ランクC初参戦!
年が明けて12歳になった。
目標は今年中に、剣奴隷から釈放されることだ。
年明けの発表で、エギラム国ジュビリー・フレイ・ガランタムが第二級特異点に認定されたことが大きなニュースになった。
元々戦術級の範囲魔術師に飛竜である。誰もが納得する認定だった。
ランクCの割り込み参加は、人数の少ない総当り戦にエントリーした。
ルールも確認し、場外負けありで、10秒ルール、降参も可能な大会にした。
空の月20日に開催され、これに勝てば、今後ランクCの大会にも参加申請を出せる。
スーパーバトルロイヤルで失った、昼食の権利を取り戻さなければならない。
ランクCの大会では、小さい大会でも優勝で5銀貨の賞金は保障されてるし、大きくなればさらに高額な賞金の大会もある。
スーパーバトルロイヤルの教訓を思い出し、もう二度とバトルロイヤルには出ないと心に誓った俺は、おとなしくトーナメントや総当り戦で頑張って行く。
年明けのお祝いの時にバレスに呼ばれ、左手用の篭手も貰った。
魔獣の革でできた篭手で、学園で使用していた物よりも、数段上の性能のようだ。指の動きを阻害しない非常に使いやすい物だった。
ナイフの位置はいくらランクCとはいえ、消えては戻るチートナイフを見せるわけにもいかないので、左脇下に学園から持ってきたナイフ、右脇下に毒ナイフ、左の腰に麻痺ナイフ、右の腰に付加なしのナイフにした。
魔法剣や毒を塗った武器はあるので、相手が麻痺や毒になってもそれほど騒がれることではない。ただ10分で死に至るのは猛毒の部類なのであまり多用はしたくない。
空の月の10日に新しいルームメイトがやってきた。
「……僕はイルマ今日剣奴隷になりました……よろしく」
「俺はリョウ、先月剣奴隷になった、よろしくな」
「よろしくお願いします……あれ?リョウさんは剣奴隷なのに拘束されてないのですか?」
俺の手首と自分の手首を交互に見る。
「大会で勝ったご褒美に解除してもらってる。まぁ負けが多くなればまた拘束されるかもしれないけどさ」
「そうですか……僕も頑張ります」
「そう言えば消費媒体買ったか?」
「いえ……少しでも早く出たいので、買いませんでした」
「そっか、新人演習頑張れよ」
「はい……」
彼が新人演習を生き延びれるかはわからない。しかしそれもまた彼の選んだ選択なのだ。俺にできる事はない。
それから15日まで、アニマの槍の受け役の練習に付き合って、昼食をごちそうになる日が続き、とうとうランクCへの初参戦の日がやってきた。
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4人総当り戦に割り込み参加をし、5人総当り戦。
ランクCはランクC+フリーランクの試合に
ランクBはランクB+ランクCの試合にでれるので、最大でランクBの相手が出てくる。控え室や共同練習室で見ていた結果、わかったことがある。
フリーランクにいるのは、腕が三流がほとんど
ランクCにいるのは、装備か腕のどちらかが二流以上
ランクBにいるのは、両方が二流以上、もしくは片方が一流以上
ランクAにいるのは、両方が一流以上
雰囲気でこいつはやばい、勝てない。本能が逃げろと警告する相手はいつだってランクAだ。こいつらが参加してくるのはランクBからだが、できれば行きたくない。安全領域で俺強い!でいいのだ。分水嶺は見分けないとほんとに危ない。いつか強さの高みに行きたいが、今は無理する時ではないのだ。
機体撃というこの国では主流ではない戦闘方法の為、勝っているが、対策を考える奴も出るし、これ以上ランクを上げないようにするつもりだ
総当り戦最初の相手は、全身鎧に盾と剣のガチガチのオーソドックススタイル。この手の剣闘士、剣奴隷が非常に多い。
勝つことも大事だが、死なない、怪我をしないが剣闘の基本だ。
「試合……はじめ!」
全身鎧なのでナイフを刺す隙間がほとんどない。打撃もほとんど効果がないし、自分が痛いだけなので投げて転がし、そのまま腕を極めて抑え込む。
魔法剣に対する対策も考えた。身体強化をした部分は魔法による抵抗力が上がるので、万が一はそれで耐える。
いつかのガロンのような放射型の魔法剣は避けて距離を詰め、剣に魔力を纏わせる維持型は普通の剣と同じく当たる前に避けて投げて行こうと思う。
一番怖いのは振りかぶらない奴ら。攻撃を誘い、確実に対応しないと左腕以外防具のない俺は、死ぬ事だってある。
突きが早く隙のない槍の使い手と、時間切れになり引き分けになると、同じ相手と時間切れなしの決勝戦を行った。
武器を持った相手とこれほど長く戦う事が初めてだったが、アニマとの練習が効いていたのか、徐々に慣れてきた。
最終的に、あまり使いたくなかった切り札の1つ麻痺ナイフを使い、勝利した。これでランクCへと昇格した。
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「なかなか危ない試合だったな、見ていてひやひやしたぞ!これでうちでも久々のランクC剣奴隷の誕生だ。約束通り昼食の自由は元に戻してやる」
「ありがとうございます」
「それにしても最後のあれはなんだ?毒か何かか?」
「企業秘密ですよ!」
ポーション系の持ち込みは不可だが、事前に飲むと高価な物では一時間ほど耐性がつく場合もあるので、ネタはあまりばらしたくなかったのだ。
「そういえばフリーランクで、剣闘会タッグマッチの試合があってな、アニマからリョウと一緒に出せ、と希望があるのだが、出るか?」
「【ベストカップル杯】でもうこりごりですよ」
「あの試合とは違ってロープでつながれてたりしないし、賞金もなかなかいい。優勝すれば賞金の他に俺から消費媒体を10銀貨分進呈しよう!」
いくら会長と言っても、釈放金を減らすことはできない。
しかし褒美に消費媒体を渡すことで、疑似的に釈放金を減らすことが可能だ。
10銀貨分と言えば、そのまま釈放金減額として売れば8銀貨はいく。
「非常に魅力的なのですが、何か裏でもあるんですか?」
「まぁそう思われるのも仕方がない。このタッグマッチは各剣闘会から1組だけ出せる大会なのだが、今までうちは優勝したことがない。さらに今年剣闘会ランキング3位になったから序盤で勢いもつけたい……なにより」
「なにより……?」
「アニマの奴が毎日毎日リョウと出させろとうるさい、夢にまで出てくる始末だ、実際【ベストカップル杯】で優勝した経歴もあるし、他の剣闘士も文句は言わないだろう。……というわけでよろしく頼む」
「わ、わかりました」
剣奴隷は剣闘士と違って会長から指示された大会への参加は基本断れない。
待遇はよくなったとはいえ、俺は剣奴隷なのだと痛感する瞬間でもある。
会長が出るか?と聞くのは本人承諾の上で勝ちを狙いたいからです。
強制的に出すことも可能ですが、負けるために出すなら意味はないのです。
優勝を狙うためにも褒美を提示し、一応確認もしているのです。




