恋人の仇は俺がとる!!
とうとう【ベストカップル杯】大会当日を迎えた。
9チーム中、同性同士は3チーム。すべて男同士だ。
女性6名男性12名の数の合わないお見合いパーティのような【ベストカップル杯】が幕を開けた。
俺の年齢と女性とのペアの為オッズは低いと思ったが、9チーム中5位と言うなかなか悪くない順位だ。
どうやらアニマは元剣奴隷で、女性限定大会でかなりの強さで、[狂気のアマゾネス]と呼ばれるなかなかの猛者であるらしい。ランクCの大会からの招待もあるらしく、人気も高い。所詮俺はオマケなのだ。
アッーなカップル3チームは、すべてオッズ3位までを占拠していた。
この大会の肝はやはりロープである。
ロープが切られるというのは味方が敵になり、自分が全裸でさらし者になる危険性がある、勝ってもその後の戦いは厳しいものになる。
速攻で1人をぶっとばし、「即時降参しなければロープを切る」この脅しがおそらく最強の1手だ。
ロープを切られたら勝っても1人、負けたら全裸でさらし者
ロープを切られる前に降参すれば、その試合は負けるが優勝の機会が0になるわけじゃないし、次の試合も2人で挑める。
まぁ俺がやられても、アニマは遠慮なくロープを切り、1人で戦うだろうが。
ロープが切れた時点で降参は不可能になるので、わざと相手をじわじわ追い詰めて楽しむ奴もいるらしいが、あまりいい趣味とは言えない。
観客がそれをみて楽しむのも、この大会の側面ではあるが。
ルールは10カウント式のダウン制、同じく10秒以上の無抵抗状態でもまけ。ロープが切れる前はどちらかの降参でチームの負けとなる。
俺たちの一試合目がはじまる。
作戦は男同士はロープ切って他は残していく。
試合開始の前に相方同士でキスをする。
どうせ本物のカップルなんかいないのだ、いたらそのカップルに1000銀貨賭けたっていい。
「アニマ……キスするときってもうちょっとこう、目瞑ったりするもんじゃないのか?」
「ガキがませてんじゃないよ、ファーストキスが、あたしだっただけ感謝しな」
「別にファーストキスだったわけじゃないさ、そんなうぶなつもりはないんでね」
「へぇその歳で、どこの少女をたぶらかしてんだか……」
「アニマ以上の年上もいるよ……」
「そういやママってのは、世界共通で女だったな」
「俺の母親は多分アニマより若いんじゃないか?」
恐らくそうだろ、アニマは美人のお姉さんだが、30手前くらいだと思う。
「あんた覚えときなよ?」
「あいにく、都合のいいことしか覚えられないのさ」
首をすくめて笑う。
少しでも自分の緊張をほぐす為のジョークだ。
アニマの怒りが敵に向いてくれると嬉しいな……
「それでは試合、はじめ!」
試合開始とともに前に走り出す。ロープに余裕ができるようにアニマが追従する。
かなりのスピードで走ってくる俺らに向けて、相手のカップルの後衛の女性が何かを書いて発動した。
「アニマ、魔法が来る、【風刃】以外なら右に避けるぞ!」
「はいよ!」
――直後前衛の男が横にずれると風の刃が飛んできた。
(ビンゴ!!)
元々左手で風刃の鏡文字を書いていたので、当たる直前に小さいくつぶやく
「吸収」
目の前の風刃が消え去る。
「へぇ……吸収使えるってマジなんだ」
「今みたいに陰で書かれるとやばい、できるだけ距離を詰める!」
「あいよ!」
前衛に突っ込むと、相手が剣を振りかぶった瞬間、右肩からぶつかりに行き、剣の持ち手を掴むと、いつものように投げ飛ばす。駆け寄る後衛をアニマが槍で牽制し、その隙に倒れた男の頭を数度蹴っ飛ばす。
脳震盪が起きてくれれば、10秒程度じゃ立ち上がれない。
「1……2」
審判のカウントが進む。
「おねぇさん。ものは相談なんだけど、降参しません?今ならまだ間に合いますよ?」
「……っ!わかりました。降参します、だからロープは――」
―――その瞬間、俺はロープをナイフで切った。
自分の右手首のロープを……
未だ角度的に、ロープが切られた事に気づかないアニマをロープを強く引き、引っ張る。
「リョ、リョウもう終わったんだ。あんまり引っ張るなよ!」
「アニマ……ごめんね?」
「え?」
右側から振り返ると、ロープの端を掴んだまま左肩から体当たりをし、バランスの崩れたところで投げ飛ばし、頭を何度も蹴飛ばす。
もう切ったロープは投げてある。
相手チームは降参したので、ダウンした奴が起きようが何しようが、こちらの勝ちである。
後はこのまま大人しく、アニマがこのままダウンしててくれれば、万時解決だ。
「9……10!アニマの敗北とする、勝者チャビリアンのリョウ!!」
気を失ったままで、全裸で運ばれていくアニマを見ながら、俺は誓った!
(仇は絶対取るからな!!)
盗人猛々しいとはこんな時に使うのだろうか、と思いながら次の試合の準備をする。
実際ロープで縛られた2人よりも1人の方が楽だ。なにせ後ろからいつロープを切られて、裏切られるかわからないし、ロープで腕を阻害されるかわからない。昼飯はおいしかったが、それとこれとは話が別。いつか裏切るなら使い切ってから裏切るが、それは裏切る選択肢が自分だけの場合だ。
このままで行ってれば、5か6勝あたりで俺は捨て駒にされる。いつロープが切られるかと後ろを気にしながら戦うよりも、前だけに集中できる方が楽である。
次の第二試合。相手はまたも男女のカップル。
「それでは試合、はじめ!!」
「提案なんだけどさ」
「発動!!」
――火の球が飛んでくる。
かなりの距離があるので、避けるのも余裕だがせっかくなので吸収でいただく。
「俺、もうこの先勝ち残れる気配ないんですよね……でも降参もできない。だから全力でロープを切りに行きます。いやなら今のうちに降参してください、刺されようが何しようが、絶対にロープだけは切りますよ?」
「……どうする?」
「……どうせあのガキじゃ勝ちは稼げない。まだ序盤だ、俺たちは安全に2人で進んだ方がよくないか?」
「……そうだね、男ペアは3つとも最初の試合でソロになったし……うん、いいよ」
「わかった、提案に乗ろう。俺たちの負けだ、降参する」
「賢明な判断に感謝します」
第三試合は男のソロだった。カップル杯なのに男同士の1:1だ。
開始と同時に駆け寄り、攻撃を避けると手首を極め、腕をねじ上げる。
そのままうつぶせに倒すと、全身鎧のアニキは立ち上がれず、無抵抗状態10秒で俺の勝ちになった。
相手はほとんど剣闘士だが、ヴォル師範に比べればフェイントもないし、ギャリンのような速さもなかった。
思い出補正というのもあるらしいが、それを差し引いてもあの二人はやはり別格だったようだ。
交渉と駆け引きを使い、時にロープを切りながら勝ちを重ね、終わってみれば全勝優勝で【ベストカップル杯】の優勝を手にした。
優勝賞金で10銀貨が釈放金から減り、新人戦の賞金と合わせて残り184銀貨である。確実だが釈放に向かっていて嬉しい。
もちろん大会の後アニマに追いかけられ、翌日の朝方ドアを蹴破って乗り込んできたアニマ相手に、手を拘束されたまま善戦したが惜敗し、ぼっこぼこにされたのは言うまでもない。
本物のカップルで参加すると悲惨な目に遭いそうですね(棒)




