訓練初日!
「それでは自己紹介をする!この度フォブスリーン伯爵領私設軍中隊、隊長となった、リョウだ!我が隊は特殊な設立上、通常の軍とは軍規が異なるが、基本は同じだ。奪う者、殺す者、犯す者、逃げる者は訓練期間中であっても死で償ってもらう。この点は容赦しない。気を付けるように」
集団からざわめきと、くすくすと笑い声が聞こえる。
「なお上官の命令に背く者は、厳しい罰が与えられる。諸君らの性格は知らない、だが諸君らも俺の性格を知らないだろう。訓練期間中の命令無視は厳しい罰だが、それ以降の命令無視は相応の罰を受けてもらう。諸君らが一刻も早く俺の性格をわかってくれることを切に願う、それと補佐役の2名を紹介する、カチュアとアニマ、共に小隊長クラスの権限を有する。当然のごとく上官として敬意を払うこと!!」
集団のざわめきと笑い声が大きくなる。
「では、最初の指示を出す。……全員その間にしゃがめ!!」
―――その場にしゃがんだのはわずかに30名ほどだった。
「今しゃがんだ者は全員訓練場一周!!駆け足で行って来い!」
不思議そうな顔をしながらも、ぽつぽつと集団から抜け、走り始める。
「諸君らはまだ自分たちの状況がわかっていない馬鹿と見える、まだ初日だ、これからいやというほど、自らの立場をわかってもらおう。俺の下につくのが不服の奴は前に出ろ、一人づつでもまとめてでも相手してやる」
一人のおっさんが前に出る
「自分のガキと変わらない奴の下になんかつけるかよ!!」
「意見が言えるのはいいことだ、しかし訓練期間中は"はい"だけ馬鹿みたいに繰り返しればいい、とりあえず立場をわからせてやる。かかってこい、勝てば奴隷からの解放を約束しよう。……勝てればの話だが」
おっさんの目の色が変わる。
「約束だからな!……おらぁ!!」
おっさんは勢いよく突っ込んでくる。こぶしを避けながら懐に入り、肩での当身と同時に腕を極め、投げる。倒れた頭に遠慮なく蹴りを入れる。
「先に言っておく、俺はどこかのお坊ちゃんでも、お前らの息子でも友人でもない。命令を無視する奴はいらないし、死んでも別に困らない。もう一度言う、自らの立場をよく考えろ。それと、まとめてかかってきても構わないが」
――――指笛を吹く。
「ヒヨコ、あの集団の足元だ」
ヒヨコの風の魔法が、寝坊組の足元の地面を大きくえぐる。
「あまり数が多いと、殺さないように手加減するのが困難だ。死にたい奴だけかかってこい」
ざわめきも笑い声も何もない静寂だ。
一部始終をみながら走っていたメンバーが戻ってきた。
「それではもう一度指示を出す。走って来た者はあちらに一列横隊で整列、その他は全員しゃがめ!!」
寝坊組も含め今度は全員が指示に従う。
「一列横隊の者全員を班長として仮任命する。以後すべての班員の罰は連帯責任である。班長は各自責任を持って管理すること、整列しているものは均等になるように各班長の前に並べ、10分以内に整列し、各自自己紹介をしろ、今日から部屋割りも各班ごとに行う、寝坊した馬鹿どもはこちらで各班に組み入れる。馬鹿どもは別命あるまで訓練所を走れ!!!班長は自己紹介が終わり次第報告に来い。……では各自行動開始」
みずをぶっかけて起こしたおっさんも、訓練場走りに合流させた。ちんたら走るやつがいたら、その場で腕立て20回の罰が下る。
報告があった班から順次朝食をとらせ、全員の食後30分してから寝坊組+おっさんにも朝食を取らせる。
食事が終わってた奴から順番にそれぞれの班に振り分ける。
振り分けが終わると、各班の隊長に人数分の剣とナイフと盾と弓と矢筒を支給する。
「各班長は支給された装備をすべて点検し、不備や不具合がないか確認しろ、午前中までにすべての装備を点検、手入れしろ、班員は俺の許可が出るまで訓練場で走れ、カチュア、アニマ。監視を頼む、手を抜くもの、歩くものは容赦なく連帯責任で腕立て20回。なお、本日中に剣、ナイフ、盾、弓、矢筒のこの隊の基本装備を支給するが、逃亡、反乱を企てる者は未遂であっても、死で償ってもらうので覚えておくように、できればそんな馬鹿がいない事を祈る。なお奴隷契約における処遇、解放の権限を伯爵から許可されているので、優秀な者は訓練期間明けに、奴隷から解放することを約束しよう」
「「「おぉーー」」」
あちらこちらで歓声が上がる。
「軍規については、本日中に公布し宿舎内にも貼り出す。訓練内容は、随時連絡する。各班員の状況と連絡の相互確認は徹底すること。では各自行動開始」
フォブスリーン伯爵家私設軍特殊中隊軍規
1、上官の命令に背く者は処罰する。
2、私的な理由による争いを起こした者は処罰する。
3、領民に対して故意に不利益を及ぼした者は死罪。
4、奪う者、盗む者、殺す者、犯す者は死罪。
5、逃亡、反乱、あるいはそれらを企てた者は死罪。
6、国の法に違反する者は、処罰する。
(状況に応じて軍規は改変、追加していかないとダメな気がするが、まずはこれでいいだろう)
訓練はしばらく走って走って走り抜いてもらおう。
行軍にはどうしてもスタミナと精神力が必要だ。
目的地を聞かされず、歩き続けるというのは、かなりの精神力がいる。
それに最低限の座学に弓の技術、班単位での連携、小隊規模での連携、輜重、兵站関係、問題は山積みだ。
才能をそれぞれ見極めて、後方支援の割り当ても考えなきゃいけない。
物資から金勘定に、何から何まで自分だけでやるのは不可能だ。
一刻も早く計算ができて、頭がキレる副官が欲しい。
やる事が多すぎて、どこから手を出したらいいのかわからない。
とりあえず兵士は死ぬほど走らせておこう。
仮の班長達に装備は、毎日本人に点検させ、手入れをさせるように、不具合があったらすぐに報告させるように。と厳命しながらそんなことを考えていた。
作者は軍とか戦争とかあまり詳しくありません。
調べて書くことも可能ですが、あくまで主人公の知識は連載開始時点の作者の知識と同程度です。




