セラフィーナとコンラッド
目の前でなにが起こっているのか。認めることを脳が拒否した。
なにかを掴もうともがく手を見たとき。音が聞こえなくなった。無音の世界で、水が飛沫を上げる。白い肌がどんどん見えなくなる。
右側から熱が消えて、川に一際大きな飛沫が飛び散る。五秒弱を置いて二つの金色が水面を突き破り、ようやく音が戻ってきた。
私はただ、動けないでいた。
何時ぶりだかわからない涙を流しながら、びしょ濡れの二人に抱き着く。
「ごめんなさいごめんなさい! 私、なにも出来なかった……!」
同い年なのに。同じ地位なのに。
すると、赤銅色の瞳を持つ少年が苦笑した。
「セフィ、私、足を痛めているんです」
隣国の大公子たるコンラッドの発言に固まった後、すぐに魔法を展開する。セラフィーナたち三人は共通して使える属性だが、体力が第一だ。まだ濡れているイシュメルや溺れた本人であるコンラッドに使わせられる筈がない。
患部に手を当て、内部を探る。痛みと同調しながら、まだ無詠唱では出来ない呪文を唱える。
「【半回復】」
快復は出来ない。してはいけない(・・・・・・・)。その代わり私たち人間は、回復を許される。
ゆらゆらと時間を立てて組織の修復をしている間に、イシュメルが自身とコンラッドの上着を絞っていた。薄手の肌着だけ濡れたまま着直しながら「火か風の使い手がいればな」と何度目かわからない言葉。
少しずつ落ち着いてクリアになっていく世界で、コンラッドは微笑んでいた。
「私やセフィは泳げません。だけど、光魔法を使うことが出来ます」
各々が出来ることをすればいいでしょう、と言われたところで治療が完了した。軽く痛むだろうが、歩ける筈だ。
三人揃って立ち上がり、それぞれの契約竜の元へ歩く。イシュメルとコンラッドは軽口を交わしているが、セラフィーナは納得が出来ない。先ほど最も痛感したのは、すべきことさえ言われなければ出来ない自分なのだから。
セレドニオの背に乗ろうとして、コンラッドの声に振り向く。そこではエリシアにしがみ付くようにして乗っていた。
「セフィ、急いではいけないと教えたのは貴女ですよ」
言った、確かに。大公子として多くのものを背負いすぎていたコンラッドに。
それでもまだ頷けないでいるセラフィーナに、コンラッドは苦笑する。
「私たちは十歳ですが王族です。そして、王族ですが十歳の子どもです。のんびり行きましょう」
じんわりと染み込んでくる言葉。それこそ魔法のようだった。
「……うん」
はにかみながら肯定すると、イシュメルが溜息を吐いた。
「そんじゃあまぁ、戻って親父連中に叱られるか」
すぐ先の未来を的確に示す言葉に、三人揃って苦笑いしながら。
【セラフィーナとコンラッド語り】どちらかが海や川に落ちて運悪く足を痛め溺れてしまったときについて語りましょう。http://shindanmaker.com/169048
特にオチもなく、ただ幼い頃のワンシーンです。