集団トリップ
自殺。今はもう過去の産物であり、教会や寺以外には一切の利益を生まない、自傷行為の最高峰。
集団自殺。旅は道連れ、二人以上で自殺を行うことである。
それぞれに理由があったであろう自殺は、今は、少なくとも日本では一切行われていない。何故ならば、一つの超技術が発見された為だ。
決して、この世に希望を持つようになるとかではなくて、自殺の代用品が生まれたのだ。
『転生』または『トリップ』。
転生は異世界に魂だけを飛ばし、赤ん坊からやり直すというものである。
トリップは肉体ごと異世界に転送し、人間関係を一から造り上げるというものだ。
どちらも一方通行で、しかもこの世界では行方不明や死亡となってしまう欠点がある。しかしそれも省みない程に、世の中には絶望が多すぎた。
そして、一人の時は転生を、二人以上の時はトリップを利用することが多い。
異世界への転送は、パソコンとインターネット環境さえあれば、誰でも自ら行うことができた。
「この世界はどうだ? トリップや転生をした奴も、まだ0人。しかも金をかければロックもかけられる」
一つのサイトを開き、友人のシュンこと片桐瞬矢がそう言う。ロックは中々に重要なので、俺、カズこと銀主兜と、友人のコウこと富塚鋼がディスプレイを覗き混む。
確かに集団トリップ可能で、ロックをかけることもできる。しかし懸念もある。
「異世界の情報は? 『 2×××年、世界は滅ぼうとしていた――』とかは嫌だぞ」
「ありがちな、中世ヨーロッパ風。魔法もある世界だ」
最高じゃねーか。そう口にしようとしたその時、コウが先に口を開く。
それはトリップにおいて、一番重要なことでもあった。
「特典――補助やボーナスは?」
「仮装ディスプレイと、ボーナスポイントを30点もらえる。ポイントはレベルアップ他で増やせるらしい」
仮装ディスプレイとボーナスポイント。どちらも異世界とこの世界の『落差』を利用して造り上げたものである。
「初期ジョブは村人+1らしいぞ」
随分とサービスが良いじゃないか。
多少の疑念はやはり棄てきれないが、頷き合い、情報を簡単に設定し、クリックした。
直後、世界は暗転した。