苦渋の決断!
カロナムさん宛てに返信の手紙を出しから3日後、学園内で商談という形で会う事になった。
少し早めに目的の部屋に着きソファーに座る。ファラクは部屋をあっちこっち飛んでいる。
しばらくするとノックがされ、返事をするとソファーから立ち上がりカロナムさんを迎える。
講師に続き、戦士のような人、そして最後に入ってきた人……俺はその人を知っていた。
――セキロムの父親だ
思わず固まり凝視してしまう。
「お会いするのは2度目ですね、あの時は名乗らずに申し訳ありませんでした。カロナム・ハンガー、オキシーラ商会の店主もさせていただいております」
完全にやられた……うかつすぎた、俺を疑うであろうセキロムとガロンの父親の名前すら俺は知らなかった……
「普段はギャスパー公爵家御用達、ハンガー商会の会長ですが、先日オキシーラ商会の会長から店を一つ買いましてね。オキシーラ商会の店主も務めております。わたし程度に遠慮などせずお座りください。リョウ君」
最後の"君"の部分には明らかなにやつきがあった。
「先日君の家にもお邪魔してね……いいお母さんとお姉さんだ。大事にするんだよ?」
ソファーの横で固まったままの俺にそう告げる。
これは明らかに脅しという副音声が混じっている。
意を決してソファーに座る。
ここからは戦争だ。相手が何を考えてるか、何を企んでるか瞬時に判断し場を支配しないと絶対に手遅れになる。
「ほ、本日のご用事は?」
「今王国で大注目の飛竜を見せてもらえると聞いてきたんじゃないか!これは立派だな……っっ!!」
ファラクをみるカロナムの顔に明らかに驚きの表情がはしった
「はい……ダンジョンから拾ったたまごから生まれました……」
「学園で生まれている以上聖獣じゃない方がありえんか、ふむ……ぜひ商談がしたい。できれば人払いを願いたいのだが……」
そう言って講師の方をちらりと見る。
「双方合意の元であれば席を外します。いかがなさいますか?」
「……」
「聞かれたくない話もあるだろう?君のとっても悪い話じゃない」
間違いなくセキロムとガロンの件で何か知っているセリフだ
「すみません……外していただけますか?」
「はい、ただし部屋の中で何が起きても学園は一切関知しません。ただし、脅迫、暴力行為があった場合は学園内の法に基づき処罰があります、ご注意ください」
そう言って講師はいかつい戦士風の男をみる。
「ここに入る前に身体検査を受け武器は一切持っていない。リョウ君は高位魔術も使えるらしいじゃないか、この距離なら君の方が強いのじゃないか?」
戦士風の男はソファーから離れた入口横に立っている。
「大丈夫です。同席感謝します、ありがとうございました」
「お時間は1時間までです。終わりましたら職員室までお越しください」
そういって講師は部屋から出て行った。
部屋から出て行ったのを確認するとカロナムはポケットから1つの球を取り出し握りつぶした。
「これは防音球と言って半径3m以内の音を遮る。商談の際に非常に便利でね。さて2人きりの話をしようか……リョウ君」
「……何が目的ですか?」
「その前にそのナイフを預かってもいいかな、私のテーブルの前でいい。こちらは何も持っていないのに君だけ武器を携帯しているのは公平な話し合いの妨げになるだろ?」
「……ナイフも高位魔術も武器に変わりませんが?」
「話し合おうという明確なサインだよ。君にとっても悪い話じゃないんだ、穏便に行こうじゃないか」
何かあっても高位魔術があればなんとでもできる、むしろ魔法が封じられる方がつらい。防音以外にも魔法を使えなくする球など使われてはたまらない。
「わかりました、しかし万が一の為、高位魔法を使える状態は維持させていただきます」
ナイフをカロナムの前に置く
「噂道理の賢さだ、よろしい大人の話し合いをしようじゃないか」
「要件はなんですか?」
「公爵家の次男とうちの息子を殺した件について黙っててやる。代わりに飛竜をよこせ」
先ほどとは打って変わった形相と覇気で迫る。
「何の事だかわかりません」
「隠しても無駄だ、パラル、ラウリー、レン、エスメダ、ガイこの5名の生徒がうちの息子主導で殺されたことが告発された。証言したのは自首したカチュアとか言うくそ女、うちの息子と公爵家の次男は揃って同じ日に行方不明だ」
「理由はそれだけですか?」
「公爵家の次男とは闘技祭で殺し合ったあげく反則負けしたらしいじゃないか」
「殺し合いなんかしてません」
「うちの息子がやっていた融合魔宝石の収集、ある日事故で死んだメンバーがクロウェルとロキスウェルという生徒。生き残ったのは告発されたメンバーとルーア。さらにこの日君はダンジョンに潜っているのが確認されている」
「何を言いたいのかさっぱりわかりません。だから俺が殺した……そう言いたいわけですか?」
「妙じゃないか、これだけ事件にかかわる人間と関わりあっていながら、唯一無事な君、おおかたルーアに金でも掴ませて、うちの息子を窃盗犯に仕立て上げ借用書を奪い取ったんだろう?」
「証拠がありません」
「証拠ならあるよ……君ルーアに示談金として100銀貨上乗せしたと言っていたよね?」
「……」
「確認したところ彼女の借金は170銀貨相当のはずが既に60銀貨弱だ……」
「娼館でいい客でも掴んだんじゃないんですか?」
「あの店は娼婦になるのは15からだ、消えた100銀貨は……どうやって消えたんだろうね?いや、元々あったのかなぁ?170銀貨もの借金が……」
「何がおっしゃりたいんですか?」
「ルーアと結託してうちの息子と公爵家の次男を殺しただろ?」
「証拠も何もないただの推察だ」
「証拠ならある、たまたまだが、先日ある犯罪者を取り締まった。その犯罪者がね、語ってくれたよ。君がうちの息子と公爵家の次男を殺した事を……」
「そこら辺の犯罪者に金を積めば誰でも証言してくれるでしょう。何の意味もない」
嫌な予感がする……
「そこらの犯罪者じゃないから証拠なんだ!!」
そう言って見せられた紙にはこう書いてあった。
【セキロム・ハンガーとガロン・フォン・ギャスパーを殺しわが娘カチュアを脅迫し自首させパラル、ラウリー、レン、エスメダ、ガイの5名を殺したと証言を強要したのはジュビリー学園基礎教育2年第0寮リョウである:ギャリン◆】
◆マークにはサインがある、しかしギャリンの字ではないし、何度か見たことがあるギャリンのサインではない。
ギャリンがわざと偽のとすぐにわかる証言を書いてくれた?
「これはギャリンの字ではないし、サインも偽物だ。根城を調べれば本物のサインやギャリン直筆の文字が書かれたものが出てくるはずだ。これは偽物だ!!」
「ないよそんな物」
「なんだと!?」
「だからそんなものはない、スラムは先日公爵の私兵団の手によって焼き払われた。根城どころかスラムすら残っていない。これが唯一の直筆だ」
「っ!!ギャリン本人に確認をとれば……」
「だからもういないと言っている。盗賊団は全員抵抗して死んだ。女頭目とやたら強いじじいがいたが範囲魔法にて焼き払われた。これはその前日に書かれたものだ」
「う、うそだ……ギャリンが、スラムがなくなったなんて嘘だ!!」
「元々税金も払わない吹き溜まり、証拠もないくせにカチュアとか言う女盗賊の娘の証言だけでうちと公爵家に泥を塗りやがって!報いを受けたのだ!!」
この人生最大の怒りが血が湧き立つ。セキロムやガーリーの時の比ではない。
「てめぇぇ!!!」
「君がここで怒りのまま私を殴ってくれると非常に助かる。まぁどちらでもいいのだが……」
そういって俺のナイフを手にする。
思わず高位魔術の準備をする
……次の瞬間
――――カロナムは刺した……自らの腕を
「さぁリョウ君ここからが交渉だ!」
突然の事にあっけにとられる。
「君が大人しく飛竜を渡すなら、私はこの証拠を燃やし黙って帰ろう。この件について知っているも部下は全員始末した、知っているのは私だけだ公爵閣下すら知らない。契約魔法をかわしてもいい、君が渡さないならこの証拠を今ここで君に刺されたと叫び、君が捕まっている間に君の大事な家族は死ぬよりつらい目に遭う、君が飛竜を渡すまで毎日1cmづつ輪切りにしよう……さぁどっちを選ぶ?」
「っ!!!!そこまでして飛竜を!」
「元々息子を殺した犯人を探していたんだがね……飛竜となれば話は違う、飛竜1匹で貴族どころか国を乗っ取る事も可能だ先ほど見させていただいたがこの飛竜は雌だ!!新たな飛竜王国が作れる!!」
「腐ってる!!!!」
「汚くなければ商人にはなれん!!私だけでなく、国中の商人、貴族が狙っている、すぐに国外にも話は行くぞ!私なら有効に使ってやれる、さぁ私に渡せ2000銀貨程度なら金も払ってやる!」
だめだ話がいきなりすぎて……飛竜を渡すことはできない。こんなやつには死んでも渡さない。でもここで意地を張って犯罪者になるのはいいが、ゴレアンさんとエリーが!!!
……まてよ?抜け道があるじゃないか!!
「わかりました」