スーパーバトルロイヤル!
山の月最終日に行われる、一年の総決算、フリーランクの最強決定戦。
闘技場最大のリングで行われる、剣闘で最も参加人数が多いバトルロイヤル。
この大会の上位5名にはランクCへの割り込み権が付いてくる。
賞金も10位まで与えられ、1位には100銀貨である。
ここまで連勝街道を走ってきて、吸収を使えて、山の月からの参戦でバトルロイヤルに出れる。かなりの危険人物として、マークされるのは間違いない。
唯一の救いは場外があるところ、100人でバトルロイヤルをする場合、ヴォル師範はどうするだろう……
想像すると、ひらひら逃げて近づく敵を投げては倒していく様が、目に浮かぶ。
学園2年目の、体験講義の時の事を思い出したが、ヴォル師範の蹴りや打撃は異常に重かった。
機体撃は対人戦の格闘術だが、ヴォル師範からは多人数戦が苦手とかは聞いた事がない。俺が勝手に推察しているものだ。
手紙にもあったが"体"だけはちょびっとだけまともだと。"機"は冷静になり機を誘い、虚をつき、機先を制せという事の方向として修業を続け、"撃"……とは?
一撃で倒すこと、止めを刺すこと、今の俺は投げた相手に蹴りを入れたり、押さえつけたりだが、かならず"撃"にも何かがあるはずだ。投げてしまえば倒れた相手に対して有効な攻撃は蹴りだ、拳や極めの場合、しゃがんだり、身を低くしなければならない。
現代でも子供の頃喧嘩をしたが、複数相手の時にやっちゃいけないのが、取っ組み合いになる事。掴まれない、掴んだら即投げる。
今までのように、バランスを崩して投げるだけじゃなく、勢いをつけて叩きつけたり、"撃"についても色々考えなければいけない。
拘束具が常時開放になっても練習相手はいないので、イメージトレーニングをするしかできない。数えきれぬくらい投げられたヴォル師範の動きを思い出し、体験講義の時の蹴りや打撃もできるだけ思いだし、イメージをしていく。
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「よう!リョウ相変わらず変なことやってるな」
見かけるたびに声をかけてくれる、チャビリアンの【狂気のアマゾネス】ことアニマだ。
「秘密の特訓だよ!」
蹴りについて、なんとか現代の有用な情報を思い出そうとして頑張った結果、柔軟運動を始めた。一流の空手家や相撲取りは身体が非常に柔らかい、と聞いたような、ないような……
そもそも機体撃は【柔よく剛を制する】という、どちらかと言えば柔の武術。
【剛よくごり押しで倒す】のこの国の基本とは違うのだ。
相撲取りの関節の柔らかさは、けが防止に非常に有効だという話を聞いたことがある。ような、ないような。
とにかく関節が柔らかくて損はないので、若いうちから練習していこうと思った。
「なんか足をひらいて苦しんでたり、変な奴だな……」
「変な奴でいいから、ちょっと背中を押してくれない?ゆっくり少しづつね」
「押せばいいんだな?……いいぞ!」
「やっぱいいデス、嫌な予感がする」
「なんだ、変な動きで這いつくばってる虫を、後ろから足蹴にしていいと思ったのに」
「違う!そーゆーのじゃない!!」
自室でも柔軟運動や筋トレはできるのだが、精神的な修行と、肉体的な修行で場所を変えるようにした。気持ちのスイッチの切り替えができるように、やる内容で環境を変えるのだ。
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迎えてた剣奴隷スーパーバトルロイヤル当日。
発表された俺のオッズは9位、自分でも驚く上位だが、ある意味有名な特殊トーナメントで優勝し、ここまで大会無敗である。
あり得るオッズなんだなぁ、と思いながら闘いに臨む。
4時間で行われるこの試合は、最初の2時間は降参と場外しか認められない。
残り時間が短くなるほど、リングが狭くなっていき、10m四方になると10秒ルールが適用される。
とりあえずは逃げまくるしかない、まずは人が減らなきゃヤバイ。
「剣奴隷、スーパーバトルロイヤル……はじめ!!」
一目散に中央に向かって走り出す。しかし、不思議な事が起きた。
ほぼ全員中央に向かって走り出しているのだ。
「上位者を見つけたら数で潰せー!!!」
「「「「「おぉーーーー!!!」」」」」
なんか雰囲気が危ない。
「あそこにガルバスのベイルがいるぞー!!」
「数で行けーー押しつぶせぇぇぇーー!!」
有力候補だったのか知らないが、ベイルと言う剣闘士はぼこぼこにされ、場外に投げ捨てられる。
「こっちにチャビリアンのリョウがいるぞー!!」
「追え―!!囲めーー!!逃がすなーーー!!!」
やばい、20人以上が殺到してくる。
急いで逃げ出すが、あっという間にリングぎりぎりに、追い詰められる。
「こいつは簡単に相手を投げ飛ばすぞ、魔法で片をつける!!一斉に撃ちこめば吸収もできないだろう!!」
あ・・・それはまずいっす。
慌ててリング沿いに包囲を突破しに走る。
「近寄るな!!下がれ!!反対が距離を詰めろ、一定の距離を保つんだ!」
(なんだこの的確な指示!くっそ)
そう思って声の出所を見る。
――――知っている顔がそこにはあった。
「カ、カチュア!!」
「やはりあのリョウだったか!山の月からの連戦連勝、無敗を聞いて、リョウと言う名前の人間は、全員おかしい奴だと思っていたら、おかしいのはどうやらお前だけのようだな!!」
「えーっとお久しぶりです。え?これどんな状況です?」
「ずっと前から、TOP100に残りそうな奴に声をかけておいたんだ。協力しないと数で潰すって、有力候補を潰してからやりあおう協定だよ」
「さすが、血は争えないね……」
「……リョウ、スラムが焼きはらわれたという話はホントか?」
「俺も直接見たわけじゃないが、事実なのは間違いない」
学園の調査も入っているんだ。目に見てないが事実だろう。
「そ、そうか……」
「ギャリンさんは万が一の時を考えて、俺宛ての手紙をゴレアンさんに預けていた。もしかしたらカチュアのも、ゴレアンさんが預かってるかもしれない。ここを出たら冒険宿に行ってみなよ。……でも生きててよかった」
「し、しかしもう親子の縁は切れてるのだ」
「俺への手紙であったよ。娘の事をよろしく頼むって。剣奴隷を終えて自由民になるのに盗賊の母はいらないだろうって……」
「……そうか、積もる話はお互いが釈放されてからだな!あたしはこの大会で10位以内に入れば解放されるから、負けるわけにはいかない!」
「うん、そうだね、じゃ俺も協力するよ!」
ここでカチュアが釈放されるなら10位以内に入る協力をしたい。
「ありがとう……では、全員魔法用意、私より右は【火球】左は【風刃】魔法の使えないものは魔法の集中砲火の後に突っ込め、どこでもいい、手足を押さえるつもりで行け!場外に押しだせば勝ちだ!」
「え?ちょっと協力して頑張ろうって言う流れじゃないの?」
「上の者が私情で独断しては、下に示しがつかないだろう。大丈夫多分死なない、先に外で待ってるよ」
「マジかよぉぉぉぉ!」
飛んでくるいくつもの魔法を目の前に、俺は場外へ逃げ出した。
大会の結果カチュアは4位の成績を残し、剣奴隷から釈放されていった。




