人生初の実刑判決!
カロナムを殺したその日、俺の退学と犯罪奴隷落ちが決まった。
学園に事情を説明し、状況などによる情状酌量の検討がされている。
寮の荷物はすべてひきあげられ、俺は今学園の特別室で生活している。
特別室とはいっても停学対象者用の独房兼反省室である。
カロナムが持ってきた偽造証拠を学園に提出し、香辛料屋のえらむにサインの照会をしてもらうように頼んだ。あの事件の時間違いなくギャリンとの間に何かしらの契約があったはずだ……。
偽造証拠だと決まった場合、学園からハンガー家、ギャスパー公爵家にはかなり重い罰が下ると聞いた。
俺は剣奴隷の道を選び、荷物の整理をする。
私物は持ち込めるのだが、使い道のないお金は持ち込まない。
さらに所有物であっても生き物は持ち込めない為、聖獣はどこかに預けなければいけない。
学園で使っていたナイフは、証拠品として押収された。
残るのはポーチとピッキングツールと左手用の革の篭手、それに魔力阻害袋だけである。便利棒はダンジョン以外で使い道がないので、他の消費物と一緒に二束三文で売った。
ゴレアンさんからは、神からもらったポーチとナイフ3本それに銀時計が届けられた。
持ち込み金の残りは、ゴレアンさんに郵送した。
ゴレアンさんからは荷物と一緒に手紙が届いた。
【バカ息子、さっさと帰っておいで】
これだけであったが何度も何度も読み返し、泣きそうになった。
エリーからも手紙があったらしいが内容を検閲したところ渡すのが許可されなかった。【にげちゃえー】とか書いたんだろうか?
他にも2通の手紙が含まれていてそれぞれを見る。
【リョウへ。これを読んでるなら、あたしはもうこの世にいないはずだ。あたしは親馬鹿だ、息子を殺されて自分のボスですら殺してしまう大馬鹿の親馬鹿だ。娘は自分から罪を償いに行った、生まれどこであろうと犯罪奴隷、剣奴隷を終えると自由民だ。そんな娘には女盗賊の娘なんて肩書はいらないのさ……ほんと親馬鹿ですまないね。娘の告発で確実にあたしにも火の粉はかかるだろう。娘のした事として、親らしく責任をとろうと思う。それと、昔あたしに武術を教えてくれたヴォルグさんが、リョウの師匠だと訪ねに来た。一人でうちの盗賊団全員投げちゃってね……仕方なく事情を全部話したよ、すまないね。理由はわからないがヴォルグさんが手伝ってくれるらしい、万が一はないと思うけど、念のためにこの手紙をゴレアンさんに預けておく。最後に……この手紙を読んだら"あの"場所を掘れ。お前なら多分わかる。PS:あたしに万が一のことがあったらカチュアをよろしく頼む。未来の婿殿に:ギャリン】
「……ギャリン!」
カチュアの為に縁を切ったなんて考えもしなかった。
カチュアが告発すれば自分に目が向けられるのだって、ちょっと考えればすぐわかったじゃないか!。相手は大商人と公爵家だ。逃げてしまえばいいのに……
もう一通の差出人の見当がつき、顔を思い出しながら手紙を読む。
【バカ弟子へ、儂に嘘をつくなぞ5億年はやい。まだまだじゃ、弟子の物は儂の物、儂の物も儂の物。だからバカ弟子の罪も儂の物じゃ、ギャリンから事情を聞いたので、才能もないバカ弟子の相手をするよりも暇つぶしに行くことにした。学園は辞めたが空の月1日までは長期休暇扱いじゃ、儂がいる以上、ハンガー家も公爵家も簡単には手が出せん。億万が一儂の身に何かあった時の為に言っておく、お主は"体"の技術だけはちょびっとだけ才能がある。儂の特訓により、それなりに強い。あとは心じゃ、感情を高ぶらせては見えぬものもある。感情操作の修業をせよ。本題じゃが今後の人生で、女の機体撃の使い手に会ったら、勝ち負け関わらず全力で逃げる事!!関わる事を禁ずる。バカ孫の[機体撃師範代]リョウへ:[機体撃最高師範]ヴォルグ・ガシウキ】
「ヴォル師範……」
闘技祭の時も一番心配してくれたのは、ヴォル師範だったじゃないか……
ことある修行でミスするたびに罰金があったが、実際に払わされた事なんて……あれ?何回かあるや
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情状酌量の検討中に、聖獣の預け先を決めなければいけない。
特に飛竜は預けるのが困難だ……
まずは犬、こいつの行先は決まっている。なにせこいつは俺の聖獣じゃない。ルーアから預かっているだけなのだから……
3284エギラムで売って、3284エギラムで預かっただけだ。
学園に依頼して送ってもらい、3284エギラムを将来回収して終わりだ。
次にヒヨコ、放し飼いでもいいいと思ったが、剣奴隷期間がどれくらいかわからないのでアルベルトの父に預ける事にした。
生まれた子供の権利はヒヨコと相談してください。と書き銀時計を同封し、犯罪者になってすみません。と手紙を書いた。2日後に手紙と共に時計は返ってきた。
【リョウ君へこの時計は君にあげた物だ持っていなさい。詳しい事情はまだこちらには入っていないが、賢い君の事だ何かあっての事だろう。何があろうとも私は君の友人だ。奴隷期間が一刻も早く開ける事を願っている。君の相棒は責任を持って預かる、預けてもらって非常に嬉しいよ。身体に気を付けて:ロンデル・ロミスカ・フォブスリーン】
最後はファラクだ……
学園長に面会を求め2人きりで話す。
「馬鹿な事をしたもんじゃ」
「……すみません」
胸が苦しくなる……
「ハンガー家とギャスパー家じゃよ」
「へ?」
「お主は大馬鹿じゃ……」
「すみません」
「ハンガー家と公爵家はすでにカチュア氏の告発の報復でスラムを焼いたことが認定され処分待ちじゃ」
罪が確定したのか!
「ハンガー家は首謀者が死亡の為罰金で弁償じゃろうが、おそらく払いきれん、証拠捏造、大量殺人に加担、脅迫。さらにここぞとばかりに王国もこれまでの罪を追求し、もう終わりじゃ……」
「ギャスパー家は?」
「男爵に降格、領地の没収。さらにさまざまな商家からの借金の督促が来ていて、もうどうにもなるまい」
「……そうですか」
ハンガー家とギャスパー家からの報復に関しては一安心だ。
「仕方ないとはいえ、お主の罰はそれなりの物じゃ。正当防衛はちと無理があるし、儂では何ともできんのじゃ……」
「いえ……罰は覚悟の上です」
「すまぬのぅ……」
学園長が私的に恩赦などをすれば、学園の絶対性が崩れる。
「最後に一つお願いが……」
「なんじゃ?可能な事なら叶えよう」
「ファラク……飛竜を貰っていただきたい」
「っ!!なんじゃと!!?」
「あの飛竜は雌です。たった1匹で、国を左右する戦略兵器になりえます」
「雌じゃと!!」
「あの飛竜を狙って国中から、いや他の国からも様々な人が来るでしょう」
「し、しかし……」
「最大の抑止力は力です。学園なら下手に手を出すこともできないし、飛竜+第三級特異点と言うのは、1国に並ぶ戦力だと俺は思っています」
「……儂が悪用したりしたら、どうするつもりじゃ?」
「どうせなら小さい悪より、世界征服とかしてほしいですね!そしたら仕事が無くて給料たくさんもらえる役職にしてください!」
「はっはっは!世界征服か……それも面白いのぅ!しかし飛竜は預けるではなく譲るでいいのか?」
「俺が持ち主だと色々面倒になりそうですしね、一応俺の許可なく販売したり譲渡したりしないと約束してください。……あとたまご目的の繁殖も」
「うむ……わかった。責任を持ってお主が戻る日まで守ると誓おう」
「ありがとうございます。では学園長……身体に気を付けて」
「うむ……リョウよ、また逢う日まで健やかであれ。帰ってくる日を待っておる」
翌日、俺の剣奴隷での釈放金が決まった。
金額は195銀貨。戦士風の男の殺人が思いのほか大きいようだ。
その日剣奴隷用の魔力抑制魔法を受ける。
この魔法はどんな人間も魔力放出量、吸収量が一定以下に抑え込まれ、高位魔法はもちろん生活魔法ですら、わずかにしか使えない。
この魔法は2年ごとに更新して受けなおさないと、魔力抑制が最大になりその後約1月で死ぬ。この世界では魔力も生きるために必要なので、体外魔力を一切取り込めないと、体内の魔力を消耗する一方となり、魔力がなくなった時に死ぬ。
更新と解除は最初に魔法を受けた魔法陣でしかできないので俺の場合は学園である。
こうして、1年と180日近くを過ごした学園から、俺は去った……