同居のるーる!
アニマの部屋に行き、ノックするが反応がない。
(出かけているのか?)
勝手に入るわけにもいかないので、共同練習場で特訓をする。
筋トレを少し減らして、柔軟の時間を多めにとる。
股をひらいて身体を前に倒していると……
後ろからアニマの反応が急接近してきたので、その場を飛びのいた。
―――俺がいた所には踏み抜かれたアニマの足があった。
「リョウ、話があるちょっとこい!!」
猛烈に怒っている。
「丁度いい、俺も話があったんだ」
文句は山ほどある。
アニマに手を掴まれズンズンと音が鳴りそうな勢いで引っ張られ、アニマの部屋に放り込まれた。アニマは後ろ手で鍵を閉めると鬼のような形相になった。
「リョウ!さっき伝言を届けてきたぞ![元気でやってます、心配しないで下さい、早ければ今月中に出れます]それだけでよかったんだよな!!?」
「あぁそうだ」
約束のゲームで3勝後、アニマには伝言メッセージを伝えておいた。
「それで?なにかあたしに言う事はないか?」
「アニマから話があるんだろ?お先にどうぞ」
「なら言わせてもらう、リョウ!!婚約者がいるってどういう事だ!!!しかもあの女狐カチュアだと!!なぜ言わなかった!!」
「……は?」
「リョウの母親から聞いたぞ!それに伝言を伝えた時にいけしゃあしゃあと、宿の手伝いまでしてやがったぞ、あの女狐!!!」
「女狐って?」
カチュアと知り合いなのか……?
「去年の空の月から出てきた剣奴隷の新人で、バトルロイヤルで有力選手を結託して潰す方法で、上位をかっさらっていった女狐だよ!!知り合いだったのか!!?」
(あー案外えぐい事してるのね)
「まぁ一応知り合いですが……」
「あたしを騙したんだね!!広い部屋に住みたいからって!!あたしの純情を!!」
「あーお話ってそれで終わりですか?」
「これ以上の話があるか!!練習場にいくぞ!決闘だ。あたしが勝ったらリョウはあたしの物、あたしだけの物だ!!リョウが勝ったら、一生リョウについて行く」
「全力でお断りします、お話はそれで全部ですか?」
「……」
「他にないなら、俺からの話をさせていただきますが、俺は非常に怒っています。それを先によくわかっておいてくださいね」
とびっきりの笑顔を見せる
「え?」
「まず1つ、俺が同居を承諾したと会長に嘘をついたこと」
「そ、それは約束したじゃないか!」
「話は優勝してから、そういう話だったと思います。俺は一言も承諾してないし、ここに住みたいとか、一緒に住みたいなんて言ってない」
「で、でも」
「自分勝手に話を進めて、挙句俺の私物まで勝手に触って移動している。あなたにはありませんか?誰にも触られたくない思い出の品とか」
そんなものはないが、とりあえず言っておく。
「あたしとリョウの仲じゃないか!!」
「同じ剣闘会の人、それ以上でもそれ以下でもないです、ましてや恋人なんかじゃ断じてない、仮に俺に婚約者がいようが結婚してようが、アニマには何も関係はない」
「でも、でも!」
「さらにもう1つ、アニマは俺の事が好きって言ったよな?」
「う、うん」
「じゃあ俺が婚約者なんかいないって言ったらどっちを信じるんだ?」
「……絶対リョウを信じる!!」
「お前、俺から事情を聞いたか?」
「……」
「聞く前から怒り狂ってるよな?」
「でも……言いたいことはないって」
「アニマの話を先に全部聞くって言っただろ?それに恋人でもないアニマに説明する理由もないし、そもそも俺に婚約者なんかいない」
「!!婚約者じゃないのか?」
「カチュアの母親と知り合いなだけだ。その母親とちょっと揉めた時に、ゴレアンさんが色事と勘違いして、勝手に思い込んでるだけだ」
「ちょっと今からそれ言ってくる」
――アニマの腕をつかむ
「まて、アニマが言って何の証拠がある?俺が手紙を書いてサインする事なんてできないんだ」
「だから説明しに行くんだよ」
「相手は何を根拠に、アニマの言葉を信じるんだよ?」
「……あ!」
意外どころか普通にアホの子だ。まぁ俺とゴレアンさんしか知らないようなエピソードを、本人確認に使えばいいんだけどな。
「アニマが好意を持ってくれるのは嬉しい、でも俺は今それどころじゃないんだ。わかるよな?」
「う、うん」
「さらに立場が逆だったとして考えてご覧?自分がどれだけひどいことしたかよくわかるよ?」
「逆?」
「30手前の男の剣闘士が12歳の少女の剣奴隷の子を[承諾済みだ]と会長に嘘をついて、勝手に荷物を移動させ、同居する部屋にベットは一つきり、さぁその少女の運命は?」
「なんかあたしが悪者みたいじゃないか!!」
「なんかでもみたいじゃなくても悪者なんだよ!!別にそこまでアニマが嫌いって訳じゃないし、同居すれば練習とか一緒にできるし、って考えてたけどやめた。会長に直談判して、剣奴隷部屋に戻る!」
――荷物を持ち、部屋から出ようとするとアニマに腕を掴まれる。
「待ってくれ、反省する。だからもう一度チャンスが欲しい」
「……その前に何か言う事は?」
「……ごめんなさい」
「それじゃあ何に対して謝ってるのかわからない」
「会長に嘘をついた事と、私物を勝手に触った事と、リョウの言い分を聞かずに怒った事です……ごめんなさい」
「……もっと細かいところまで言ってやりたいけど、まぁいいやそれで?どうするの?」
「どうするって?」
「一緒に住むなら俺に何かメリットがないとな。一緒に住みたいと言って嘘までついて許可をとったのはアニマだ。襲われるのも怖いし、同じベットでは寝れない。かといって床で寝るくらいなら、剣奴隷の部屋に戻ってベットで寝る。でも俺がベットで寝て、女性を床で寝かせるほど鬼でもない……」
「今からベットを買ってきます……」
「それは非常に素晴らしい提案だ、帰ってきたら……一緒に夕飯食べて、今後について楽しくおしゃべりしようか」
「うん!!」
ベットを買う以上、もうアニマは引くに引けないのだ。
ついでにこのまま生活に必要な物も揃えてもらおう。
アニマがいれば毎日お湯で身体も拭ける。洗濯ももう手洗いしなくていいのだ。幸せな同居生活が待っている。ありがとうアニマ。




