サバイバル演習の開始!
剣奴隷になって10日が経った。何もする事がない。
さすがは奴隷という事なのか、自由がない。
トイレなどは自由に行けるが、拘束具発動のまま……
食事も、寝る時も。バレスに認められなかれば、剣奴隷は練習すらできない。
コアルから剣闘の試合のことなど、細かく聞いた。
まず最初に剣奴隷になった者は、新人のランクからはじまる。
この新人というランクはたった一回の勝敗で天国と地獄である。
新人戦は性別、年齢、人種を関係なく、抽選による5人によるバトルロイヤル
勝ち残りの1人だけが、フリークラスに上がれる。
残りは全員未勝利クラスに落ちる。
未勝利クラスでは性別、年齢別にグループ分けされ1:1を3連勝するまでフリークラスには上がれない。
フリークラスに上がると性別、年齢、人種によって参加できる試合、参加できない試合があり、自ら申請し抽選に当たるか、剣闘会からの指示によって試合が決まる。
試合はバトルロイヤル、トーナメント、総当たり戦、チーム戦など様々あり、バトルロワイヤルなどでは、魔物や魔獣が混じる事もある。
1番人気なのがバトルロイヤル。理由は簡単だ、1試合で終わり、勝者が1人しかいないのでギャンブルに夢中になる者が夢中になるのだ。
フリークラスで活躍すると、ランクCからの試合に、招待が来るようになる。これに勝つとランクC剣闘士、剣奴隷になり、さらに上のランクBから招待の可能性がある。ランクはAが最高で、空の月10日に行われる覇剣杯はランクA剣闘士、剣奴隷の参加希望者全員で行われる。内容はチーム戦+バトルロワイヤルで、毎年白熱する。2チームに分かれて戦い、勝敗決定後、勝利チームの戦闘可能者で、そのままバトルロイヤルだ。この覇剣杯で優勝するのが剣闘士の夢であり目標である。剣奴隷が優勝すると即時釈放+優勝賞金がそのままもらえる。過去に一度もいないらしいが。
そもそもランクCすらほとんどいない。
理由はフリーランクまでは、剣闘運営本部(国営)の貸し出し装備で戦い、私物の装備は使用禁止である。(もちろんアイテムなども)
しかし、ランクCからは装備の持ち込みが許可される。元々まともな武器なんか持ってない剣奴隷と、自分のお金である程度装備を買える剣闘士の戦いである。[弘法筆を選ばず]とは言うが、装備は選べる方がいいに決まってる。
必然的に剣奴隷は、運営本部からの貸し出しか、剣闘会の会長に頼むしかないのだ。
学園の卒業生が持ち出した魔法剣や有用な装備は、商人の手を経て剣闘士に流れる。ランクCの剣奴隷は種族のおかげか、持ち込んだ装備のおかげである。
ちなみに一度剣奴隷になり解放され、再び犯罪で奴隷落ちの際は、剣奴隷にはなれない。剣奴隷になれるのは人生で一度だけだ。
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あまりある時間の有効活用を考えて、筋トレ、魔力操作、精神の集中を行う。
放出できる魔力が少ないが、体内に流れる魔力は変わらないので、節度を保てば身体強化は使える、飛行魔法は体が軽くなるだけで、浮く気配はない。水はコップ一杯程度は簡単に出せるが、それ以上は時間がかかる。放出量と共に吸収量も落ちているらしいので、今までの魔力操作に加え、魔力を取り込むイメージを付け加える。無駄かもしれないが、とりあえず時間はあるのでやってみる。
次に精神集中をしようとして、現代の頃の苦い記憶を思い出した。
俺には現代の頃、親以上に逆らえない人がいた。近所に住む在家のおじさんで、いろんな意味で怖かった。近所の子供は中学卒業くらいまでは、悪いことをすると、このおじさんの家に連れてこられた。
じっと優しいで目で見つめ、怒鳴る事もなく、ただ静かに話を聞いて、静かに話をしてくれる。
母親が俺と父親だけ残して蒸発し、荒れ狂ってヤンチャやってた時も、急に家に来て
「夕飯を食べにきなさい」
と静かに言われ、当時から料理に興味があった俺から見ても、明らかにわかるほど丁寧に作られた夕飯を頂き、食後のお茶を頂いていると
「つらかったな……今日は泊まっていきなさい」
目を見つめられながら、つぶやくように言われ、布団の中で泣いた。
次の日からもう馬鹿な事はしなくなった。学校にも真面目に行った。
それでも人は繰り返すもので、成人前にやはりヤンチャをして、将来を色々考えていた。無駄に金だけはあったので、恩返しのつもりで有名なお菓子を買って顔を出した時、変わらない穏やかな目で迎えられ、その時に内観を勧められた。
時間があった俺は、おじさんの家で集中内観を行った。
内観とは自分の身近な人をまず一人決め、時系列順に昔の事から範囲を区切って
1、してもらったこと
2、してかえしたこと
3、迷惑をかけた事
の3つの項目の出来事について、感情を挟まず事実だけを思い出していく。
それを一日に何度もおじさんに話し、客観的に自分がどういう人間なのかを見つめていくのが内観だ。
これをすると自分がどういう人間なのか、いままでどう生きてきたかが浮かび上がってくる。
しかし俺は8日ほどの予定の半分もいかずに、俺はリタイアした。
ひどい頭痛と吐き気にみまわれ、実際に嘔吐しておじさんから中止を宣告された。
その後一人でもできる方法を習い、幾度かチャレンジしたがどうしても進めない場所があり、いつしかしなくなっていた。
狭い場所で外界から遮断されていて、暇な時間が多すぎる俺にはうってつけだ。
(今度こそトラウマを乗り切ってやる!!)
現代の記憶から一つ一つ丁寧に思いだし、自分がどういう人間か見つめていく。
そうして時間を過ごし、川の月15日。とうとうミレーネ山脈の演習の日がやってきた。
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「全員集合!!」
剣士風の怒鳴り声で、拘束具を付けた老若男女が馬車から降りる。
パッと見50人以上はいる。
「今日から川の月80日まで、各自この山で生き延びてもらう。逃げたければ逃げろ!約2年後貴様らは死ぬ。80日にこの場所に戻らず、その後見つかった者は、1日あたり1銀貨の釈放金上乗せがある。なおどこに行こうとも自由だが、街への立ち入り、剣奴隷以外の人との接触は、認められていない。違反した者は重い罰があるので、楽しみにしているように!では生き残って65日後ここでまた集合!拘束具の解除を受けた者から好きにしろ。65日間ここに立っていても構わん!以上」
生活魔法もまともに使えない状況で、65日生き延びろと……
まぁ両手は自由だし、なんとでもなるだろう。丁度今年サバイバル関係の本は読んだし、森の中での生活も経験あるし、部屋の中で閉じこもってるよりずいぶん健康的だ、肉も食えるしな!
周囲を見渡すと、すでに絶望している人間が半数以上だ。
戦えない人間はここでリタイアするのか……
拘束具の解除を受けると、大きく手を広げ伸びをする。
周囲では仲間を募集しているが、俺には関係ないので川に向けて歩き出す。飛行練習をしてるうちに、大体の地理は覚えているのだ。
作中の内観は実際にあります。「内観法」や「集中内観」等で検索すると出てきます。
一人で真剣に行うと人によっては非常に危険です。注意してください。
自己観測術と言われますがなかなか面白いです。
作者は行うと一週間くらい聖人のようになります!




