかわいそうなの


「なんで…俺たち…姉弟なんだろうな…」


俯いて涙を堪える彼の首に手を回してぎゅっと抱きしめる。

思わずにやついてしまった口元が彼に見えないように。


実は数日前絵麻にも同じ相談をされて同じように泣いていた。可笑しなものよね…実の姉弟でもないのにここまで反応が一緒だなんて。やっぱりこういう行動は血のつながりよりも育った環境で違うのかしら

私もつい最近知ったんだけど、私たちの生まれた病院では赤ちゃんの取り違えが多かったらしくてね。そんなドラマみたいなことが本当にあるのかって思ったけど…でも、私と両親にただ頭を下げ続けるお医者様を目の前にしたら信じるしかないじゃない。本物の両親に育てられなかった悲劇のヒロインを気取るつもりなんて一ミリたりともない。寧ろ少女漫画のヒロインになったような気分だわ。

幸い、絵麻の両親も私にそのことを謝り続けたお医者様も少し前に事故で亡くなってしまったことだし…この真実を知ってるのは私だけ。…なんて素敵なことでしょう

ねぇ、竜。血のつながりのない女が好きだと姉の胸の中で泣く気分はどう?



20150801 岡野柚子

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― 新着の感想 ―
[一言] はじめまして、一条 灯夜と申します。 作品、拝読させて頂きました。 心情を中心に、恋愛のドロッとしたタールのような部分を上手く描けていたと感じました。 ラストですべてが明らかになるどんで…
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