オフィーリアとイシュメル
十歳くらいのときでしょうか←テキトー
「イシュ、踊って欲しいの」
ゆっくりと杯を傾けながら夜を楽しんでいた父親代わりにそう申し出ると、彼にしては珍しくきょとんと目をしばたたかせた。
「踊り? リア、なにが踊れないんだ」
目をぱちくりといつもの何倍もの頻度で瞬かせながら、それでも目と口以外は動かない。手は葡萄酒の入った杯を持ったままだ。
パタパタと全体的にまだ短い銅を短い脚で引きずってイシュメルの目の前に本を翳す。
「このステップがよくわからないの」
開いてある頁には中級者向けの技がいくつか載っていて、オフィーリアが指したのは夫婦ペアで踊る密着度の高いものだった。そのことにイシュメルの眉間に皺が寄り、慌てて弁明する。
「勿論今すぐ実践という訳じゃないの。でもコンラッドが、次に来たときにテストをするっていうから」
実践しようにも三人の親と自分以外は竜しかいない此処では、試しようがない。また、普段はデロデロに甘いコンラッドもマナーや勉強に関してはとても厳しい。
言いたいことは解ったのか、イシュメルは大きなため息を吐いてから杯を卓に置いて立ち上がった。するりと手と腰を取られる。
「リズムは」
「四分の二で」
端的な問いに同じように返すと、音楽も流れていないのに正確なリズムでイシュメルの体が動き始めた。それに釣られ、オフィーリアの足も動き出す。
序盤は問題なく進み、問題のステップに入る。
「右足を半歩後ろに引いて、そのまま左足を被せろ」
言葉に従って足を動かすと、いつ動いたのか――イシュメルはオフィーリアの正面から左半身に移っていた。
「そのまま体重を俺に預けて」
体重を預ける!?
半ば絶叫しつつも体重を投げるように努力はしてみたが、今までそんな経験がないオフィーリアはほぼ自分で自分の体重を支えたまま次のステップに入ろうとしてグラリとバランスを崩した。だが、ぽすっと突っ込んだのは冷たい床ではなく暖かなイシュメルの胸。
「莫迦」
呆れを隠そうともしない父親代わりに、釣られてベッと舌を出した。
『手を繋いで照れくさそうにする』『オフィーリアとイシュメル』を書きましょう。http://shindanmaker.com/62729
この後にコンラッドが不貞腐れるのはお約束。