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セラフィーナとイシュメル
本編番外編「友情と親愛、そして」の半年前になります。
足を海辺にちゃぷんと浸すと、たゆとう温さが伝わってきた。
「気持ちいー……」
王都から遠く離れた、隣国との国境近くにある海。そのごくごく一部は低温の温泉が湧いている。湯治に最適だった。
だからと言って、公爵令嬢たるセラフィーナが簡単に来られる地ではない。ましてや、正妃だったならば。
『半年後には、お前はもう公爵令嬢ですらなくなる』
立場から逃げることは出来ない。ならばなる前にせめて、思い出を。
それでも、逃げなくてはいけないことがあったら――
「イシュ」
後ろを向きながら控えている友に声をかける。夕日を見ながら。
「手を、貸して、ね」
これから益々息苦しくなるだろう。それでも。
「安心しろ。地獄でも一緒してやるよ」
迷うことなく答えてくれる貴方たちがいるうちは、走ることが出来るだろう。
「寒いね」
温かいけど、自然と呟いていた。